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とぷとぷとコップに注がれる麦茶をジッと見つめる。孝支んちの麦茶、うちのより色が濃いなぁとかどうでもいい事で気を紛らしていたけど、孝支の視線を感じて顔を上げた。


「な、なに?」
「そんなに緊張しなくていいのに」


そう言って孝支は笑うが、緊張するなって方が難しい。初めての彼氏んちで、まさか二人っきりになるとは…。今日親いるって言ったじゃん!


「ああー。いないの明日じゃなくて、今日だったみたい。勘違いしてたわ、ごめん」


はい、と麦茶の入ったコップを差し出してきたので、とりあえず素直に受け取る。直前まで冷蔵庫で冷やされていたそれは、氷が入っていなくてもしっかり冷たかった。気温との温度差が激しいからかコップは既に汗をかいている。

麦茶を飲めば少しは落ち着くかと思ったが、やっぱりうちのとは違う味の麦茶に、よそのお家に来ているという事実がより明確になって、緊張が増しただけだった。


「なまえー」
「はいっ」


緊張のあまり敬語になるあたしに、ニヤニヤ笑い続けていた孝支も真顔になって本気で心配し始めた。


「大丈夫?緊張し過ぎじゃない?」
「タブン、ダイジョーブ、ジャナイ…」
「そんなに緊張されたらさー、手出しにくいじゃん」
「ええっ?」
「…冗談だよ。ね、それよりさ、借りてきた映画観よう」
「あ、冗談?だよねー、あはは…」


珍しい冗談を言う孝支についていけずに、疑問符だらけになりながら乾いた笑いをする。そんなあたしを見て、孝支は深い溜息を吐いた。本当にわかってないんだね、と。


「あのさー、俺だって男なんだから下心ないわけじゃないんだからね」
「うん、……うん?」
「彼女と二人っきりになったらやりたいこといっぱいあるのにさ」
「う、うん…」
「今日は緊張し過ぎてかわいそうだから何もしないけど。次は覚悟しておいてね」


そんなこと言われたら余計に緊張が解けるはずもなく。結局、楽しみに借りてきた映画もどんな内容だったかなんて全く頭に入ってこなかった。あたしはずっと、苦笑いしながら映画を観る孝支の横顔ばっかり見ていたのだった。


(こんな彼の一面を私以外に誰も知らない)
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