▼よい来世を(0)


縞子が死ぬ話








身体中から空気が抜けてくみたいだった。嗅ぎ慣れた硝煙の香りと一緒に、大事なものが肺から逃げていってしまう。それを止める術はもう、私にない。
重たい身体。
震える瞼。
冷たい空気。
乾いた唇。
リップクリームが塗りたくて、腕を探す。
私の腕ってどこだったかしら。どうやって動かしていたかしら。

「っふ、ふ…ゴホ」

そう、私死ぬんだったわ。
荒れた唇を体液が潤して、死に化粧には丁度いい。
色んなことが頭の中を順番に訪れた。
顔の知らない両親、孤児院、入学式、毎日奮った薙刀、手の豆が嫌だったこと、好きな紅茶、まだやってない雑務、借りっぱなしの本、…あの子のこと。

何も怖くなかった。
心臓がドキドキするだけずっと速く走っていけた。
でも、私を手折った男と対峙した時、私はトマトのように自分の頭が潰れることを想像した。

そんな姿をあの子に晒すの?

そんな死をあの子に見せてしまうの?

もう会えなくなるの?

そうしたら動けなくて。
ああ、私は、生きようとしてしまったのね。
そんな風に満たされたら、もう戦えなくなるじゃない。バカね。あなたのせいよ。

戦場では誰もが歩く死人。手折っても、折られても、それは華になる。棺桶から光を望んでしまったら、灰になるだけ。
だからここは私にとって素晴らしい世界だと思っていたけれど、なんだか最近は違うみたい。
あの子のことを考える。
かわいい人。
駄目よ、泣いちゃ。
黒軍の立派な兵が、こんな女で泣いちゃ駄目だからね。
勝ってね。そうして次に生まれる時に、綺麗な世界を頂戴。
縁があったらお茶でもしましょう。
それではみなさんよい来世を。








第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -