謎が謎を呼ぶ



ある日突然ダンブルドアに連れられて東洋からやって来た名前・苗字は、編入して以来の一ヶ月間で一度も規定のソックスをはかなかった。
派手なタイツの日もあれば毒々しい色合いのニーハイソックスの日もある。かと思えば素足の日も。
スカートは短い。ローブは着ない。ネクタイは緩んだまま胸元にぶら下がっている。髪はその辺の女子生徒のごとく巻くでも結うでも編むでもなく、見るからに適当に伸ばしましたと言わんばかりの色ばかりは艶やかな黒髪をばさりと無造作に流していた。ああ、言わずもがなだらしのない女である。

授業態度は別として成績は中の中。得意な科目があるわけでもなく苦手な科目もない。飛行も特別上手くはないが下手でもない。わりと一人でいることが多いがスリザリンの寮生、それ以外の寮生とも喋っているところをよく見かけるから友達がいないわけでもないらしい。
こつこつこつこつ。指で教科書の表面をノックする僕を、まわりの席を我先にと陣取り間抜けな顔で見つめている女たちも苛立ちを増長させる要因のひとつだ。

ダンブルドアが考えもなしにわざわざ遥か遠く(魔法を使えばそうでもないが)東洋の魔法学校から生徒を引き抜いてくるとは思えなかった。僕を監視するために連れてきたのか。それとも手元に置いておきたいほどの特殊な力でもあるというのだろうか。
苗字がネクタイを不器用な手つきで結ぼうと奮闘する姿を横目で見ながら、一定の間隔で動かしていた指を止めた。一ヶ月の間、僕は彼女を疑い見張ってきたが動きはまだない。ただ、気になることはあった。

(また)

彼女は僕を見ようとしないし、話しかけようともしない。オリオン・ブラックがなにやら言いながら僕を示し、苗字はどうでもよさそうな顔でちらりとこちらに視線をよこしたが、僕と目が合うと一瞬頬を引きつらせて即座にそらした。それきり二度と僕を見なかった。

(徹底的に僕を無視するつもりらしいな)

気に入らない。
一度気になりだすと徹底的に暴かないと気がすまない。不穏分子にしろそうでないにしろ、僕は引き続き名前・苗字という生徒の監視を続けることにした。



魔法薬学の授業で最前列の左端に座った苗字と最後列の右端に座った僕とでペアを組むようにと、教師が言った瞬間の彼女の顔と言ったら!
優等生の仮面を貼り付けた僕が微笑を浮かべながら小声で「よろしくね」と囁くと、苗字は俯きがちに「はあ、どうも」と蚊の鳴くような声で返事を返した。


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