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緑間真太郎


明日の部活が休みな土曜日の夜、あたしたち以外誰もいない彼氏の家、付き合ってかれこれ半年。ベッドの上で下着だけの姿で正座したあたしの目の前には、これまた下着だけで正座している彼氏。
あたしたち、これから大人になります。


っていうつもりだったのだけど。


…この状態になってから、30分は経っただろうか。あたしは膝の上に置いた自分の手しか見てないので時計を見れていないので正確な時間はわからないけど、とにかく、長い時間何もないままだ。緊張とかどーしていいのか分からないのやらで、動くことが出来ない。力のこもった手のひらは熱いのに、さらけ出された肩が冷えていくのを感じる。長い間正座してたせいで、足の先はじんじんとしびれ始めていた。それどころか、一言も話せていない。最後に発した言葉はなんだったっけ?しかも、良いのか悪いのか、それは相手も同じ様で…。何してんだろう…うちら…。

視界の端で真太郎の手が急に動いて、びっくりして身を引いてしまったが、そのまま手は真太郎の顔の方へ行き、そのまま眼鏡を押し上げた。真太郎も下を向いていたから、ずり落ちてきたらしい。あたしの間抜けな反応に驚いたのか真太郎まで間抜けな顔をしていた。

下着姿で、向かい合って、間抜けヅラで見つめ合うあたしたち。


「ぶくく…」
「っ笑いたければ笑えばいいだろう!」
「…っ、あははは!」
「笑うな!」
「ちょ、今、笑えって言ったじゃんか」
「し、知らん」


あー、もーわかった。うちらには、まだ早かったんだ。そろそろ“しなくちゃいけない”なんて、焦って、周りに煽られて、行動に移してみたけど、気持ちが全然追いついてない。

「まだ」とか「そろそろ」とか、別にいいじゃん。うちらはうちらで。


「真太郎」
「…なんなのだよ」
「ぎゅって、してくれる?」
「…こっちに来い」


少し近づくと、腕を引っ張られて抱き寄せられる。いつもより密着する肌の面積が多くて恥ずかしいけど、いつもより近い距離に嬉しくなる。
そして、どちらからともなく、触れ合うだけのキスをした。


ほら、充分じゃないか。


無理矢理オトナにならなくたって大丈夫。たったこれだけで、こんな幸せな気分になれるんだから。

きっと真太郎と迎える“その日”がいつ来るのか、あたしにはまだわからない。でも、焦らず、あたしたちのペースでいれば、もしかしたら、心配するほど難しくないのかも知れない。

そう思えて、あたしはなんだか楽しみになってきたのだった。



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