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 …この年になって、恋というものをするようになるとは思わなかった。しかも相手は同僚で、私とひと回りは違う年下の男だ。とはいえ、私とて朴念仁ではないから、若いときに恋愛のひとつやふたつ、付き合っていた女性もいた。だが、しょっちゅう遺跡に行っている私ではどれも長続きせず、いつも相手から振られて終わりだった。私に非があることは分かっていたので、引きとめることもせずにしょうがないと割り切っていた。
 けれども、四十路を越した今となって、私は突然前述の同僚から求愛されたのだ。いきなりのことだった。決して付き合いの浅からぬ、歳の離れた友人として私は彼に好感を抱いていたので、なおさら。とある週末の夕暮れ、彼は突然私をバトルファクトリーのヘッド室に呼び出して、「ジンダイ、俺はジンダイが好きだ」と、そうのたもうたのである。軽いところもあるが、ごく普通の若者とばかり思っていたその男、ダツラが、まったくの別人に見えてしまった。帽子の下からのぞく、いつになく真っすぐすぎる視線と、低い声音で「ジンダイ」、と私の名を呼んだあの表情に、私は気圧されてしまったのだろう。…なんだ、おまえ、普段は私のこと、「おっさん」、と呼ぶくせに。

 平静な私であったならばすぐさまこの求愛を冗談として受け流すことができたのだろう。曖昧に眉を下げて微笑して、嘘はよせと言えたはずだった。言えなかったのだ。「考えさせてくれ」、と、ダツラに期待を与えてしまうような返答を、してしまっていたのだ。

 恋に期待などはしていないはずだった。私には遺跡があるから。だから、私はあの求愛に、即刻否と答えねばならなかったのだ。それができなかったのは、ダツラのあの表情のせい。浅くはない付き合いの中で、一度たりとして見たことがないもの。真っすぐに私を見つめているくせに、その瞳の中では勇気が小さく震えていた。


 …さて、この歳にもなると、ちらほら若い職員の色恋話も自然と耳に入ってくる。さぞかしいい恋をしているのだろうなとからかってみるが、彼らは気にしたふうもなく肯定して、幸せですと笑うのだ。きれいに晴れやかに、それこそいつもダツラが見せているように。
 若かりし頃の、すれ違いばかりだった恋のことは正直言ってもう覚えていない。よって、私は恋のことに関しては全くの無知だ。かといって、恋に幻想を夢見たりはしない。 だが、遺跡ばかりを見てきた私でも(ヒースに言わせれば私の“美しい”はいくらか人とベクトルがずれているようだが)、美しいものは美しいと思う。古代の美は本当に素晴らしい。そして、美しいものならば好奇心が刺激されて、それを見てみたいとも思う。


 だからなダツラ、私に美しい恋を見せてくれ。この際おまえが男だとかそういうのはもう考えないようにする。求愛しながらも勇気におびえていたおまえ、私の好奇心を満足させてくれ。
 求愛された日以来距離を置いていたダツラをピラミッドの頂上に呼び出して、暮れる夕陽を眺めながらあの男を待った。



美しい恋と出逢った少女



101024

text:琥珀
Illust:漣楓




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