シリーズ | ナノ
あれから数日後。
白澤は約束をしっかり守って、夕飯をご馳走するから、とこの辺じゃ有名なイタリアンのお店に連れてきてくれた。お洒落な店内に、おいしいけど高すぎないのが人気で、周りはカップルだらけ。こんなとこ、なかなか来ないから、そわそわしてしまうあたし。そして、やっぱり馴れているのか、余裕な白澤。
注文を済ませて、凝ったデザインのコップのお冷やを一口。
「なまえってさー、なんで高校変えたの?」
白澤は突拍子もない質問。
「…何となく?」
「何となくなんだ。せっかく、僕と同じ志望校だったのにね」
「うん、そーだね」
あたしは、白澤と同じ高校が嫌で、志望した高校よりレベルを下げた。どーせ世間の評価は大学重視だから、大学で頑張れば良いと思ったから、躊躇いはなかった。
白澤は、あたしがどんなに冷たく返しても楽しそうに笑ってる。
そっちには強力なカードがあるからね。
しばらくして、頼んだ料理が出てきたから、2人とも食べる方に集中した。
こんな店で無言なの、あたしたちくらいだろうな。
かと言って、あたしから話せるような話はなかったので、黙る。
白澤は、いつでも楽しそうだ。
結局、あとは最低限の会話だけで店の外に出た。パスタの味がよくわからないうちに食べ終わっていた。
家まで送るよとか白澤は言うけど、どっちにしろ、同じ方向じゃん。近いし。
「小学生くらいまではさ、一緒に登下校してたよねー」
「そーだね」
「…さっきから、そーだねしか言ってないよ?」
わかってるくせに、訊くな。
「ね、冷たい振りしてるけど、本当は僕のこと好きなんでしょ?」
わかってる。
白澤が、"わかってて気付かない振り"して、こういうところに誘って、その気はないのに期待させるようなやつだって。
でも、わかってたって、泣きたくなる。
白澤の笑顔から、冷たさしか感じないなんて、あたし、感覚麻痺してるのかな?
龍の髭も虎の尾も、兎の心に比べたら、怖いものではない。
(触れるなんてとんでもない)