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突然、新宿までわざわざ押し掛けてきたなまえは相当機嫌が悪い。失恋したばかりだからだろうか。普通、失恋とは振られた方に使う言葉だが、ある意味"恋人を失っている"んだから、振った方のなまえにも使ってみる。


「ねぇ、俺は忙しいんだけど」
「どーせ人のこと観察してヘラヘラしてるだけでしょ。チャット覗いてるだけとか。暇じゃん」
「そういうなまえはどうなの?わざわざ別れた恋人の家に来るなんて物凄い暇人だよね」


ま、その振られた方が俺なんだけどね。


「どうぞ。紅茶よ」


ピリ、とする空気を苦にする様子もなく、波江がティーセットを運んできた。なまえは見せつけるかのように、はにかんだ笑顔になる。


「波江さん、ありがとう。ごめんね、いきなり押し掛けちゃって」
「いいのよ。あなたが来てくれると、それだけこの男と関わる時間が減ることになるから。こっちが感謝したいくらい」
「波江さんも苦労してんだね…」
「まぁ仕事だと割りきってるからいいけど」


ごゆっくり。そう言って波江はドアの向こうに引っ込んだ。


「2人とも酷いよ」
「事実だもん」
「でもさー、本当に何しに来たの?」


わざと冷たく言いながら、向かい合って座っていたソファーから立ち上がり、パソコンに向かう。俺の行動が予想外だったのか、ちょっとだけ戸惑うなまえは可愛い。


「目的がなきゃ駄目なの?」
「だから忙しいんだって」


なまえは俯いて、少し考えて、慎重に言葉を吐き出す。俺しか聞いてないのに、俺しか聞こえないように。


「……会いに来ただけ」
「え?」
「自分でも、わかんないけど、臨也に会いたくなっただけ」


本当に、困ったような顔で呟くなまえ。形勢逆転。俺が優位になる。


「なまえが別れたいって言ったんだよね?」
「…うん」
「恋人じゃないならオカシイよね。いきなり会いに来るとか」
「そうだよ、ね」
「なんで会いに来たの?」
「だって臨也はいつも助けてくれるでしょ?あたしは強くなりたいんだよ。1人で立っていられるくらいに。だけど、やっぱり、不安なときは臨也を思い出しちゃう。それが当たり前みたいに」


当たり前に思うのは"当たり前"なんだ。だって、俺がそう仕組んでいるんだから。きっと、例えば俺が、わざとなまえがピンチになるような状況を作り、ギリギリのタイミングを見計らって助けているなんて、想像もしてないんだろうなぁ。ただ、好きだから優しいとか、助けてくれてるとか、単純に思ってるんだろう。



俺は人間が好きだ。愛している。それも、平等に。しかし、俺だって人間だ。特別に想う人だっている。なまえを1番に愛しているだけで、他の人間だってちゃんと愛してる。だから、1人くらい、どんな手を使ってでも手に入れたって、バチは当たらないんじゃないかなぁ。


「結局は俺が好きなんでしょ」


自分で仕掛けといて、俺もよく言うよ。


「うん、そうなんだと思う」


そして、単純に純粋に生きるなまえが何よりも誰よりも興味深くて……



そうして、俺たちは、恋人という関係に戻った。また今までみたいに、別れたり付き合ったりを繰り返すんだろう。

何度でも。




そう確かに君も俺も互いを強く求めている。でも望む関係は違う。俺はただ君という存在が愛しい。


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