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「おっさん、好き」

 あの告白をピラミッドの屋上で受け入れてのち、私たちは晴れて恋人どうしになったらしい。らしい、と言うのは私の方がまだその事実を頭の中で消化しきれていないからだ。私にとってこの恋は、単に自分の知的好奇心を満たしたいがためにしているもの。
 本気になっているダツラにはすまないと思うが、一応受け入れるときにその旨は伝えている。おまえがわたしを好きになるのは勝手だが、私はそれに応えられないぞと。

 それなのにどうしたことだろう、毎日毎日飽きもせずに伝えられる愛の言葉が、まるで刷り込みのように私の中に積み重なっていく。悪い気はしないんだ、憎からず思っている相手から好意をストレートに伝えられて、嫌だと思う人間はいないだろう。…質が悪い、私が持つこいつへの好意が何の種類に属すのか近ごろ分からなくなってきてしまった。

 私はぶっきらぼうに返すだけで、こちらから言ってやったことはただの一度もない。…まぁ、馬鹿のひとつ覚えのように好きだと繰り返すこいつに興味は尽きないがな。何を考えて私にそんな愛ばかり言うのだと。

 好きだと言っては私を抱きしめ、好きだと言っては私の手を握る。ああなんだおまえ、まだおびえているのか? 好きだと言うわりには、手出しが遅いんじゃあないか? それでは私が飽きてしまうぞ、尽きない興味の前の単調さ、慣れているとは言え遺跡と人間では違うんだ。


「なぁ、おっさん」
「…どうした」
「俺はおっさんが好きなんだけど、まだ信じてねぇの?」
「いや、信じているさ。ただ、かと言って私が応えるかは別物だろう」
「……堅物だよなーほんと」
「何を今さら」
「でもよ、俺だっておっさんにばっか主導権握られたくねぇんだ」

 ぐ、と顎が持ち上げられる。何をする、と問う前にダツラが私にキスをしていた。目を閉じられなくて、間近でダツラをまじまじと眺め見る。まごついている私には構わず、舌まで差し入れる長いキス。手慣れているのか、と思う余裕も与えられなかった。

 唾液ごと絡めあうキスの途中で、不意にダツラが私をじっと見上げる。
 ……また、だ。まっすぐに、私を射抜こうとするその瞳。こないだと違うのは、その中で震えていた勇気が影を潜めていたことか。代わりに、ふてぶてしささえ匂わせるまっすぐさがあった。

「いい加減に覚悟しろよ」
「…なにが、だ」
「俺はもう、おっさんにぶつかったからあとは受け入れてもらうか砕けるしかない。だがおっさん、あんたはまだ本気にすらなっていない」
「当たり前、だろう」
「いいや、違うな。何強がってんのか分かんねえけど、そろそろ諦めちゃくれないか」
「……何を諦めろと?」
「俺のことが好きだ、ってさ」

 あまりにも自信たっぷりに言われた台詞に、さっきよりも恥ずかしさが込み上げてきて、自意識過剰さに突っ込むよりも顔の熱さを自覚せざるをえなくなった。
 俺から言うことは変わらねえ。あんたが好きだ、ただそれだけ。そっちはどうなんだ? 言うこと、変わるんじゃねぇの?
 何も言えずに俯いて、耳まで赤くなっているであろう私には気を留めずにダツラは勝手にとどめの一言を私の鼓膜にささやいたのだ。

「愛してるぜ、ジンダイ」



キスより甘くささやいて



101031


text:琥珀
illust:漣楓





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