同棲をしてからというもの、週に2日以上は敦と性行為を行っている。場所は様々で、寝室からリビング、浴室、玄関、果ては料理中のキッチン……余りにもひどかったので、一度包丁を突きたててやったぐらいだ。
 睡眠欲、食欲、性欲と三大欲求にどこまでも従順な敦は、このように雰囲気もなにもそっちのけで、あちらの気分で盛ってきた。

 赤ちんが目の前にいるのに、1人で抜く意味がわからない。それなら赤ちん抱くほうがいいに決まってんじゃんというのが敦の持論だ。

 まぁ、敦の言いたいことはわからなくもない。僕だって敦と性行為をしたほうが何倍も気持ちいいし、満たされる。愛されてると全身で感じることができた。


 ………いや、今は僕の気持ちは関係ない。

 結局、僕が言いたいことは、受け入れる側の負担というものも考えて欲しいということだ。こちらにも責任はもちろんあるが、盛り上がって、一日動けなかったのが数回……といっても、大体翌日が休日なのでそこまで咎めるつもりはない。
 問題は大学がある日だ。敦と違って、大学ではバスケも何も運動をしていない僕は中高に比べ、格段に体力が落ちている。あちらは体力を維持したままだから、変わらずに性行為を続けることができ、かつ次の日も動けるのかもしれないが、そうはいかない。その結果、一ヶ月に一度は午前のコマをサボってしまっている。原因はもちろん夜通し行った性行為での寝坊だ。
 冗談じゃない。中高無遅刻無欠席を貫き通してきた僕が、こんな一ヶ月一回の無断欠席。それも理由が寝坊とは言語道断。許されるはずがない。


 どうにかして敦の性欲をなんとかさせねばと考えていた矢先、性行為をしない日が約一週間続いた。まず、敦が所属している大学のバスケ部が連休を使って、二泊三日の遠征を行うこととなったのだ。他県に赴き何校かの大学と練習試合をしたり、体育館を借りて練習をしていたらしい。毎夜、敦から電話がかかってきて、向こうの消灯時間ギリギリまで話したときは、高校時代を思い出して、どこか懐かしかった。

 合宿の前は連休ということで出されたレポートに、敦が追われていた。僕もいろいろと出されていたが、敦とは違い、連休は予定がなかったので、連休中にすませた。
 そして、合宿から帰ってきたその日は、さすがに性欲より疲労が勝ったらしく、身体を重ねることなく敦は寝てしまった。

 べつに残念に思っているというわけではない。たしかにレポートなどが重なり、一週間ほどは密な接触をしていなかったから、久しぶりに食料にありつける獣のように襲われるのではないかと、敦が帰ってくるまでは身構えていたものだ。そして、口づけの戯れも程々に寝てしまった敦に拍子抜けしたことも認める。物足りなかったとかも思ってない。僕も用事があったのでちょうどよかったのだ。
 用事というのは大学の論文発表会だ。僕が発表する、ということではなく、発表者は先輩や教授など上の人たち。しかし、聞くからには質問をしなくてはいけない、興味を持たなくてはいけない(僕が入っているゼミにはそういう訓えがある)ので、半端に発表内容を聞くだけではいけない。そのため、疲労が残る状態で参加したくなかった。だから、敦がすよすよと寝てくれて、本当に良かった。


 しかし、まさか論文発表会の後に感想文という名のレポートを書くとは…



 そのせいで、翌日の軽く跨ぐ時間に僕は我が家へと帰ってきた。












 現在午前1時。普段の習慣は怖いもので、こんな時間であっても小さな声で帰宅の挨拶をしてしまう。音をたてないように靴を脱ぎ、そのままシャワーを浴びようと脱衣所に向かおうとすると、リビングには明かりがついていることに気づく。
 こんな時間に電気がついている理由なんて一つしかない。いや、強盗の可能性もあるかもしれないが、セキュリティ万全のこの部屋に強盗が入るのだろうか。まあ、もし強盗がいたとしても、僕にかかればどうってことはない。


 敦、まだ起きてるのか?


