with Kuroo



「へい、クリスマスおめでとー」


ちん、と音を鳴らしてグラスを交わし、互いに一気に口元へ。

こんな小洒落た事をしててもグラスの中身はノンアルコールのお子様用のシャンパンだ。なぜなら私たち、れっきとした高校生。


「… クリスマスおめでとーって何かおかしくないですか?おめでたい事ってあります?」


ごくりとそれを飲み干して、2杯目を注ごうとするクロ先輩に聞いてみた。


「キリストさんの誕生日だろ?」
「私たちには縁もゆかりもない人でしょ」
「そう言われればそうか」
「しかもキリストさんは25日生まれです。イブじゃないです」
「細かいよぅすみれチャンは」


そう言いながら私の頭をわしゃわしゃ撫でて、もう一度「クリスマスおめでとー」と乾杯をした。
だからもうこれには突っ込まない事にした。


「研磨は呼ばなくてもいいんですか?」
「今頃スマホと睨めっこだから」
「あー…」


クロ先輩と幼馴染の研磨は毎年クリスマスをどちらかの部屋で過ごしていたらしいが、今年は私という存在があるためにその恒例の行事は無くなったらしい。

二人集まったところで研磨はゲーム、クロ先輩は漫画を読んだりテレビを見たりして「ただ同じ部屋にいるだけ」らしいので構わないとの事だったけど。

しかもスマホゲームの発達した今、ゲームの中でもクリスマスイベントで色々な事が起こるらしく忙しいのだそうだ。


「だから今日は二人でゆっくり出来るヨン」
「ヨンって…」
「甘えてくれてもイイんだよー」
「…そう言われると甘えにくいです」
「照れ屋か。」


そう。私は照れ屋だ。自分で言うのもなんだけど、超ウルトラスーパー照れ屋。

でもクロ先輩は「そういうとこも好き」と言ってくれるので助かっている。
その反面、本当はもっと可愛く甘えて欲しいのかなあと思う事もある。


「今日は何時まで居れんの?」
「…えっと。10時までには帰るようにって言われてます」
「あと1時間で出ないとじゃん」
「そーですね…」


答えながら時計を見ると、確かにもう8時だった。

クリスマスを恋人とゆっくり出来るのもいいけれど、私たちは春高バレー全国大会を控えた身。明日も練習、明後日も練習、寝ても覚めても練習なのだ。


「すみれはさあ、俺といて楽しい?」


練習のことをぼんやり考えていたら、クロ先輩が頬をつついて聞いてきた。


「楽しいですよ」
「えらい真顔ですな。」
「クロ先輩は優しいし、いつも私の事色々気にかけてくれるし、無理な事言わないし」
「ほうほう」


梟みたいに(と言ったら怒られるけど)返事をしながらクロ先輩はグラスを空にする。そして、隣に座る私のほうへ少しずつ寄ってきた。


「じゃあ俺が優しくなくなったらどうする?」
「………?」
「無理なお願いしちゃったら怒る?」
「……どんなですか」


なんとなく予測できたけれど一応聞き返す。と、床に置いた私の手を取り両手でぎゅっと包んでクロ先輩が言った。


「えっちしたい。」


簡潔、かつ素直でよろしい。

…と言いたいところだけどそんなお願い、やすやすと受けるわけにはいかない。
そりゃあ断固拒否ってわけでは無いけど、恥ずかしいもん。


「却下です」
「クリスマスプレゼントは私だよ、的な」
「む、無理ですっ」
「ほほう」


また梟みたいに言うと、クロ先輩が私のもう片方の手を確保した。

私は特別細身なわけでは無いが、私の両手首くらいは彼の片手で拘束するには充分。
力にものを言わせる気だなと思いちょっと睨んでみると、クロ先輩はエヘヘと苦笑いをしていた。


「…クロ先輩?これは」
「有無を言わさず頂こうと思います、の図」
「わああっ、ちょ、」


気を抜いた隙に両腕をぐわんと持ち上げられ、クッションからはお尻が浮いた、ああ抱っこされてる!と思った時にはベッドの上にダイブ。

すかさず上に覆い被さってくる身長差約30センチの彼。何食わぬ顔でスカートの中身を覗くと、またふふふと笑った。


「ちゃんと可愛いパンツはいてるじゃん」
「みみみ見ないで下さい!」
「勝負用じゃねえの」
「ちが…」
「じゃあ誰に見せるため?」


スカートをめくる事はせず、その代わりスカートの中に手を伸ばしながらクロ先輩が言った。
しかもそのまま下着を脱がせるなんて事はしないで、私のお尻をすりすりと撫で始める。


「返事が聞こえませんケド。」
「…もう!分かってるんでしょ」
「分かんないね」


お尻を撫でながら上半身を倒してきて、顔と顔との距離はすでに数センチ。
クロ先輩は、照れ屋の私を行為に持っていくのが恐ろしく上手だ。


「自分の口で言いなさいよ」


ここまでされると、もう観念するしか無いんだから。


「…クロ先輩に…見せるため…です」
「くう、いい響き」
「ふざけないで下さいっ」
「真面目だよ。じゃあいただきます」
「!!」


結局はいつもどおりクロ先輩に負けて、帰宅のタイムリミットぎりぎりまで私自身をプレゼントする事となってしまった。

いくら照れ顔で素の自分を隠しても、スカートの中を見れば「この日のために用意しました」という事がバレバレだったらしい。


黒尾鉄朗と、お部屋で過ごすクリスマス