陽を飲み込むまで踊りましょう


教室内でもよく目立つ姿、響く声に惹かれるのは簡単な事だった。
三年生になってから初めて同じクラスになった菅原孝支はバレー部なのだと知り、そのバレー部が今年は結構いいところまで行ってるのも耳にした。クラス内ではおちゃらけてるのに、部活を真面目にやっている事も魅力のひとつであった。
窓際の席で風に揺れる髪も、太陽に照らされて光る肌も、「陽だまり」というものを擬人化したら菅原孝支になるんじゃないかと思うほど。


「眩しい」


ついつい口に出てしまった。菅原くんと二人で向かい合って、日直の仕事をしている時に。
一日の最後に日誌を書いていると、ちょうど雲が流れて現れた太陽の光が差し込んできたのだ。それが彼の色素の薄い髪を照らし、焦げ付いてしまわないかと心配になる。けれど菅原くんは目を細めた私を見て、日誌を書くペンを止めた。


「そう? カーテン閉めよっか」
「んーん、大丈夫」


だって眩しいのは嫌いじゃないから。菅原くんは「そ?」と言って再び文字を書き始めた。まつ毛の色も薄いから、きっと髪もほぼ地毛なのだろう。
窓もカーテンも開け放した昼下がりの教室は下校する生徒の話し声が外から聞こえてくるぐらいで、他は風の音と、菅原くんがペンを走らせる音だけ。


「菅原くんってさー、その髪、いいよね」


透き通りそうで、陽の光を浴びると輝いているように見えて。「さんきゅー」と軽く応えられたので、言われ慣れているのかも。


「肌も白くて綺麗だよね」
「それはコンプレックスでーす」
「えっ? うそ、ごめん」
「許さん! ほい、書けた」


笑いながらの言葉だったけど、ぎくりとした。男の子に肌が白い事を褒めるなんてタブーの可能性がある事を失念していた。ごめんね、と呟くと菅原くんは首を横に振ってくれたけれども。


「まあべつに良いんだけど、白くても。女の子みたいって言われんのが嫌でさ」


そう言って笑う彼の表情は確かに男の子であった。少年のようでもあり、もうその域を超えている今だけの姿。


「…じゃあ、陽だまりみたいって言われるのは?」


私は菅原くんを女の子のようだと感じた事は一度もない。陽だまりという言葉を聞いて、菅原くんはぽかんとしていた。それから私の言葉について真剣に考えてくれたようだけど答えが見つからなかったらしく、首を傾げながら言った。


「…ポエムっすか?」
「違います」


そんな良いもんじゃないけどなあなんて頭をかく時、あらわになる腕はとても逞しい。菅原くんには私の視線を虜にする要素が満載だ。


「でも、それは許す! 明るいのは好きだ」


と、文字どおり陽だまりのように笑ってみせるので、太陽光の効果も相まって私は思わず目を逸らした。眩しくて眩しくて仕方がないから。


「…そういうとこ凄いよね本当」
「さっきから何を言ってんの? さては俺の事が好きだなコノヤロー」


こつんと腕を小突かれて、私は固まった。勘づかれているの?と。でもどうやら彼は冗談で言ったみたいで、私を見て同じように固まった。


「……あれ? …まじ?」


そこに私が映っているのが分かるほど大きく目を見開いて、菅原くんは黙り込んだ。マジじゃなかったらこんなにあなたの事を褒めるわけが無い。


「…悪いですかコノヤロー」


それなのに私は彼の言葉を借りて言ってしまった。可愛い照れ隠しの方法なんて知らないのだ。知られてしまった気持ちを隠す方法なんか。
菅原くんの口から「悪くねえぞコノヤロー」と言われるまでは自分をどこかに閉じ込める手段ばかり考えていたので、返ってきた言葉の意味を理解するのは時間がかかってしまった。まじですか、コノヤロー。