眠れないローザのお話






心臓がぎゅっと丸くなるような夜は決まって眠れない。
瞼の裏ッ側を眼球でころころとなぞって、あーあ、眠るのってどうやってたのかしら。本日幾つめかの寝返りを打つ。もう羊を数えるのに飽きちゃった。今度はアルパカでも数えてみようかな。英語で?素数で?二乗で?
でもやっぱりおしまい。
だって羊を数えてみて分かったんだけど、面白いことひとつもないんだもん。だから数を数えるのは止めて、考えることも止めて、やってくる静寂を全身全霊受け止める。それはまるで心臓の中を海水で満たしたみたいにひんやりと痛い。きっとそこは深海のように真っ暗で寒くて、沢山の盲目のお魚が尾びれや尻尾で内側を傷つけながら泳いでいるんだ。キンキンって、胸が凍みるのはお魚のせいに違いない。
あたしは閉じていた目を開けることにした。静かな静かな深海の部屋。水深一万メートルくらい?天井を見上げても、瞳に星は映らない。
(…………お魚が眠ってくれない時は、)
ちっちゃい頃、眠れない日にママが教えてくれた。お魚はミルクでおやすみしてもらおうね。ミルクたっぷりの甘いココアを飲めば、ローザのお魚もおやすみなさいをしてくれるよ、て。
(ローザの魚は淡水魚かな、海水魚かな)
本当はおやすみなさいじゃなくて、きっと溺れて消えてしまう。それって少し可哀想かなって、ちょぴっとだけ思う。お魚が心臓に泳いでいるなんて、それはそれで素敵なんじゃないかしらって。

ぐるぐる、ぐるぐる、ココアに白いミルクが混ざるみたいにゆっくり回る。決して溶けないまま、平行して廻る回遊魚。
灯りが欲しいなぁ。
(うーん、やっぱりごめんね)
そうしてあたしは冷蔵庫へ向かうのだ。







111126 深海魚は居眠り病の夢を見るか