title | ナノ
喫茶店のガラス越しに学校帰りの高校生だと思われる、制服を着た子たちが通りすぎる。高校生を見てると、あたしってフケたなぁって思う。キラキラした毎日を過ごしてた、あの頃が懐かしくて仕方ない。恋に恋をして、吸い込む空気が全て甘酸っぱくて。空が青かったりするだけで、胸がいっぱいになった。そんな時代があたしにもあったんだ。たった２、３年前のあたしは、あんなに輝いて見えていたのか。
「未だに、喫茶店でオレンジジュース頼むなんてなまえは充分、若く見えてるよ」
「子供っぽいのはわかってるよ。そーじゃなくて」
目の前に座る男は変なとこ正直で困る。まぁ中二病こじらせてる臨也には、高校時代を懐かしむなんて出来ないんでしょうね。昔からヤバイやつだとは思ってたけど…、全身、真っ黒な服って…。今、夏だよ…？
「俺は高校の時はろくな思い出がないからなぁ…」
「…その割りには随分楽しそーね」
「だってさ、なまえ、俺のこと好きだったじゃん？｣
「あーはいはい」
「え？今も？」
「そんなわけないから。安心して」
「即答って酷いなぁ」
そんなこともありましたね。
なんで臨也が好きだったかなんて、思い出したくない。うん。きっと何かの間違いだ。
だから、こんな話早く流したいのに、臨也は「なんで好きだったの？」なんて空気も読まず掘り下げようとする。あたしが流したいのわかっててわざとだろ！
「ほら、恋に恋をしていましたから。誰でも良かったんでしょ。じゃなきゃ臨也なんて好きになんないって｣
｢えー。これでも、高校の頃は結構モテてたんだけどなー｣
｢知ってる。とりまきがすごかったもんね。女の子たち侍らしてさー｣
｢何？嫉妬？｣
｢誰がするか、バーカ｣
｢ホントひどいなー｣
お腹を押さえてケラケラ笑うところ、変わってないね。
｢…臨也はなんでこんなとこいるの？｣
｢仕事でさ近くまで来てて。なまえは？｣
｢待ち合わせ。だからそろそろ帰りなよ｣
｢どうしよっかな｣
｢だって待ち合わせてんの、静雄だよ？｣
｢げ、シズちゃんだったの？｣
｢そーだよ｣
｢じゃあ、今度はシズちゃんのいないときに｣
｢うん｣
ぶっちゃけ臨也なんて別に会わなくても良いと思っていたけど、やっぱり実際会ってみたら高校時代の色々を思い出して、少し、胸がキュッとなった。
またね、なんて手を振る臨也の後ろ姿を眺めながら飲んだオレンジジュースは、すっかり氷が溶けて味が薄かった。なんか寂しい。
(静雄、早く来ないかな)
今も、充分楽しいし、充実してる。それはわかってる。わかってるけど、だけどどうしてこうも虚しいのだろうね。