ごちゃごちゃごちゃ | ナノ
今日も地獄は忙しい。それなのに、また問題発生のようだ。
夜明け前のシーラカンスは酸漿の灯る夢を見るか[第二話]ようこそ地獄へ
「鬼灯様!」
書類の整理に追われていると、唐瓜さんがやってきた。
「また茄子さんがやらかしたんですか?」
「いや、見つけたのはアイツですけど…」
慌てぶりから問題があることには変わりはなさそうで。
「桃太郎さんは2人も要りませんよ?」
「遠いようで近いですが、違います」
「いったい、何があったんですか?」
「亡者の中に"生者"が混ざってたんです」
とりあえず確認は必要だろうと思い、唐瓜さんに促されるまま問題の現場へと向かう。
「人数は?」
「1人です」
「なら、特に問題はありませんね」
人数が極端に多くなければ、よくあることだ。死に損ねた人や、一種の超能力者が瀕死、もしくは仮死状態に陥ると、生きているのに魂があの世をさ迷う。しかし、新卒の彼らには初めてのことだったのだろう。紛れ込んだ生者への対処法のマニュアルを配布する手配が必要ですかね。
頭で今後の対応について整理していたら、険しい顔になっていたらしく、先導しつつ振り返る唐瓜さんは不安そうだ。
「どうするんですか?」
「お引き取り願うだけです」
早く片付けなければ。他の仕事も待っている。
「えーっ!あたしって、まだ生きてるの?」
「そうだよ。でも、俺たちじゃまだ生きてる人間の対応がわからないから、鬼灯様か閻魔大王に聞かないと」
「え?閻魔様に会えるの?」
「会えるも何も、ここ、閻魔殿だよ?」
「まじかー!どこどこ?」
「もっと先」
唐瓜さんと共に、閻魔殿の入り口へ行くと、茄子さんと生者と思われる者の騒がしい声がする。
唐瓜さんが茄子さんに駆け寄り、頭を思いっきり叩いた。
「いったー!あ、唐瓜」
「お前なにやってんだよ」
「だって暇だったから…」
「暇だからって仕事中だぞ?あ、鬼灯様、こいつです」
「こいつとか失礼だなー」
茄子さんの隣には地獄ではあまり見掛けない洋装の女性。つまり現世から来たばかりの、今、問題になっている生者だ。確かに明らかな生気がある。
生者を現世に戻す方法は難しくない。あの世をさ迷う生者は、大抵が自分は死んだものと思い込んでいる。その思い込みをなくし、"現世に戻りたい"と思わせれば、その魂は本来あるべき場所、つまり現世へと戻る、
はずだった。
しかし、
「"現世に戻りたい"……やっぱり何にも変わらないです」
事情を説明し、実践してみるが、何故か魂が動こうとしない。何度試してみても。
「鬼灯様、これって…」
「大問題ですね…。私にもどうしたらいいか解りません」
「え!じゃあどうするんですか?」
「まさか…」
「…つまり、地獄へようこそ、ということです」
この問題の大きさと、現在の忙しさを考えたら、思わず溜め息が出てしまっても仕方のないことのはずだ。
続く。