シリーズ | ナノ 商店街の一角。魚屋の向かいが八百屋。で、魚屋がうちで、八百屋が木村ん家。あたしたちは、いわゆる幼馴染だ。

年末で商店街も活気付いて、魚屋だってかきいれ時で忙しいはずなのに、邪魔だからと追い出された。暇だし、木村が店番してるはずだから、茶化しに行くか。


「木村ん家って今年もおせち作る?」
「はぁ?いきなり何?」
「いやぁ、忙しいとこ、めんご!」


案の定、木村ん家も忙しそうで、木村も忙しそうだった。


「謝る気ないだろ」
「で?おせちは?」
「あー…、明日母親が作るって」
「やっぱりー。そんな気がした」
「本当になんなんだよ」


木村はあたしの相手をしながらも、お客さんの対応もしっかりしている。邪魔してるのはわかってるんだけどね。


「いや、暇で」
「家の手伝いしろよ、年末で忙しいだろ?魚屋」
「邪魔だって追い出されたのよ、八百屋」
「お前使えないもんな」
「うるさい」
「でも、だからって、俺のとこ来るなよ」
「店番手伝ってあげようかと…」
「自分ん家で、出来ねぇこと、他人の店でやろうとすんな」
「他人って酷いなぁ。将来嫁入りするかもしれないのに」
「はぁ?」
「そんなに怒んなくてもいいじゃーん」
「怒ってねーよ。相変わらず頭おかしいなぁと思って」
「…最近、宮地の毒舌移ってない?」
「そうか?」
「昔の信介はもっと優しかったよ」


無言になるから、ホントに怒ったのかと思ってビビってると、


「…信介呼びとか懐かしいな」


とか、しみじみ言う。あ、つい、昔の呼び方に戻ってたのか。いや、だいたい、


「えー、そっちが中学上がった途端名字呼びにしたんじゃん」
「そーだっけ?…いや、そーか」


色々あったんだよ、なんて。わかるけど、さみしかったんだから。今までの分を込めて、意味もなく「しーんすけ」とか呼んでみる。
「なんだよ」と、意味ないってわかってるのに、ちゃんと返事してくれる。今も相変わらず優しいね。


「なぁ、なまえ、」


自分は調子乗って名前呼びしたのに、逆に名前で呼ばれると久しぶりだからなのか、すごくドキドキする。信介も同じ気持ちだったのかな、なんて思いながらも、平静を装い返事を返す。


「ん?なに?」
「明日も暇だろ?お前、おせち作り手伝いに来いよ」
「えー?なんで」
「花嫁修業だろ」
「なにそれー」


冗談だとは思うけど、こっちを見ないで言った信介の耳が少し赤くて、なんだか嬉しくなった。



木村信介と12月30日

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