22


「巨人だ!!」


日が落ちはじめ帰路を急いでいた時だった、後方から声が聞こえ振り返ると赤い信煙弾が空へ登っていくのを確認した。


出発のころには巨人はいなかった…。どうして…。リヴァイは負傷していて戦わせたくない。



「平地で建物も何もない。戦えない。」

「壁まで逃げ切るほうが早い」

「伝えてくる。」


リヴァイがハァとため息をつき共に速度を落とし、遺体回収班元へ行く。


「私、あのバカのところいって兵士を拾ってくる。」

「わかった。」


馬を逆方向に向かせフードを外し体制を低くして馬をなで「あのバカの所に連れてって…」っと優しく首を撫で一気に速度を上げる。




倒れた巨人の元へ行き討伐したであろうミカサを見つけ


「ミカサありがとう!早く馬に乗って!あとは私が連れて行く!」


巨人の近くに居た馬の手綱を掴み拳付近で肩を押さえ震えた兵士の腕を思い切り掴み


「早く乗って」


冷たく見下ろしながら手を差し伸べる。


「自分で走れます…」

「貴方の意思なんて今聞いてない、私が言ってることが理解できてるなら黙って従って。」



前に詰め後ろに乗ったのを確認し彼の両腕を持ち自分の腰に腕をまわさせる「速度出すから、落ちないよう。腕居たなら片腕で私にしがみついてて」といって馬の腹をけり一気に速度を出す。掴む腕が震えているのがわかり左手でその震えを止めるように手を添えると彼の身体がびくっと跳ねたのがわかりその後はずっとエミリーへ懺悔を続けていた。


「私も壁外調査の度、戦死した仲間を目の前にするとすごい無力感に襲われてどうしようもなくねる。朽ちた命は戻らないでも皆が捧げた命を無駄にしないよう私は人類の勝利を夢見て突き進むしかできない、どれだけの数の兵士が死のうとね。」


後ろからうっう…と声が聞こえ左手を手綱に戻すと前から遺体が転がってるくる覆われていた布が剥がれその遺体がペトラだと分かったとき左目目尻から一粒の涙が風の中輝きながら飛ばされ。




…リヴァイ班のみんな。……っみんな…。


















巨人が見えなくなった位置で一度止まり帰路の確認の為話し合いを始める。後ろに乗せていた彼を下ろし腕を見せてもらう。


「痛む?」

「…いいえ。」


憔悴した様子でエミリーに腕を渡し呆然と立っていた。その場へリヴァイが馬を歩かせて彼の元へ無言のまま歩み寄り、何かを手渡した


「リヴァイ兵士…自分は…」

「これらが奴らが生きた証だ。俺にとってはな」


彼の手に握られていたのはイヴァンの自由の翼の腕章だった。それを見て目からとめどなく涙が溢れはじめ


「兵長…エミリーさん…っ」


その様子を後ろから見ていたエミリーは両腕を広げ後ろから力いっぱいギュッ!と抱きしめ「へこたれるなよっ!気高き兵士よ。」といって自分の馬を引いてその場からはなれる。


その一部始終を見ていたリヴァイが馬を連れ引き返してきた。


「お前は。本当に、何を考えてやがる。」

「え?何が。」


真剣な顔で怒っているリヴァイにエミリーは困惑しながら足を進めながら答え自分の行動に疑問を持たず馬に跨る。彼女が跨ったあとリヴァイも跨り後ろを追う。


「早く足見てもらいなさいよ。」

「ああ」

「私が今重症にすれば見せる?」

「…。」

「はぁ、リヴァイは私にわかってないっていうけど。人の事言えないわね。」





























壁内へ戻り住民たちの声がいやってほど聞こえはじめるのが分かり壁内に入る直前でフードをバサッとかぶり馬から降り手綱を掴んで歩かせる。


耳に何も音を入れないように集中するが、目の前を歩くリヴァイの元に一人の男性が歩み寄ってきてリヴァイへ話しかけるような素振りが見え耳が一部だけ聞き取った「ペトラの父です」


心臓がドクンと跳ね、耳まで激しい心臓の鼓動音が響き足の力が抜ける感覚を保ちながら歩みを進める。ペトラの父は代わらずリヴァイの元から離れようとせず、リヴァイへ話続ける内容は心臓の音で聞こえない。けどわかる、私たちにとっては残酷な言葉だということは。



今回の壁外遠征にかかった費用と損害による痛手は調査兵団の支持母体を失墜させるには十分であった。エルヴィンを含む責任者が王都に招集されると同時にエレンの引き渡しが決まった。


























