「もしも、私がノアくんの本当の心からの望みを叶える方法を知っている…」

それはほんの少し、
もしも良心というものが悪魔に宿るのだとしたら。
呵責が生まれてギリギリと軋む、微かに開いた鋭い隙間から漏れだした声だった。

「知っていて私のわがままで隠しているとしたら、ノアくんはどうする?」

突飛に吐き出された悪魔の無理に明るい声音と、聞き捨てならない言葉に、ノアールの紫色の瞳が眇められる。

「知っているというなら」

抉るような視線だけが炯々とし、表情がかき消えて読めない。
突然の強い風に煽られて頬にかかる髪がなびき俯いた彼の表情を隠した。

「秘める処の闇を引き裂いて真実を掴み出す…」

深く渦巻く激情は、ゆっくりと沈んでゆく。
しかし、ノアールは本能的なそれらを振り切り、首を横に振った。

「……と、言いたいところであるが、我は神にも悪魔にも、祈らぬし願わぬ。助けは乞わぬ。」

ふっと諦めたように笑って、ノアールを強張った面持ちで真っ直ぐ見つめる悪魔から視線を外した。

望みは己の力で叶え、力は自らの手で手に入れ、望む世界を選択し掴み取る。
いつ成せるのか見えなくとも。
それが、今までずっとずっと生き続けて答えを探し続ける者の、矜持。


「……悪魔の囁きは甘い、な?」

冗談めかしたノアールの答えに、悪魔の彼が泣きそうに顔を歪ませる。

「ノアールくん」

「どうしたのだ、イリュー」

「………ううん、なんでも、ない。」


それに、そんな顔をする奴に頼めるわけがあるか。
迷子のような悲しい顔をして。

永く人の間で生きて死んでを繰り返してまだ性懲りもなく生きているノアールは、
分かたれる悲しみも、残された者の苦しみも、先に逝く者の辛さも、痛いほどに、思い知っている。

だから、置いては逝けない。
たとえ叶うとしても、かけがえのないものを犠牲にはできない。

「お前の杞憂を、闇を、欲望を、今ここで、喰らってやろうか」

ノアールは小さく笑って、俯く友人の頭に手を伸ばしてくしゃくしゃと髪をかき混ぜた。

殺しの咎を、他ならぬ友人に背負わせることは、しない。できない。
差し出され与えられるにしても、自ら掴み取りはしない。
きっと、己が己で在る限り、誓って。

生と死は人の意志を離れ廻り、人間も世界も時を経て変わり続ける。
始まりがあれば必ず終わりがあり、綿々と時とともに流れてゆく。

そう、まだ、その時ではないだろう。
それまでは。


「ともに、ゆこう」


悪魔もいっしょにかえれるばしょを探しに。





2013/03/06
壱軸さんのところの「Brevis ipsa vita est sed malis fit longior.」の続き…?
微妙に対になっております。




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