世界の切れ端を志願



「それでリドルほったらかしておめおめ逃げ帰ってきたわけだな」
「戦略的撤退と言いたまえオリオン君!それにしてもこれなんて嫌がらせ?」
「求愛行動と言いたまえ名前君。おおよしよしかわいそうに、俺様の胸でっていうか下で思う存分鳴けばいい」
「いろいろおかし過ぎてもうどこからツッコめばいいのかわからんのだが」
「いや今から突っ込むのは俺だし」
「いやいや今からツッコむのはわたしだし」
「いやいやいや」
「いやいやいやいや」

なんだこのやり取り。わたしはいったいどこから間違った。

釣具と荷物を談話室に投げ込んですぐさま駆け込んだ校長室で、ダンブルドア先生閣下に開脚前転土下座で転校を申し出た。しかし奴ときたら 「ほっほ!そんなことより名前や、ワシ今夜ご婦人と夜会に参加するんじゃがこのドレスローブどうかの?イケておる?」 とまあ終始こんな調子で己のリア充っぷりを死ぬほど披露しまくったあげく、やっぱり青のドレスローブの方がいいとかなんとかで煙突飛行でダイアゴン横丁にダイヴしなさった。
生徒の必死の懇願と生命の危機を“そんなことより”でさらっと流した先生閣下のやさしさに絶望しつつふらつく足をなんとか動かして談話室に戻り、賭けチェスで周りの生徒から金貨を巻き上げていたオリオンの膝に思いきり泣きつき、恨みつらみと呪いの言葉を延々吐き続けていた所までは覚えている。

「俺ってトモダチ思いだと思わないかお嬢ちゃん」
「それトモダチ違う。普通のトモダチはベッドに押し倒して迫ったりしないんだよお兄さん」
「俺はトモダチをこうしてよく慰めてやるけど。みんなよろこぶぜ?」
「それは別の意味のトモダチ!!」

セクシャルハラスメントを軽々と飛び越えたオリオンが友人の垣根も飛び越える前に、その落ち着きのない股間を膝で思い切り蹴り上げて差し上げるわたしのなんと友達思いなことか。
一瞬にして土気色になった顔に大量の脂汗を浮かべたオリオンをそっとベッドから落とし乱れた制服を正した。ブラのホックが外れたことを相手に悟らせない器用さをどうにかして他のことに役立てられないのだろうかと考えてはみたものの、無意味過ぎるので瞬時に忘れることにする。

「いったいこれからどうすればいいの。トム・リドルは凶悪だし先生閣下はリア充だしオリオンは歩く男性器野郎だし、わたしの人生お先真っ暗じゃない」
「俺の人生ももしかするとお先真っ暗かもしれん。大丈夫かこれ、潰れてない?おまえちょっと見て確かめてくれ」
「マジでもげろ。学校の風紀と平和のために」

転がったままのオリオンに軽く蹴りを入れて部屋を出る。
あーイライラする。だれか、だれでもいいからわたしの心を癒して下さい。




「ヘイヘイそこのお兄さん」
「私かな?」
「そうです。お兄さん前頭筋から眼輪筋の流れがすごくキレイですね。暇ならわたしと茶でもしばきませんか?」
「・・・フフ、そのような誘われ方をしたのは初めてだ」

―――わたしイン図書室。現在美人をナンパ中。

お兄さんの女神のごときご尊顔にああ癒される!視覚的にも精神的にも癒されるんだけど、イケメンからはなにかマイナスイオン的なオーラでも出ているのだろうか。
いやないな。トム・リドルもオリオンも顔はきれいだけど中身は壊滅的だもんな。
やっぱり内からあふれるオモイヤリンとかヤサシ酸とかそういう成分がなんらかの働きをしているに違いない。

「きみは編入生のミス苗字だね」
「おお、わたしをご存知で」
「ある意味有名人だよ。リドルが最近よく話している」
「げっ!お兄さんまさかあいつの友達!?」

なんてこった。トム・リドルの愉快な仲間に自ら話しかけてしまったなんて。
よく見ればネクタイもスリザリンじゃないか。・・・罠だ。

即まわれ右をして「おじゃましました」と去ろうとしたわたしの手首を、その見た目に似合わない力強さでがっちり拘束するお兄さんはあやしく微笑んで、

「そう急ぐことはないだろう?」

お望みどおりお茶しようじゃないか、私の部屋で。そう言った瞳は気づけばまったく笑っていない。
ただ平穏に学校生活を送りたいだけなのに、なぜこうもトラブルはわたしを放っておいてはくれないのか。


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