その日の夜、古城に戻り私服に着替えみんなが会議していた場所でリヴァイとエレンの3人で過ごす。私服に着替えたエミリーがエレンの前に座り頬杖をつき机を眺めてると


「エミリーは怪我しなかったのか」


エレンがエミリーに話をふる。


「うん。大丈夫。」

「ケガしてじゃねえか。ぶつけたのか?血は出てなさそうだな」


いや…私は、ケガした記憶はない………首?……っあ。


ガタッと立ち上がり椅子が勢いよく倒れる。



「どうした?!」


エレンが慌てて立ち上がり彼女の椅子を起こそうとするとリヴァイがその椅子を先にエミリーの足元にカタンと置くのがわかりエレンは元の場所へ腰かけ慌てる彼女を不思議そうに見ている。


「どこでだ?」


アクセントのないリヴァイの声が左側から聞こえエミリーの身体の温度が低くなるような感覚になり、静かに深呼吸を繰り返し動揺を隠しながら


「覚えてない。」


精一杯平然を装いながらゆっくりと腰をかける。今この時、エミリーはどれほどエルヴィンがはやくこの場に来ることを願っただろうか。リヴァイは今この時を逃さないように彼女の隣に立ち視線を下に向け机を見つめるエミリーの前に手をついてコンコンと机を人差し指で小突く。

顔をこっちに向けろと無言の圧がエミリーを襲う。


ただならぬ雰囲気のリヴァイとエミリーにエレンは膝の上で拳を作りじっとそのやり取りを黙って見守る。


彼女の名前を静かに呼ぶ、3人しか居ない部屋には嫌でも聞こえる声で。



「ケガなんて、無意識のうちにできているものよ」


苦し紛れの言い訳だった。そんなことでリヴァイが納得するなど思ってない、すこしの時間稼ぎエルヴィンが来るまでの。



エミリーは頬杖をしながらリヴァイの方に顔を向け答え、自分の左側の椅子を引き「あなたもでしょ。」と見上げながら怪我した足へ視線を向ける。眉を歪め「ッチ」と舌打ちしたあと彼女がひいた椅子に腰をかけ痛む足を少し撫でる。


そのやり取りでエレンが自分の選択で2人が怪我したのだと思い、申し訳なさそうに2人に謝罪をする。自分のせいだと責めながら




「言ったでしょ、どんな結果であろうと私はあなたを信じるって」



目の前に座る彼に悲しい笑みを浮かべ答え言い終えた後にガチャと扉が開く。















































今回の壁外遠征が失敗に終わった調査兵団、エルヴィン含む責任者が王都に招集されることになりエレンの身柄も憲兵団へ引き渡しに決まり。


エレン護送車が本部に向かうまでの間憲兵団も立体起動を装備し中央通りを通り市街地から本部までの通過する間の護送団と並走し警護強化が言い渡される。





最初は私はアルミン達と共にエレンを逃亡させることを希望したが、今回の作戦でエミリーをエレンの近くに置いておくことは得策ではないと言い渡された。


確かに、壁外調査でも冷静さに欠ける場面が何度もあったことは認めてる…。けどさー…といっても何も変わらない。名や顔が憲兵団に知れ渡ってる以上エレンの側には居れない。


今まで散々エルヴィンの隣を譲らなかった私は、今はエレンの側を離れたくないと駄々をこねる子供みたいになっている。我ながらこの3年間でエレン含む104期生に度を越して甘やかしてるかもしれないと思った。





兵団服に身を包みフードを深くかぶり護送車に乗り込もうとした時、憲兵に肩を掴まれ「フードを取れ」と声かけられた。

変装を疑われてる?それとも私だと分かっていない?


「手、離して貰えますか?」


肩を掴み話しかけてきた主へ声をかけると、肩を掴んでいた兵士とは別の憲兵数名がエミリーの背後へ周り銃口を向け構える。


「エミリー。」


エルヴィンが振り返り彼女へ声をかけフードを取るように促す。それを感じた彼女は掴まれていた手を払いのけ両腕を上にあげ両手でフードの端をつまみ肩へ生地をおろし視線を掴んでいた憲兵へ向け


「どおーも、はじめまして」


掴まれていた憲兵の方を振り向き無表情で「ばあ…っ」と冷たい目の色をしてさげむような瞳を向け口元だけ動かし片方の口角だけ上げ相手見つめる。



見つめられた憲兵は彼女がエミリー・アメリアだということを理解するのに少し時間がかかった、端正な顔立ちで綺麗フードから現れた黒髪がサラリと揺れ。いま目の前にいる女が団長補佐官など想像もつかなかったからだ。



「もう、よろしいですか?」


静かに言う彼女の声で我に返り「あ、ああ…」と動揺しながら返答しエミリーは「どうも。」と淡白に礼を伝えエルヴィンと同じ馬車に乗り込む。


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