16


「ヒストリアを安全な場所にお願いします。」


落下した時に汚れたマントを払いながら近くに居た駐屯兵に彼女を託すと、緊張した様子で「は、はい!」とヒストリアの後ろを歩く。


ヒストリアと入れ違いでエルヴィンが私の元へ来たと同時に「礼拝堂へ向かいます。」と真っ直ぐと見上げる。有無を言わないよう圧をちょこっとかけて。


ヒストリアの護衛に私に就けと言われる前に、先に向か居た場所があると。私の緊迫した様子にエルヴィンは「明日の任命式までに戻れ。」とだけ告げヒストリアの後を追った。


「エミリーさん!」


ヒストリアは振り返り。私の呼び止める。


「ありがとうございましたっ!」


お礼を言われるようなことは何もしていな、すべて彼女がしたことで。私はそれをただ見守ってただけだった。


スッキリした顔で言うヒストリアに敬礼をし頭を下げ壁の反対側に降りると、リヴァイが下で待っており一人の部下を連れていた。この3人で最短の距離で礼拝堂を目指す。


小さな彼女がこの壁の王になる。彼女の次の仮面は壁の女王。守れなったのになぁ…。私は謝ることしかできないのに彼女のやさしさなのだろう…。






礼拝堂付近に到着したのは、日が傾き始めたころだった。到着し馬を降り辺りを探した、生き残ってるかもしれない兵士たちを


「アメリアさん!」


リヴァイと共にケニーを探していた兵士が私の方に駆け寄り慌てた様子だった。その様子に見つかったのだとわかって、急いで彼の後を追った。


兵士は銃を向ける。


「ほかに生存者が居ないか見てきてくれる?私たちはこの人に聞きたいことがあるから」

「わ、わかりました。」




「ケニー。」


私が両足を跪いて呼びかけると、片目を開け私を見つめる。ケニーの状態はきっともう手遅れ、間に合わない。


「大やけどにその出血。あんたはもう助からねえな」


リヴァイのその言葉にわかりきっていた事なのにも関わらず、心は凄まじい勢いで感情が入り乱れる


いやだ。いやだ。ケニー、ねえなんで?どうして私の前から居なくなったの、どうして私の事を見つけてくれたの。



…シアンって…誰なの。


「いいや、どうかな。」


お腹を押さえ目を閉じながら聞いていたケニーが、突然ゆっくり口を開き血の付いていない方の右手で私の前髪を撫で額を出すようにかき分ける。その行為がとても寂しくて哀しかった。


頬を撫で懐から小さな小箱を取り出し中身を見せるように私達の前へ出した。


「ロッドの鞄から1つくすねといたやつだ。どうもこいつを打って巨人になるらしいな。アホな巨人にはなっちまうが、ひとまず延命できるはずだ」

「それを打つ時間も体力も今よりかあったはずだなぜやらなかった」

「ああ なんでだろうな」


そういうと私の方を見て、また目を伏せる。


「ちゃんとお注射打たねえと。あいつみてえな出来損ないになっちまいそうだしな」

「ケニーはそんな聞き分けがいい人じゃないって知ってるよ。」

「もっとマシな言い訳はなかったのか?」

「ああ 俺は死にたくねえし力が欲しかった。でも…そっか…今ならヤツのやったことわかる気がする」


突然笑いはじめ肩を揺らすケニー。


「俺が見てきたやつらが皆そうだった。酒だったり女だったり神様だったりもする。一族。王様。夢。力。子供」


片目でしっかりと私の方を見つめ力強く話す


「みんな何かに酔っ払ってねえとやってられなかったんだな。みんな何かの奴隷だった。あいつでさえも…。」


むせ吐血したケニーの血が頬にかかる。その血を拭うように私の頬に手を当て擦る。


「エミリー…お前は何だ…自由か?」


虚ろな目でみつめる彼に、目の前が歪み支えきれなかった雫が頬を伝う。リヴァイはケニーに掴みかかる


「ケニー!知っていることを全て話せ!初代王はなぜ人類の存続を望まない!」

「知らねえよ。だが俺らアッカーマンが対立した理由はそれと こいつだ。」

私の頭にポンと手を置きッハっと笑う。

私?どういうこと


「俺の姓もアッカーマンらしいな、あんた本当は母さんの何だ?」

「ハハッ バカが ただの兄貴だ」


ケニーは リヴァイの おじさん…。



「あのときなんで俺から去っていった?」
(どうして私の前から居なくなったの。)

私の気持ちが重なったようにリヴァイが苦しそうに尋ねる。



「俺は人の親にはなれねえよ。」


小箱をリヴァイの胸に叩きつけた後、私の腕を掴み引き寄せ耳元で絞り出される声


「お前は 笑えてるか。

母親に似て、 男を 見る目がねえな。」

「私のお母さんの事知ってるんでしょ」

「知らねえよ。」

「私の一族のことは」

「…。」

答えてくれないけど、それは肯定といこと?