 珍しいと思いながらも、あわてて、しかし時間が時間のため足音をうるさくしないように気をつけながらリビングまで駆け足で行く。カチャッと小さく音をたてさせながらドアを開けてリビングを覗くと、明るい部屋の下、ソファーからはみ出る足を見つけた。
 肘掛けから覗くかかとは力が抜けており、リラックスしているとわかる。しかし、敦がいれば聞こえてくるお菓子の咀嚼音は聞こえないし、テレビもついていない。雑誌を読んでいれば、敦のクセからしてもう少し足が揺れているはずだ。


 これはもしかして…


「…敦?」


 ひとつの可能性を思い浮かべながら、小さく名前を呼ぶ。しかし、反応はなし。そのまま近づいていき、ソファーの背もたれから覗き込んでみた。すると、案の定昨日と同様、すやすやと気持ち良さそうに眠っている敦がいた。


 身体を痛めるから、寝るのなら寝室に行けと言っているのに…


 思わずため息を吐きたくなってしまったが、その前に雑誌や菓子類が散らばっている机が目に入る。そして、大事そうに胸に抱いている携帯も。その状況から、優秀なこの頭はまたもや正しいであろう予想が導きだされる。


 僕のことを待ってくれていたんだろうな…


 なるべく早く帰ろうとは思ったが、正確な帰宅時間がわからなかったので、敦には帰宅時間を言っていないかった。それに加え、解放された時間がもう敦が寝ているであろう時刻だったから、いつも帰宅するときにはメールをしていたのだが、今日はメールもしていなかった。
 この責任は僕にもあるなと、吐こうとしたため息を飲み込む。こうやって健気に待っていてくれる忠犬精神は過去も今もひどく愛しい。
 けれど、それはそれ。これはこれだ。

 先ほども思ったとおり、ベッドで寝ないと身体を痛めるだろうし、もう春の季節だろうと夜は肌寒い。風邪をひかないという保証はない。それに菓子を食べたのなら歯磨きをしないと虫歯になってしまう。そのうえ、机の上が食べカスや適当に放っている雑誌のせいで汚い。

 嬉しい気持ちは今十分噛み締めて、明日は説教だな。と心に決めながら、壁にかけてあるホワイトボードへ視線を移した。



今日の予定
敦→昼から授業。部活ミーティングだけ。帰るの18時ぐらい。
赤ちん:論文発表会。帰宅:夕方〜夜。夕飯×
明日の予定
敦→休講、部活休み。赤ちんといちゃいちゃ
赤ちん:休講



 そこには一週間の僕と敦の予定が書かれてある。互いに口で連絡しあってはいるのだが、記憶だけというのは少々不安があった。
 いや、そもそもこれを書き始めたのは、敦が情事中に思い出したように翌日の予定を言い出し、僕がそのときの記憶を曖昧にしたせいで少々トラブルがあったせいである。忘れてしまった僕も悪いが、そのときに言い出した敦も悪い。ということで、メモの役割としてホワイトボードに予定を書き始めたのだ。


 明日は僕も敦も休みか…


 偶然にもどちらもいれていた講義は明日休講らしい。
 背もたれからソファーの前に回り込み、寝ている敦の前に座り込む。そのまま手を伸ばし、敦の髪をそっと撫でた。さらさらと流れる髪はいつ触っても気持ちが良い。久しぶりの感触に頬をゆるませながら、流れるように米神、頬、唇へと触れていく。敦はくすぐったいのか、眉を寄せて微かにイヤイヤと首をふる。


 かわいい…


 頬の筋肉が緩む感覚をそのままに、唇に指を触れる。ふにと柔らかい感触に、ふとこの頃自分からキスをしていないことを思い出す。

 付き合い始めた当初は、敦がするのなら自分も同じぐらい返さなくてはと、敦がキスをしたらその次は僕がするようにしていた。屈んでくる敦につま先を伸ばして唇を突き出すようにキスをしていた僕は、今思えばがっついているように見えたのではないだろうか。……恥ずかしい。

 けれど、敦は僕以上にがっついていた。というより、僕が思っている以上に敦はキス魔だった。僕が口付けを返せば、上機嫌になり、さらにしてくる。それに返せば、またしてくる。切りが無い。

 次第に僕からしなくてもいいんじゃないだろうかと考えるようになり、いつのまにかされるがままになっていた。そのせいで、気がつけば自分からする機会がなくなっていっていた。


 久しぶりにキス、してみようか…


 なぜ、そう思ったのかわからない。もしかしたら、敦以上に僕は飢餓感を感じていたのかもしれない。一週間に二度以上は為されていた性行為。今日で一週間近く経っているが、軽い接触しか行っていないのだ。敦には言うつもりはないが、僕は敦に触れられるのが好きだ。

