13
「整理してみよう。」
ロッド・レイス曰くエレンの持つ巨人は”始祖の巨人”というもので、その力はレイス家の血を引くものが持たないと真価を発揮できない。
けど、レイス家の人間が始祖の巨人の力を得ても、初代王の思想に支配されて人類は巨人から解放されることはない。
「へえ すごく興味ある」
「これが真の平和ねえ…」
「面白いことを考えてくれるじゃないか」
「話を聞いた限り選択肢はいくつかあるわね。」
エミリーの声に思い詰めた様子のエレンが重い口を開く。
「俺を、あの巨人に食わせればロッド・レイスは人間に戻ります。 完全な始祖の巨人に戻すことはまだ可能なんです。」
エレンがその選択を選びたがってるように聞こえ、悲しく思ったけど。これ以上人類の未来の為といって彼の尊厳を奪っていいものかもわからない。
だからと言って、ロッド・レイスがエレンを食べて人間に戻ってもまた都合のいいように記憶を改ざんさせる可能性の方が高い。
今まで、先祖代々この閉鎖的で破滅的思想の持った一族が…。
「そうみてえだな 人間に戻ったロッド・レイスを拘束し初代王の洗脳を解く。これに成功すりゃ、人類が助かる道は見えてくると…そして エレン。お前はそうなる覚悟はできているといいたいんだな。」
エレンはリヴァイの呼びかけに「はい」と答える。
「エレン そんなこと…」
「ひとついいかな?」
エミリーの透き通った声がミカサの声を遮り響く。
「ロッド・レイスが初代王の洗脳を確実に解ける保証がどこにあるの?人間に戻って拘束したとしよう、その後に記憶を改ざんされたら?」
「エミリーさんのおっしゃる通りだと思います。エレンの言うやり方にはあまりにも問題がありすぎます。人類の記憶を改ざんをされたら終わりです。つまり、始祖の巨人の力について未知の要素が多すぎると思います。」
「「確かに」」
「今のロッド・レイスがエレンを食べて、まともに元に戻るのかってこと自体何一つ確証がないしね」
「むしろ あの破壊的な平和思想の持ち主から始祖の巨人の力を取り上げている今の状態こそ人類に千載一遇の好機なんです。」
ヒストリア。あなたは、訓練兵時代はすごく心配だったけど。内に秘めてたあなた自身の小さな灯はしっかりと育っていたのね。
「…だから、イェーガー先生は自分の手を汚してでもエレンに託したんでしょ。」
「あなたのお父さんは初代王から私たち人類を救おうとしたんだと思います。姉さんから始祖の巨人の力を奪いレイス家の子供たちを殺害したのも。それだけの選択を課せられたから」
――――エミリー、ミカサやアルミン。みんなを救いたいなら。お前はこの力を支配しなくてはならない。
エミリーから離れるな、彼女はお前を導く。
エレンは何かを思い出したか様に頭を押さえ、動揺しエミリーの方を見る。エミリーはパチッと目が合い軽く首を傾げ「どうしたの?」と声をかける。
「そうだよ、あのイェーガー先生が何の考えもなくそんなことするわけがないよ。」
「そう レイス家の血がなくてもきっと人類を救う手立てはある。」
「だから、イェーガー先生はエレンに地下室の鍵を託したんでしょうね」
「地下室って? ああ あれですね つまり大事ですよね」
「ああ うん」
「壁の穴を塞ぐめどが立った、選択肢は一つしかねえだろ。」
「少しはマシになってきたな」
「私も そっちの選択に賛成だ。」
「けどね、ヒストリア。わかってると思うけど、あの巨人を壁の中までお散歩させてあげるほど私たちは優しくないよ。あの大きさだと拘束もできないから。
だから…あなたのお父さんを殺すことになる。」
エミリーの方を見ていたヒストリアは、彼女の横から見える巨人化した父親の姿をじっと見つめる。
「エレン ごめんなさい。」
「え?」
