※本誌ネタバレ注意!






 黄色、青色、緑色、紫色、水色、桃色…



 たくさんのある光の中で最もその色たちが好きだった。集まって光るその色は僕の全てだった。



 けれど、あるときから水色は消えてしまった。僕は集まった色が好きだった。だから、一つでもかけたらダメなのだ。僕はわざとその光たちを散り散りにさせて、その水色を探させた。そして、また元通りに集まることを願った。
 その願いは無駄な願いだった。集まることなく黄色が消えた。あわてて手を伸ばしたはずなのに、緑色が消えた。捕まえて抱きかかえたはずなのに、青色と桃色が消えた。ずっと傍で寄り添っていてくれたはずなのに、紫色が消えた。

 どこにいったのだろう。だって、僕はここにいるのだ。ずっとここで待っているはずなのに。なのに、誰も戻ってこない。どうして。どうして。僕は正しいのに。僕のいうことを聞けば勝てるのに。どうして誰も僕の傍にいないんだ?







 「君のバスケは間違っているからですよ」








 目の前には消えたはずの水色の光。けれど、それは大好きな水色ではなかった。いつも僕を肯定してくれた水色は消えていたのだ。


 違う。僕のバスケは間違っていない。だって、その証拠に僕は勝ち続けているじゃないか。この世の中は勝つことが正義なのだ。だから、いつでも勝ち続ける僕は正義なのだ。そんな僕が間違っているなんてありえない。








 「では、何で黄瀬くんは、緑間くんは、青峰くんは、紫原くんは、君から離れたんですか?」





 何で?




 だって、それは、はじめに僕が命じたからだ。そうだ、あいつらが各々に離れていったわけじゃない。僕が示した。そう、僕が示したから、あいつらは離れた。僕はいつでも正しい選択をするから、彼らはそれに従っただけだ。従っただけだから、僕の間違いを証明することではない。大丈夫。何も間違っていない。これは全て僕のシナリオ通りなんだ。不安になることは何一つない。






 「命じたから?それはおかしいですね。君が正しいのなら、どうして彼らは君に背を向けているのですか?」





 背を向けている?そんな、嘘だ。だって、彼らは、僕の……。






























 目の前の景色に声を失った。

































 宝物だった光は僕を見ていなかった。


































 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!!









 だって、いつも一緒にいたじゃないか。一緒に勝ち続けたじゃないか。僕はお前たちを見続けたじゃないか。なのに、彼らが僕を見ないなんて、そんなの嘘だ。嘘だ。嘘に決まっている。決まっているんだ。それなのに、目の前の景色はそれを否定する。






 「わかりましたか?でも、大丈夫です。君も変わることができるんですよ、赤司くん。だから、こちらに……」





 目の前の光が手を伸ばす。笑いながらこちらに手を伸ばしてくれている。あぁ、僕はこの手をとったらいいのだろうか。そしたら、彼らはまた僕を見てくれる?そうしたら笑いかけてくれる?そうしたら、昔みたいに戻れる?そうしたら…


















 「じゃあ、こうすれば、いいんじゃないかしら?」



 するりっといきなり目の前が真っ暗になった。誰かの手が僕の目を覆ったのだ。



 「これで何も見えないわよ。ねぇ、征ちゃん」



 優しく語り掛けてくる声。そうだ。何も見えない。手を伸ばした姿がどこにもいない。そして、僕を否定し続けた光も僕から離れた光も何も見えない。そのことに僕はなぜかひどく安堵した。




 「征十郎は正しい。それは俺らが証明し続けているだろ?」




 いきなり右手に温もりが訪れる。誰かに握られたのだ。温かい。温もりは久しぶりに感じた。あぁ、光が離れたときから僕は一人ぼっちだと感じていたが、僕は1人じゃないのだろうか。嬉しい。誰も僕の傍にいないと思っていたから。





 「あんなん負けたやつの戯言やって!征は俺たちの言葉だけ聞けばええんよー」



 両耳が塞がれる感触。手で塞いでいるせいか、さきほどまで聞こえていた雑音のような周りの声は聞こえなくなり、僕の傍にいる彼らの声だけが聞こえた。それはどれもこれも僕を肯定する言葉ばかりだった。今までの自分を捨てなくてもいいという言葉だった。





























