(あの頃の夢を見た(SS))
アイツがやって来てから、姉上も近藤さんも、アイツの事ばっかりかまうんだ。
突然やってきて、俺から全部奪っていった。
俺なんか、きっとみんないらないんだ。
アイツがいれば、いいんだ。
俺はがむしゃらに走った。
がむしゃらに走って走って、気がついた時には見知らぬ町にたどり着いていた。夕日が空を真っ赤に染めていた。
俺がいなくなって、みんな心配しているだろうか…
いや、厄介払いができたと喜んでいるかもしれない。
そう考えるとなんだか笑えてきて、身体の力が抜けていった。
帰り道もわからない。
俺はただ呆然と夕陽を眺めていた。
すると、男が1人着物の裾が乱れるのも構わずこちらに走ってやってくる。
アイツだった。
息をきらせて、近づいてくる。
逃げだしてしまいたかったけど、何故だか身体が動かなかった。
「おい、テメーはこんな時間までどこほっつき歩いてんだ!」
普段あまり崩さない表情を崩して叫ぶ男に、俺は顔を向ける事が出来ずうつ向く。
「みんな心配して探してんだぞ!ったく、バカか、お前は!」
その一言を聞いた瞬間、涙がせきをきったように溢れた。
泣き顔なんて、アイツにみられたくなかったけど、溢れて溢れてとまらない。
声を漏らさないように、口をひきむすぶので精一杯だった。
「ほら、とにかく、帰るぞ。」
アイツが歩き出す。
俺は何も言えず、ただただ涙を堪えながらアイツの背中をついて歩く。
「悪かったな。」
男は振り向かずそう言った。
「お前がでて行く事はねーんだ。」
ポツリポツリと呟くように話す男の声に耳を傾ける。
「お前の居場所だもんな、あそこは。悪いのは俺だ…。でも、あと少し…あと少しでいいんだ。どうにも、俺もあそこが気に入っちまったらしい…。後少しだけ、俺にも帰る場所をくれねーか?」
今にも泣き出しそうな声色のその声に、俺の涙はいつの間にか止まっていた。
男の背中が、夕陽に照らされてやけに小さくみえた。
俺は小さくうなずいたけど、アイツは最後まで振り向きもせずにいたから、きっと伝わらなかったと思う。
いいんだ、それでも。
だって、いつかきっと……………
「おいっ……おい総悟!お前いつまで寝てんだっつの!いーかげん起きろ!!」
「んぁっ………あー、もうこんな時間ですかい…」
「テメーは寝すぎなんだよ。」
「いやー…懐かしい夢みちまいましてね。」
「夢はいーから仕事しろ。」
「へいへい。」
そう、きっといつか、アンタの帰る場所に俺がなってやるよ。
日記ログ
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