「私のお母さんの事好きだった?」


「かもな。」


「ねえ置いて行かないでよ。」


縋りつくように出た言葉。この世界にきてから私はずっとこの別れを何度も何度も繰り返してる、出会う数より別れの数の方が多くて。気持ちの均等を保つのにも疲れてきた。


「っハ、お前も女になったなあ。 あいつが、居るだろ。」


荒く私の頭をなでそういってリヴァイの方を見る。


「エミリー 笑っててくれ。 」


「ケニー…?」


私の左側にのしかかる重さが増す。


「ケニー…?」


木にもたれさせ、ゆっくりと瞼を閉じる。


もっと聞きたいことがあった。もっといろいろ話したかった、久々の再会がこんな形だなんてあんまりじゃない。憲兵に入らなかったから?いい子じゃなかったから?


涙は止まることなく流れ続け、私の幼少期を知る数少ない唯一の人が居なくなった。


ケニーの血を綺麗に拭き取り首元へ腕を回し名前呼び続ける。


「ケニー…ケニー…。」


私のお母さんに会えてよかった?私のお母さん綺麗だった?私とそんなに似てた?



「辺りを探してきましたが、誰一人見当たりませんでした。」


先ほど別れた兵士が来て、バサッとフードを掴み深くかぶり立ち上がる。だけど足が動かない、この場から離れたくない。足に木の根が巻き付いてるようなそんな感覚。


「エミリー。」


あなたは何に酔っ払っていたのかはわからない


最後まで教えてくれなかったね、お母さんとの思い出。

そんなに独り占めしたかったの?娘の私に教えてくれてもよかったじゃない。





「帰りましょう。」


馬の元に行き、ケニーを目に焼き付けフードの裾をクッと掴み下唇を強く噛み涙を止めようとするけど全然止まってくれない。

そんな私を心配する様に同行した兵士が私をきにかけているのが分かり。口元だけ微笑み馬に跨り蹴り上げる。


私の横にリヴァイ、戦闘に同行兵士が走る。


ロッドレイスの這った後を眺めながらケニーとの思い出に浸る。


「おい。」


リヴァイの呼びかけに私たちの前を走っていた兵士も反応し振り向くと、リヴァイと目が合わなかったのか前を向き直すのが見えリヴァイの方に顔を向けると


「あいつとは、どういう関係だ」

「…友達」


あながち嘘ではない、仕事をさぼってリリアの所にきては私に色々教えてくれるおじさん。家族とかじゃくて近所のおじさん、そんな薄い関係性とも思えなかった。


「ああ?」

「ナイフの持ち方、やっぱりケニーだったんだね…。お互い最悪な師をもったものね。」


私達の会話に聞き耳を立てている、あまり気分はよくない。


「私の話はまた後で、私の記憶してる範囲で話すわよ。」


明日のヒストリアの式典に参加するために、馬の速度を上げる。こんな姿じゃさすがに皆に会えない。


私は何に酔いしれ今を生きているのだろうか、自由か夢なのか仲間なのか。考えたことなかった。そんなことどうでもいい、私は私であるために生きていく。


私の知ってることのケニーはあんなにも老けてただろうか、時の流れは本当に早い。


私のお母さんはいったいどんな人だったのだろう、どんな気持ちで私を産んで居なくなったのだろう。あのケニーを落とした私のお母さんはただ物じゃないんだろうな。



日がすっかり落ち壁内に到着した、壁上を馬で走り内地へ目指す。壁上を走る前に同行した兵士と分かれ2人でエルヴィンの所へ向かう。私達が向かう頃には同行した兵士さんの伝言のおかげなのかエルヴィンの準備なのかわからないけど私達を下ろすリフトが準備されていた。

フードを取り私達の事を待っていてくれてた駐屯兵に挨拶をし、地上に降りた際数名の2名駐屯兵が待っていた。



憲兵が私の前に立ち。


「エミリー・アメリアだな」


1人の憲兵がフードを取った私の前に一歩進み見下ろす。


「そうですが、何か?」

「総統からの伝令です。ヒストリア王女の即位後、調査兵団を退団し彼女の側近として行動を共にしてもらう。」


どういうこと。チラッとリヴァイを見ると寝耳に水のような反応だった、もちろん私も。


「エルヴィンは?」

「調査兵団団長の意見などに意味を持たない、これは女王の意思だ。」


ヒストリアが私を縛るようなことをするとは思えない。私達一族が王の側近をしていたという事実をしってるとも考えにくい。


「ヒストリアに会わせて。」

「女王はもう休まれて「会わせて?側近になるんでしょ?私」」


憲兵が折れ駐屯兵に女王がいる場所を案内する様に伝え、エミリーの前に立ち案内する様に頭を下げる。

彼女元に向かおうとしたらガシッと腕を捕まれ後ろに倒れそうになったが踏ん張り振り返る。

目を細めエミリーの様子を伺いながら何かいう事があるだろうとでも言いたげな顔で眉を動かす。


「あいつらは嘘を言ってる。絶対に戻るからエルヴィンと一緒に待ってて。世間話でもして。」


リヴァイと少し見つめ合ってから視線を後ろで待機する駐屯兵に向けながら小声で話し口角をあげ少し瞳に憎しみを込めた様子で駐屯兵の方へ顔を向けた。














「ここからは私が引き継ぎます。」

総統局前に到着すると私たちの前に人影が現れ、聞き覚えのある声がした。


「やあ。」

「リアム…。」

「なぜお前がここに居る。」


あー今憲兵団は大変なんだっけ?


