背筋が撓り、熱いものを吐き出す。

「く、ぅ…っは、…はぁ……」

絶頂を迎えきつく腰に絡められた、今は弛緩し纏わるだけの紫の脚を膝を押して解き収めていた自身を引き抜いた。快楽の名残が力を奪い、紫に添いぐったりと体を預ける。
縋る紫を引き剥がせなかったとはいえ本能のままに精を中へ出した。
意図せぬことだ。
このような事があるから快楽は恐ろしく、思考を白く染め上げられるこの瞬間はいつまでも好かない。
だのに紫に許すのはひとえに心を寄せているからであろうか。
紫と肌を重ねると、闇よりも色濃く映える心の綾の不思議が己の中にも静かに息づいているのを感じる。妙な心地だった。
ノアールは半身を起こして放心して半ば意識を失している紫を眺める。

「紫…大丈夫か」

うすく目を開いただけで返答はなかった。酩酊の後にあれほど無茶をさせたのだから無理もない。
「すまない」と小さく詫びて口付けを落とすと、己の名をうわ言のように呼ばれ、ノアールは目を細めた。
紫の眦から溢れた涙を、指先で掬い上げて拭う。
今日も泣かせてしまった。いつも泣かせている気がする。

「…それでもお前は幸せなのか」

我が喜ぶならそれでいい、そう言い募った紫の頭を撫でる。

汗で額に張り付いた髪を梳き解しながら、空いている片方の腕を下腹部へと伸ばし、掌を臀部へ這わせた。
中へ放出した精の処理をしなければ明日の朝に腹を下す事となる。

「…うあ…っ?」

幾分か弛まりひくついている後孔に指を浅く沈めれば、朦朧としていた紫の目が見開かれた。

「え、ぁひ、ん…っ何、してっ…」
「こら、力むな。眠っていろ」
「無、理…ひぅっ……は…ぁ…ノ、ア、ぁくっ…ん、」
「艶かしい声を上げるでない」

裂傷のためか酷く敏感になっているらしく、単純で緩慢な上下動にも律儀に反応する。極力、性感を刺激しないように粘液を掻き出してゆく。

「ふ…っもう、一回するっ…の?」
「否。」
「…俺は、したい、よ」
「今日はもう止めておけ」
「ノア君が、っ…こうした…のにっ」
「そうだな」

爪先でゆっくりと内壁を抉りつつ戯れに指技を交える。

「淫蕩に咥え込んで離さぬ、が…」

一気に押し入ってそれから引き抜いた。

「ああぅッ」
「…淫乱」

声を上げる彼に言い放ち、笑う。
恥じ入るようにしてきつく目を瞑った紫の緩く立ち上がっているペニスを見て見ぬふりをしてノアールは身体を起こした。
気怠い。が互いの体液に汚れたこのままで眠るわけにもゆくまい。
脱ぎ捨てた下着を腰巻にし、立ち上がろうとすると紫に腕を引かれた。

「帰らない、で」
「……馬鹿を言うな。すぐ戻る。」

紫の髪をくしゃりと撫でで、腕を解き側を離れる。


戻ってきたノアールが抱えていたのは湯の張られた洗面桶とタオル。
紫の側に座り、タオルを浸すと軽く絞って互いの体液で濡れた下腹部を中心に紫の肌を丁寧に拭ってゆく。

「ノア君、自分でやる…」
「酔いが回ってまともに出来ぬものを。良いからじっとしているがいい」

二人の呼吸音と手拭いを絞る音。
熱い手拭いが心地良く、紫は目を閉じる。これは夢かもしれない。
うっとりとしていると肩を叩かれ顔を覗き込まれた。

「立てるか」
「ん…」

半ば夢現のままで、ノアールに引きずられるようにして寝床に放り込まれる。
柔らかな褥に身体を横たえると、布団が体を覆った。
途端に倦怠感と眠気が襲ってくる。

うとうととしている紫を横目に、ノアールは側に纏め置いてあった紫の寝間着を手に取ると、徐にサイズの大きいそれを被るようにして着た。
布が背に擦れ、紫のつけた爪痕が微かにひりつくような錯覚。
寝間着の柔らかな香に、紫にはじめて抱きしめられたその時が脳裏にやんわりと蘇らせた。

布団を捲り暖かな褥に入り込む。紫の体を抱き寄せ耳元で「   」と囁く。
紫は満足気に微笑んだように見えた。

ノアールもそのまま目を閉じる。
紫はノアールの腕の力と確かな暖かさを確かめたのを最後に、そのまま眠気へ身を任せる。


二人の夜に酒宴に静寂が落ちた。





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