それはちょっとした偶然と一つの好奇心といえばいいのだろうか。きっとこいつを見つけなければ俺はこんなことを思いつかなかっただろうし、思いついたとしてもこいつを買うという選択肢がない俺は好奇心だけでとどめていただろう。けれど、俺は家の倉庫の奥底から隠されていたそれを見つけてしまったし、それを試したい相手もいる。

 誰のものなのか、なぜここに入ってるのか。

 そんな疑問を考えだしたら負けだとわかっているから、何も考えず、ただ新品だということに感謝しながら、俺はニヤける口元が抑えられなかった。
 ああ、あいつの顔が見るのが楽しみだ。それにこの頃確かめたいこともあったし。
 俺は家族の誰にも見つからないようにポケットにしまい込んだ。





 たまたま渡り廊下を歩いている途中で中庭を歩いている金田一を見たときはなんだか様子がおかしかった。顔がいつもより赤く見えるし、いつもなら国見が隣にいるなら話しかけているのに、今日は黙って国見の後ろを歩き国見をにらみ上げている。しかし、前を歩ている国見は素知らぬ顔だ。

 喧嘩でもしたのか?珍しい。

 基本的に国見と金田一は喧嘩をしない。金田一は喜怒哀楽はっきりしている性格だから、怒るときは怒るのだが、国見がそれを受け流すのが多いからだ。まぁ、金田一が怒るといっても冗談交じりの、俗にいう男子学生によくあるノリに合わせた怒りで本気で怒ることはなかなかないので、国見も簡単に受け流すのだろうけど。けれど、今日はいつもとなんだか違う。金田一は悔しそうに国見を睨み上げているし、国見もきっとわかっているのに無視をしている。

 なんなんだ、あいつら?

 先輩として彼らの間に割って入ったほうがいいのか、それとも当人たちの問題だから放っておいてもいいのか考えあぐねていたら、隣でべらべらしゃべっていた及川もしゃべるのをやめた。そして、俺の視線の先に二人がいるのに気付き、歩みをとめた。

「あっれー?国見ちゃんと金田一じゃん」

 距離はそんなに離れていないが、向こうはまだこちらに気付いていない。隣の及川も二人のおかしい様子に気づいたんだろう。何か知ってるか?と及川に聞こうとしたが、その前に及川はなんだか悪い顔をして、二人に近づいていった。

「やっほー!き・ん・だ・い・ち!」

「ぅはぁい!!」

 ばしっと及川は金田一の尻を思いっきりたたく。それとともに上がる金田一の驚き声。あまりにも大きな声に俺は驚いてしまう。

 そんなに驚くことだっただろうか。

 声を出した本人も驚いた顔で慌てて口を押さえてる。昼休みの時間にここを通る人は少ないので、通行人は疎らだったが、それでも金田一の声に驚いた通行人は金田一をじろじろ見ている。その視線に恥ずかしさを感じたのだろう。金田一は頬を赤らめている。

 こいつが驚かせたばかりにかわいそうに。

「おい、及川。このクソが。後輩苛めてんじゃねぇよ」

「だから、クソとかいうのやめて!それに苛めてないですー。金田一がちょっとビックリしただけだもんねー」

「うっ、はい…すんません…」

 後輩に同意を求めれば頷くに決まっている。この性悪め。チッと軽く舌打ちをすれば、及川はガラ悪すぎ!と喚いた。もうめんどくさい。無視だ無視。
 俺は及川から金田一に視線を移す。金田一の顔はまだ赤い。さきほど周りから集まった視線からの羞恥だけではないだろう。とはなんとなくわかった。けれど、それ以外に顔を熱くさせる原因などない。

「金田一。体調でも悪いのか?顔赤いぞ」

「え!あ、大丈夫っす!!全然元気っす!」

「そうか?」
 
「そうだよ、岩ちゃん。金田一は元気すぎるぐらいだよー、ね?」

 そのとき、ふいっと及川の視線が動いた。それはまるで誘導するような視線で俺もつられるように視線を下に動かす。






「ぐはっ!!」


 しかし、その前に国見が普段のやる気のなさから感じられないぐらいの速さで金田一の腹を殴った。金田一は何も衝撃を受ける準備をしていないせいでもろにくらってしまい、そのままうずくまる。そんな金田一を冷めた目で見下ろす国見。

「なんだ、腹が痛いのか。痛いんだな」

 そりゃあ、殴ったからな。しかし、国見が人を殴るなんて珍しい。国見はすぐに手が出ない人物だ。むしろ、手より口のタイプだ。大人しそうに見えて、たまに言うことがキツい。