「俺は憲兵であって中央憲兵じゃないからだけど?彼女の同行者を私に一任すると女王は容認している。君たちはここまででいい、あとはこちらで引き継ぐ。」


そういってエミリーの肩を抱き自分側に引き寄せ中へ入っていく。駐屯兵はなにも言い返せる言葉がなくそのまま2人の背中を見守ることしかできなかった。


「…嘘がお上手ですこと。」


こんなにも嘘つきだらけだと、さすがに私も嫌気がさした。


「さすがエミリーちゃん。君には通用しないと思っていたよ?」


悪い素振り見せることなく、彼女の隣を歩き笑顔を振りまく。


「憲兵は大丈夫なの?」

「まあ、中央憲兵は解体で新しい体勢になるとは思うよ?」

「リアムは大丈夫なの。」

「俺の心配してくれるなんてね。」


彼の明るい声に少し眩暈がしそうになる、こんなにも楽観的な性格だったかと考える。


「まあ冗談はこれくらいにして。」


赤い大きな扉の前に立ち止まり微笑むリアムに、この場にヒストリアがいると思いゆっくり息を吸って吐く。

コンコンと扉を叩くと、明るいヒストリアの声が聞こえリアムがドアノブに手をかけ扉を押す。


「エミリーさん!」


待ちわびてたかのように私に駆け寄り、両手を握りしめるヒストリア。


こんな広くて静かな部屋に1人で居るのは心細かったのだろう。彼女の手を離し頭を下げると「…やめて…。私まだ女王じゃないです。」と少し困った様子のヒストリアに笑みがこぼれる。

その様子を微笑ましそうに静かに見守るリアムにヒストリアが気付く。


「リアムさん、ありがとうございます。 訓練兵の時にお世話になった人が居て、少しは気が紛れました。」


彼女のその様子をみて、エミリーが嘘でしょ…。さっきの話本当だったの…。ほんとに策士なんだから…と呆れたようにリアムを見ると嬉しそうな様子でさらに頭が痛くなった。

まあヒストリアの立場からしてみたら突然、むさくるしいおじさん共に囲われこんな場所に閉じ込められたも同然で不安しかなかったでしょうね。


「ヒストリア、側近の話なんだけど…」


その話をすると「…っぁ。」と気まずそうなヒストリアの様子をみて先ほどまで居たであろう机の上の書物に目を向ける。


「ごめんなさい」と申し訳なさそうな顔で私に頭を下げるヒストリアに笑みが零れ抱きしめる「私は約束破ってばかりなのに、あなたは私の為に本当にありがとう」と囁くと安心した様子で私の右肩でぶんぶんと頭を振る。ヒストリアは私の腕を引いてベッドに私を座らせ書物を私に託した。



受け取ったのはいいけど、なんだか見るのが怖くなってきた。


「…一緒に見る?」


とヒストリアに言うと困った様子で「い、いいんですか?」と聞いたあとリアムがすかさず


「じゃあ俺も。」

「リアムは早く帰ったら?役目終ったでしょ?」


とひと蹴りしてヒストリアに助けを求めるような目をするが


「ありがとうございました。」


私の一族の記録を一緒にみるのが楽しみなのか心のこもっていない礼を投げかける彼女に、意外と肝が据わっていておかしくなった。

残念そうにリアムは「扉の前で待ってるよ」と声をかけ出て行ったのを見て


2人の目線はエミリーの手元にある1冊の本に移る。


「中見た…?」

「ごめんなさい…取るときに手を滑らせて…落としてしまって」


彼女が嘘を言ってるように見えず、気にしないで。とだけ返しゆっくり表紙をめくった
























































―我々の意思を継ぎ、人類の未来を信じる者へ―



大いなる兄弟よ。我々の希望よ。





王や巨人など居ない、すべての始まりは人類だ。
幼子は無垢だ、忘れ、遊び駆けまわる車輪の様に。



再び我々の真意を行動で示すのだ。



君に問う。愛とはなんだ?幻想とはなんだ?壁とはなんだ?正義とはなんだ?


人類は夢や幻想や争いや平和や愛や憎しみなどを追いかけ狼狽える。



言葉巧みに、欺き騙す者よ。
平和への道はない。平和こそが道なのだ。





人類は網のようなものだ、1本の網だ。





我々は君を待ち続ける。
我が兄弟よ、愛と希望にかけて願う。




君の魂のなかの英雄を投げ捨てるな。
君の最高の希望を聖なるものとして持ち続けよ。



正義のないところに自由はない。
自由のないところに正義はない。




戦い続けよ、抗い続けよ、求め続けよ



君は我々の誇りだ。


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