「礼拝堂の地下で、私は巨人になってあなたを殺そうと本気で思った。 それも人類のためなんて理由じゃないの。お父さんが間違ってないって信じたかった。お父さんに嫌われたくなかった。」
家族はどんなことがあっても愛してくれるのかな、私も家族を知らないし、家族の在り方などわからない。けどヒストリアの言っていることは普通の事で、誰だって親の期待を裏切りたくないだろう。
それに付け込んで自分は巨人になりたくないから、子供たちに押し付けたロッド・レイスのくそさ加減には殺意を覚える。
子供を守ってこそ親じゃないの?ヒストリアの母親まで殺し、よっぽど人類の敵じゃない。
ロッド・レイスはそうやって自分の子供たちを洗脳してきたのだろうか。
「でも もう お別れしないと」
「最初で最後の親子喧嘩か…」
いいなぁ。私もしてみたかったなぁ。
エミリーがぼそっとこぼすとヒストリアはエミリーに振り返り小さく頷いた。
巨人化したロッド・レイスを追い抜き、調査兵団達がオルブド区を目指す。オルブド区憲兵本部ではすでに上官たちが集まっていた。
到着してすぐエルヴィンはエミリーの元へ向かい視線を向け、エミリーが気付きリヴァイへ「ちょっと行ってくる」と言って皆から離れる。
「君は、継続してリヴァイ班につき。新兵達を頼む」
「はい。」
「ケガがなく安心したよ。」
エミリーはエルヴィンの目元を親指で撫でる。
「痣が…。」
「大したことはない。」
逃げてる間きっとエルヴィンはひどく暴行され私達の居場所や目的を詰められたんだろう。私たちが中央憲兵にしたように。
「エミリーに伝え損ねたことがある。」
「なに?」
「ヒストリアを正当な王位継承者として「それは、命令ですか?任務ですか?」」
「自分と重ねているのか」
「そういうわけじゃない」
「民衆は混乱している。我々兵団が上に立っても不安を煽るだけだ彼女を王として迎えることで偽りだった王政の信頼も得られ民衆たちも安心するだろう。」
自分に重ねてるわけじゃない。それでも、彼女の今まで息苦しかった灰色な世界から解放され、自分自身が好きになれるんじゃないかなってそうしてあげたかった、兵士として。私のわがままだけど。
「わかりました。 私から伝えます。」
「いや、リヴァイの方で伝えてもらう。」
「どうして?」
「適任者だとおもうが、不満か」
「わかった。」
「リヴァイ班の準備が整い次第、行動に早急に集まってくれ。」
「はい」
「ヒストリア 言い忘れていたがお前にやってもらうことがある。」
エミリーが戻るとリヴァイがヒストリアに伝えている最中だった。エミリーは少し離れた場所あからその様子を伺いながらゆっくり皆の元へ戻る。
「エルヴィンからの指示でな この戦いが終わったら お前は正当な王位継承者として女王になれ」
新兵達が驚きリヴァイの方をみて、ヒストリアはミカサの後ろにいたエミリーと目が合い「は?」と声を漏らす。
「じょ、女王様?ヒストリアが?」
「クーデターは成功したが兵団がトップに立っても民衆は従わない。正当な王位継承者が偽者から王冠を取り戻したって物語が必要なんだ。」
「あの 兵長」
手をあげコニーが心配な様子で話す。
「さっきヒストリアが言ってたと思うんですけど その 父親と別れて面倒なしがらみから まあ抜け出せるというか なのにまた…」
「なんだ?」
「言いたいことがあるならはっきり言え」
「じゃあ、言わせてもらうけど。」
ミカサの後ろから目の座ったエミリーがリヴァイへ向ける。
「レイス家という面倒な家から解放されて、ようやく自分を取り戻せてこれからって時なのに、また面倒ごとを彼女自身に押し付けるなんて」
ミカサとジャンの間を通りリヴァイの目を見て言い放つ。
「「エミリー…」」
「「エミリーさん…」」
「クソ野郎どもが!ってこと…なんだけど。ヒストリア。」