「じゃあ、保健室行くぞ」

「ぐ…う…」

 引きずられるように連れていかれた金田一を見ながら、俺はまたもや首をかしげてしまう。

「国見のやつどうしたんだ?」

「相変わらず鈍いよねー、岩ちゃんは」

「あ?」

 含みのある笑みを浮かべる及川にムカついて、思わず手を振り上げる。

「すぐ暴力に訴えようとするのはよくないと思う!」

「そうさせてるお前がわりぃんだろ」

「言いたくもなるよ!あの二人見てて本当に何もわかんなかったの?」

 あの二人?まぁ、話の流れからして金田一と国見のことだろう。しかし、あの二人を見てて何がわかるというだろう。
 二人がいたときのことを思い返してみても、金田一が顔がやけに赤かったこと。国見がやけにイラついていたことしか思い出せない。それの何がわかるというのだろうか。頭をひねるが、やはりさきほど出した答えしか出てこない。

「やっぱり、金田一風邪ひいたんじゃねぇか?」

 誰にも言わずに我慢していた金田一に国見がついにキレたとか。あ、ぽいぽい。名推理じゃねぇか?

「名推理どころか大外れだよ。空振りスリーアウトチェンジ」

 俺の心を読んだのだろう。軽く手を頭ぐらいの高さまであげて、呆れた表情をしながら審判のようにブンブンと手首をまわす。

「なんだよ、じゃあてめぇは何かわかんのかよ」

「わかったからあんなに国見ちゃんが怒ったんじゃん」

「は?」

 わかったから国見が怒った?ますます意味が分からん。

 自然と眉間にしわが寄るのがわかる。そうすると、及川はまだわかんないの?と呆れた表情。やっぱり殴ってやろうか、こいつ。

「あ、岩ちゃんも今度してみる?」

「何がだよ」

「あの二人がしてたこと」

 まるで名案だというように及川は笑顔でいうが、その笑顔はどことなく怪しい。それに二人がしてたことといったら…

「腹パンのことか?それなら今からでもしてやるぜ?」

「だから、なんでそう暴力になるの!?」

 ぐ、と拳を握ると、及川は泣きそうな声で反論してきた。なんだよ、それ以外に二人がしてたことなんてないじゃないか。








 人気が少なく、昼なのに薄暗いそこは絶好のカップルのヤリ場だと噂の旧校舎の空き教室に、俺と国見はいた。声も音も聞こえないから、ほかの教室に先客はいないだろうし、用がある教師や生徒もいないだろう。そのことに少しだけ安堵すると同時に、国見がひどくイラついていることで助けもいないこの状況にどうなってしまうんだろうと恐怖を覚えた。
 綺麗な顔のやつがキレるとすごく怖い。国見は不満そうな顔はよく見せるが、滅多に怒らないし、キレない。でも、国見と付き合うことになって、本当に時々すっげー怖い時がある。それが今だ。元をただせば、国見のせいだというのに、なんでこいつはこんなに怒ってんだって言ってやりたいが、言えない。怖すぎる。

「なんで勃たせてんの?」

「ひっ!だ、だって…」

 国見が俺の股間をつかむ。本来は恐怖さえ覚えるその行為は残念ながら、今は気持ちいいとしか思えなかった。最悪だ。

「なに?及川さんに触られて感じたとか?」

「ち、がうに決まってるだろう!?」

「どうだか」

 あの時は本当にひやひやした。尻を叩かれた瞬間、中に入ってたやつをすっげー締め付けてそれが逆に気持ちよくなってしまった。けれど、あれは及川さんに触られたからというよりは不可抗力というやつだ。
 しかし、国見は冷たい目をしながら、ポケットに手を突っ込む。あ、やべ、と思ったら、もう遅かった。

「あ、ひっ…すい、っちいれんな…あっ、ぅ…」

 ブルブルと尻の中に入ってるものが震えだす。小さくヴーという携帯のバイブ音のようなものが聞こえてきて恥ずかしくなる。

「ずっと入れてほしかったんだろ?だから、俺のこと見てたんじゃないの?」

「逆だ、バカ!こんなの入れやがって…ふっ、はっ、ぁ」

 あれは本当にビックリした。昼ご飯を食べ終わったあと、いきなりトイレの個室に連行され、家にあったからといわれ、いきなり小さな機械…いわゆる大人の玩具というものを尻に突っ込まれた。その前に軽くローションで解されたから、すんなりと入ったけれど、あの時はいつトイレに人が入ってくるかわからなくてひやひやしたし、それよりなにより何の雰囲気もなしに玩具突っ込んでくるってなんだよ、そういうのってなんか雰囲気とか事前に確認とるもんじゃねぇの!?
 それにここじゃ金田一苛められないから行こうぜとか、なんだよ!独裁者かよ!王様かよ!影山かよ!こんなこといったら、国見怒るってわかってるから絶対言わないけど。で、その途中で及川さんたちに会ってしまったんだけど…

