07
程なくして斎藤くんも無事に合流し、その後はまた4人で閉園直前まで一緒に行動することが出来た。
来た時よりも大きく気分が変わった私は、斎藤くんと驚くほど自然に話せ、あの子にも「名前ちゃんが元気出て良かった」とそっと耳打ちされるほどだった。
けれどその一方で、私は前よりも上手く、沖田くんの方を見ることが出来なくなっていた。
7.のんだ薬は苦かった
「総司、名字、気をつけて」
「二人とも、また来週ね!」
遊園地からの帰り道。あの子と斎藤くんは向かう方向が一緒で、私と沖田くんは最寄駅も、そこから先も途中まで一緒だった。
4人だった時とは打って変わり、自然と足取りが重くなる。
ゆっくりと、二人とも何かを切り出そうとただひたすらに歩いている気分になる。
彼の気持ちにずっと気付かなかったのは、私が自分のことばかりでいっぱいいっぱいだったからだ。
ここしばらくは二人でいることも多かったのに、その時間の中で、私は彼の瞳を覗くことはなかった。
そしてそれは沖田くんも一緒。
よく考えればわかることだ。
私も、そして彼も。
目を向ける先は、いつだってあの窓の外だったのだから。
普段なら10分もかからない道のりを倍くらいかかったのではないかと思うぐらい時間をかけて進み、岐路に辿り着く。
そこでぴたりと足を止め、沖田くんはようやく私の方へと顔を向けた。
「名前ちゃん」
「一くんには、伝えたの?」
何を、と言わなくともわかるその言葉。
そして私が斎藤くんに伝えようと思っていたことが、同じ一日での出来事とは思えないほど、遠くに感じた。
ずっとずっと遠くにいた斎藤くん。
こんなに近くで、そして彼の隣にいれる日が来るなんて、数日前の私には想像もできなかったに違いない。
夕焼けに照らされた彼をじっとみつめた後、私は視線を落としゆっくりと首を横にふる。
「私は、大丈夫」
一緒に過ごせただけで、幸せ。
だから、どうか。
「沖田くんは、言えた?」
私の言葉に、目の前の彼はその瞳を見開いた。
その反応は、想像していたと同時に鋭く心に突き刺さるものがあった。
わかっていたはずなのに、事実を突き付けられ、何故か胸が軋む。
私の眼を捉えた翡翠の瞳が、一瞬ゆらりと揺らめいた気がした。
けれどもそれも束の間。
茜色が映る瞳は直後静かに伏せられ、薄い笑みとともに私と同じようにその首を動かした。
「そう…」
それっきり、私たちは何も言わずただ佇んだ。
それは空が夕闇色に染まるまで。
不思議と私は"悲しい"とは思わなかった。
けれど、沖田くんは?
きっと私よりも、ずっと近くで、ずっと"あの子"を見てきた沖田くんは?
どうかあなたも、幸せだと思えたらいいのにと願う私は、エゴの塊でしかないのでしょうか。
暗闇に紛れ去り際に見た彼の顔が今にも泣き出しそうに見えたのは、私自身が今にも泣きそうだからだと思いたかった。
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