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※電波少女?



突然公園に行こうとみょうじが言い出したのは、平日の部活終わりのことだった。部活が終わった時点で薄暗かった空はもう真っ暗で、決して進んで公園に行くような時間ではない。

(こんな時間に何しようってんだよ…)

宮地はみょうじと家が近かったことが、ハズレくじだったと今更ながら思った。部活終わりは夜遅いから家が近い奴がマネージャーを送ることにしようとか言い出したのは誰だったか。思い出せない相手に怒りをぶつけても、みょうじは行こう行こうとうるさい。こいつ、こんなキャラだったっけ。

当然ながら宮地は怪訝そうな顔をして拒否の反応を示した。しかし、みょうじは既に公園に行かないという選択肢を消去していた。

「いいからいいから」

宮地には何がいいのか全く理解出来なくて、いっそみょうじを放置して一人で帰ろうかと考える。でも真面目な宮地は、もし万が一みょうじに何かあったとき、責任が自分に無いとは言い切れなくないなと思って帰るに帰れないのだ。



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結局、なんだかんだとズルズル引きずられるように、薄暗い誰もいない公園に一緒に来てしまっていた。

「砂場いこ、砂場」

まさかみょうじと2人で夜の公園に来るとは。宮地はどんな反応をしていいのか困って固まっているのに、それが目に入らないのかみょうじはいつも以上に楽しそうだ。

「山作ろ。おっきいやつをさ」

宮地が返事をしないうちに、みょうじは公園にあった砂場に入り「ねぇ早く」と宮地を呼ぶ。

ここまできたら最後まで付き合うしかない。拒否しきれなかった自分にも責任があるのかもしれない。

宮地もだんだん何がなんだかわからなくなって、素直に腕まくりをして、みょうじの正面にしゃがみ込む。そして、みょうじ同様、ごく一般的なこじんまりとした砂場の真ん中に砂を集めた。

「これも使おうよ」

みょうじがどこからか、誰かの忘れ物らしき小さいプラスチックのバケツを持ってきて、山に水道の水をかける。こうすることで、砂の山が崩れにくくなるのだ。まだ小学生にもならない頃得た知識を思い出す。

小さい頃の記憶は、あれをしただとか、これをしただとか、事実だけは思い出せるのに、その情景は靄がかかったように曖昧にしか思い出せないから不思議だ。

事実、昔もこうやって砂山を一生懸命作った覚えはあるのだが、それがいつとか、誰ととか、その辺はわからない。

「よし、こんなもんか」

そう呟いたことにみょうじがうなづいたときに、ふと自分が夢中になって砂山を作っていたことに気付き、宮地は愕然とした。この歳になって、こんなことをするとは思わなかった。しかも、こんな時間に。部活のマネージャーと。

(俺たちは何をしているんだ?)

今更過ぎる疑問をぶつける暇もなく、みょうじが「穴掘ろっか」と砂山に手を突っ込んだので、半分ヤケになった宮地もそれに続いた。

「お、」
「あ、あと少しだね」

そして、ついに穴が繋がり柔らかい砂が崩れて、みょうじの冷たい指先に触れた。砂を掻き出して砂山の穴を完成させようとしたが、その宮地の手を握手するみたいにつないできたみょうじに戸惑いを隠せない。

「これ、宮地の手だよね?」
「ほ、他に誰の手があるんだよ」
「ふふっ、あったかいね」

謎の言葉を残し、みょうじはそのまま立ち上がる。

「じゃあ、そろそろ帰ろっか」

手についた砂を払うみょうじを宮地は砂山に手を突っ込んだ間抜けな姿のまま見つめた。

「どうしたの?もう遅いし、早く帰らないと」

これをするだけのために公園に来たのか。遅い時間になったのは誰のせいなのか。

山ほどあった言いたいことをぶつけるかわりに溜息をついて、

「そうだな…」

と返すのが、今の宮地の精一杯だった。


変な空気のまま、2人とも何を話すでもなく、みょうじの家の近くまで来た。宮地は一応家の前まで送ろうとしたのだが「ここでいいよ、この道真っ直ぐ行くだけだし」と言うみょうじに甘えることにした。今日はいつも以上に疲れたし、早く帰って飯食って風呂入って寝たい。

「じゃあ、またね」

みょうじの言った“また”が、部活で会うことなのか、公園に行くことなのかわからずに、宮地は返事に困ったが(公園に行くことなら拒否しなければと思ったからだ)、みょうじは返事を待たずに手を振って家の方へ歩き出していった。


しかしそんな心配をよそに、以来その公園には行っていない。それからも部活が長引いた日にみょうじを送る日はあったのだが、あの日以降みょうじが突然公園に行こうと言い出したこともない。

あれはなんだったのか。

なんだか怖くてみょうじに聞くに聞けないまま、あの日の出来事は思い出になった。ある意味一生忘れない思い出に。

独り宇宙空間に放り出されたようなあの感覚はもう二度と味わいたくないし、そう味わうこともないだろう。そう思う宮地だった。

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