 「僕は……変わらなくていいのか?」



 震える声で聞いてくる征ちゃん。なんて可愛いの。勝利だけが全てと思っている征ちゃん。『キセキの世代』に裏切られちゃった征ちゃん。可愛そうな征ちゃん。でもね、大丈夫よ。私がいるわ。ずっとずっとあなたの目を塞いでいてあげる。あなたがいやなものを見ないように、私が隠してあげる。不安になるなら、いつだって言葉にしてあなたを安心させるわ。



 「ええ、だって、あなたは正しいもの」



 甘い甘い声で囁けば、征ちゃんは嬉しそうな顔。やっぱり可愛い。こんな可愛い子をどうして手放したのかしら、あの子たちは。本当に不思議。私ならずっとずっと傍に置いて、閉じ込めて、離れないようにするのに。まぁ、そのおかげで私のところに征ちゃんが来てくれたのだから、嬉しいことだけどね。お礼だけは言っておくわ、ありがとうね。『キセキの世代』さん。


































 「でも、テツヤが…」




 こいつは本当に帝光中のやつらが好きだな。1人にされたくせに、まだあいつらを求めている。本当はそんなやつらなんか忘れろと言いたいところだが、そうしたらきっとまたつらい顔をするだろう。そんな顔することはここにいる全員が願っていないことだ。



 「なら、お前のバスケでそいつを正せばいい」



 まぁ、正したとしても、そいつらの元に征十郎を返すつもりはないが。しかし、征十郎はまた笑う。嬉しそうに幸せそうに。きっと、そういってくれることを待っていたのだろう。勝利しかしらない愚かな子ども。けれど、誰よりも間違いを指摘されることを恐れている可哀想な子ども。そんなやつだからこそ俺たちはついていく。完璧なのにどこか危なっかしいのだ、この赤司征十郎という人物は。だから、俺たちは征十郎がこれ以上壊れないように大切に大切に閉じ込めておくのだ。もう、誰にも渡してなんかやらない。あいつらが返せといっても知らない。だって、手放したのはお前らだろう?



































 「でも、僕は……」





 テツヤくんと一緒にいたいとでも言いたいん?そんなんあかんで、征は俺らと一緒にいやんなあかんねんから。



 「俺は今の征が一番好きやで。誰よりも」



 あまーいあまーい言葉を吐いてやれば、征はちょっと驚いたような顔。まぁ、目隠しされてるから上半分は見えんけど。でも、ほんまのことやで?1人は大丈夫なふりをするくせに、人一倍寂しがりややし、人に偉そうに命令するくせに誰よりも俺らのことを考えてくれる優しい性格。そんな征が大好きやで。やのに、征はテツヤとか、敦とか、大輝とか、真太郎とか、涼太とか。あんなやつらばっかり。正直、毎日嫉妬してたんやでー。
 でも、今は最大のチャンス。大好きな大好きなテツヤくんに否定されちゃったからな。傷心の征は人の好意に簡単に釣られちゃう。純粋って楽やで、ほんまに。テツヤくんもありがとうな。君はそのまま征を自分の方に引き寄せたかったと思うけど、そんなん俺らが許さんに決まってるやん。ずっとずっと俺らのもんやで、征は。どれだけ後悔したって、もう返してやんないよ。


































 「…本当か?」





 あぁ、彼らの姿が見えない。彼らの声が聞こえない。彼らの温もりがない。全てが新たな色として塗り替えられていく。






 「本当よ。だから、あなたは何も気にしないで、私たちと一緒にいればいいの」








 離さないし、離れるつもりもないわ。私の手の中で永遠に幸せな夢を見ましょう。








 「俺たちが傍にいる。ずっとずっと」







 今はあいつらの代わりでもべつにいい。いつか、俺を見てくれれば。







 「愛してるで、征」









 お前が安心するなら、愛の言葉ぐらい腐るほど囁いたるで。寂しいなら抱きしめたるし、お前が望むんやったら、抱いてもいい。だから、あいつらにはバイバイしよな。



END
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