「あーあ、完勃ちしてんじゃん。このままじゃ、ズボン汚れんじゃね?」

「ふっ、う…くそ…」

 ズボンが汚れてしまうのは避けたい。しかし、国見はスイッチを切る様子はない。無理やり取り上げれたらいいのだが、こんな状態で国見に勝てるとは思えない。むしろ、嬉々としてさらに俺を追い詰めるだろう。それならば、やることは一つしかない。
 ガチャガチャとベルトをはずし、前を寛げる。窮屈そうに収まる自身は下着に綺麗な円のシミを作っていた。これ以上下着も濡れるにも勘弁なので、下着も少しずらす。するとぶるんっと何も弄られていない俺の息子は勢いよく飛び出す。

「こんなとこでパンツまで脱ぐなんて変態だよね。ってか、変質者?」

「お前、が脱がせてるんだろ…」

「俺は別に脱げとか言ってないじゃん。汚れるって言っただけだし。それを勝手に脱いで、勃起したチンポを俺に見せてんのは金田一だろう?」

「…っ」

 こんなふうになったのは全部国見のせいなのに、なんでここまで言われなきゃいけないんだよ。けど、国見のいうことに反論することもできなくて、むしろ本当に俺は露出狂の変態のようで、顔が熱くなる。

「ってかさー、お前隠そうとかする考えとかないの?そこまでバカなの?岩泉さんはお前と同じように鈍感だからわかんなかったけどさ、ふつうは気づくよ?」

「こ、んなの…入れた、おまえがわるいだろ…」

「そうだね。でも、お前はこの玩具を受け入れたくせに隠す努力をしてないじゃん。真っ赤なになりながら俺は玩具を入れてる変態ですって顔してさ」

「んな顔してねぇよ!」

「してたよ。俺、お前にそんな性癖があるんじゃないかって疑ったぐらいだし」

 なんだよ、そんな性癖って…ないに決まってんじゃねぇか。ってか、隠す努力めちゃくちゃしてたじゃねぇか。及川さんは、そりゃあ相手のことをよく見る人だからバレたかもしんねぇけど…

「ってかさ、スイッチ入れなかっただけまだマシだろ?スイッチ入れてたら、お前はきっと恥もなく、及川さんと岩泉さんの前であんあん喘いでんだろ」

「んなことしねぇよ!」

「ふーん。じゃあ、あえぐなよ」

「え?」

 カチカチカチッ

「あ゛っっっっ!!」

 一瞬何が起こったのかわからなかった。微弱ながら動いていたそいつはいきなり俺の腹の中で乱暴に動き出した。

「ひっ、ぐっ…」

「ほら、声我慢しろよ。できんだろ?」

「う゛…ん゛…んん゛っ!?」

 必死に手を口で押えて声を抑えるが、どうしても声は出てしまう。そのうえ、呼吸も止まってしまって、もうどうすればいいかわからない。よくわからないけれど、国見がすごく怒っていて、それが俺に降りかかっている。これで素直に声を出そうものなら、よけいひどくされるだろう。頭の悪い俺でもわかる結末に俺は必死に声をおさえる。しかし、国見はそんな俺をさらに試すようにいきなり尻に指を突っ込みだした。

「はっ、すっげー震えてる」

「っっ!?」

 笑いながらつかんだそれを国見は俺の一番弱いところに押し付けた。そうされると、もう必死に我慢していたものもぷつりっと切れてしまう。

「あっあああああああああああああ!!!!!くに、くにみぃ…!そこ、そこはやだっ、あっ、いっ、あああああああああああああ!!!!」

「うるさい」

「んんんんんんんん!!!」

「声押えろっていってんの。本当にそこらへんのモブに襲われたいの?」

 ぶんぶんと首を横に振りながら、俺は国見の腕を握る。モブって、国見じゃないほかのやつってことだろう?それはいやだ。絶対いやだ。国見じゃないといやだ。
 でも、ダメだ、本当に出しちまう。この頃覚えさせられたところてんというものは、普通の射精より俺をおかしくさせる。やめろやめてくれと訴えるが、国見はこちらをじっと見つめるだけ。普段はけだるげで眠そうな目が情欲にぎらりと光ったのを見えたのがもう駄目だった。

「―――――っ!!」

 腰が震える。口元を抑えられていて本当に良かったと思いながら、俺は国見の手の中に嬌声を吐き出しながら、絶頂に達した。

「相変わらず変なイキ方」

 カチカチッという音とともに、暴力的な震えを起こさせていたそれは止まり、国見の指が中から消える。

「ま、それもいいと思うけど」

 ニッと滅多に見せない笑顔を見せた国見はどうやら機嫌が戻ったようだ。



END


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