小さくため息をついて振り返る。
「はい」
「血は争えないの。」
「「…っ」」
味方してくれると思っていたエミリーまでもが女王になれと言い、リヴァイ班が苦しそうな表情を浮かべる
「わかりました。次の任務は女王ですね。了解しました。」
エミリーはヒストリアを勢いよく抱きしめる。
「…っごめんね。」
「エミリーさんは何も悪くないですから。」
エミリーはゆっくり離れヒストリアの顔をみる。彼女は思ったよりも強く、たくましいほどだった。
「心配してくれてありがとうございます」
「でも、結局自分次第ですよね」
「私もそう思う」
「兵長 一つだけ条件が」
エミリーの横に立ちリヴァイを見上げる。
「あ?」
「あ?ってなに。」
エミリーがリヴァイへねめつけながら言う。エミリーのリヴァイへの態度にみんな緊張感が走る。
「条件って何?絶対通してあげる。」
「自分の運命に自分で決着をつけさせてください。」
ヒストリアの準備を手伝う為別室に行くエミリー。
「調査兵団 エルヴィン団長補佐 エミリー・アメリアと申します。 制服お貸しいただけますか。身長150センチほどのシャツ、ズボン、ベルト。あと立体起動をお願い致します。」
近くにいた兵士がエミリーの名を聞いて慌てた様子で取りに行くのが見えヒストリアは苦笑いを浮かべる
「エミリーさんのご両親はどんな方でした?」
「私?聞いちゃう?」
「興味あります」
「両親かぁ…産みの親はわからない、育ての親は居たんだけどね。」
過去形なのでヒストリアは察しそれ以上は踏み込まなかった。
「そうなんですか」
「だから、親子喧嘩できるヒストリアが少し羨ましい」
優しそうに微笑むエミリーの顔をみてヒストリアも一瞬だけ顔が緩む。
「あ、ヒストリアが女王様になるんだったら。なる前にわたしのわがままお願いしようかな」
目を輝かせながらエミリーはヒストリアを見下ろす。
「なんですか?」
「私の記録、読ませてほしいの。王家の許可がないかぎり拝読できないんだって、秘匿書類扱いになってるらしいの」
「エミリーって何者…なんですか…」
怪訝な顔でエミリーを見上げる。
「ほんと、何者なんだろう。私の家族は人類の敵だったのかな。」
両親は王家によって殺害され、きっと存在していなかったことになってるんだろう。どんな改ざんをしたかしらないけど、その記録を読めばやっと私の事が分かる。
扉前で待つヒストリアとエミリーの元へ息を切らした兵士が一式をエミリーへ手渡し敬礼をする。
「ありがとうございます。」
ヒストリアと一緒に中に入り、時間がないので二人で急いで準備する。ものの5分程で準備が整い、扉を開けると持ってきてくれた兵士が待っていてくれた。
「こちらです!」
そう言ってエミリー達を案内する、兵士が講堂の扉を開けエミリーが「お待たせしました」と入りその後にヒストリアが続く。そこには作戦会議が行われ様々な上官が集まっていた。
エミリーが入ったとき全員が彼女の姿を目に焼き付ける。
あの人が…シガンシナの…女神。
本物か!?あんなに可憐な女性が?!
本物だ!本物だ!本物だ!
あの女が時期分隊長だと?ただの女じゃないか。
ヒストリアはミカサの隣に立ちエミリーはジャンの隣に立とうとすると、リヴァイは「こっちだ」とリヴァイの左側に立たされる。
「女王になったら あのチビを殴ってやればいい。」
「えっ」
ミカサらしいなぁ。私も参加しちゃおうかなー。
「ロッド・レイス巨人の現在の位置が分かりました。オルブド区の南西を進行中。やはり夜明け頃にオルブド区に到着する見込みです。」
オルブド区駐屯兵団がエルヴィンの案を聞く、どうやってこの短時間で住民を避難さ巨人を迎え撃つのか。
エルヴィンの案は、避難することなくオルブド区にとどまってもらうことだった。