 膝立ちになり、敦の唇に顔を近づける。自分から仕掛けることが少ないせいで心臓がうるさい。まるで生娘のようだ。それに加え、敦が寝ていなければきっとこんな行動はできていない。僕は臆病者だなと心のうちで嘲笑った。
 わがままで勝手だが、これぐらいは許して欲しい。

 ちゅっと小さく音を鳴らしながら口付ける。久しぶりに触れた唇は柔らかくて、温かかった。


「……」


 唇を離して、じっと敦の様子を見る。しかし、敦はいまだに暢気にくうくうと寝息を立てて眠っていた。


「……」


 何かを期待していたわけではない。眠り姫のように口付けをしたら目覚めるというアクションを起こしてほしかったなどとも思っていない。むしろ、目覚めなくて正解だ。これで目覚めたら羞恥心で死んでしまう。
しかし、身動ぎもせず暢気に寝息をたてるだけというのはいただけない。
なんというか、隙がありすぎる。もし、襲われてでもしたらどうするというのだ。最近の男女間は草食男子、肉食女子といわれているほど、女性は強かだ。こんな無防備だとペロリと食べられてしまうかもしれない。

 いや、もしかして、触れるだけがダメだったんだろうか…?

 試しに軽く口をあけて、敦の下唇を食む。しかし、敦の反応はなし。すーすーと子供のように何の危機感もないような寝息のみが聞こえる。


「……」


 もう一度キスをするが、変わらず。唇に舌を這わせて、軽く口を開けさせるが、動きはない。もしかして寝ているフリをしているのかと思い、天帝の眼を使ってみるが、筋肉の動きはなくリラックスをしている。


 本当に眠っているだけ、だと…!?


 よほど疲れていたということだろうか。それとも眠ると、なかなか起きない体質なのだろうか?
 同棲して月日は幾分か過ぎているが、こんな敦を知らない。新鮮な気持ちと、どこまで触れれば起きるのだろうかという好奇心が湧き上がってくる。
 疲れている相手にダメだと良心の呵責が襲うが、好奇心には勝てない。それよりなにより、僕が敦に触れたい。
 今日の朝までは敦が寝てくれてよかったなどと思っていたのに、今となっては昨日抱きしめられながらでも眠ってくれたらここまで僕が悶々せずにすんだのに、などと思ってしまう。

 全部敦のせいだ。いつもは好きだ好きだっていって、散々温もりを与えてくれるのに、こういうときだけ触ってくれないなんて卑怯だ。


「あつし…」


 ちゅっと詫びるように一度だけキスをして、最後のチャンスを与える。しかし、敦の様子の変化はない。今から起こることなんて何も知らないように(本当に知らないのだが)、変わらず寝息をたてつづける。


 もう、知らないからな。


 すかーと寝息を立てているその唇の中に、舌を進入させた。


「ん、ん…」


 上あごを撫で、歯列をなぞる。ゆったりと味わうように敦の中を舌で動かしているとぴくりっとようやく敦に動きが生まれる。しかし、それ以上の動きはない。意識が上ってきたのだろうか。けれど、今更嫌がってもやめてやるか。ぴくりっと震える舌を這わせ、唾液が喉に流れて咳き込まないように啜る。


「ん、あっ…」


 口付けを愉しんでいる間に、手は敦の胸から腹筋へと伸ばしていく。Tシャツをするすると捲り上げると、硬い腹筋の感触が手になじんだ。


「はっ…あつ、……んむっ!?」


 一旦唇を離そうと思った瞬間、後頭部を掴まれ、舌を差し入れられる。驚いて、目を見開くと、じっとこちらを見ている敦。
 いや、じっとではない。セックス中に時折見せる獣の目だ。


「んんんっ!あぁっ…は!あつ…ん!ん!」


 僕がしていたように舌を吸われ、歯列をなぞられる。反応が少ししかなかったさきほどとは違い、口から唾液全てを奪い取ろうとする舌技に敦の腹に置いていた手が震える。


「んっ!」


 気がつけば、敦の手は僕の臀部を撫で回していた。


「いっ…あっ!」


 ズボン越しに割れ目をなぞられ、口づけの間から声が漏れる。くっと力を入れて押し込まれるたび、下着が後孔に入りそうになり、力が入ってしまう。きゅっきゅっと締まる下着の感触に涙目になると、ようやく後頭部を掴んでいた手の力が緩んだ。


「あっ、あぅ…ふ…」


「…赤ち〜ん、何してんのさ〜?」


「うっ…」


 敦の胸に頭を乗せ、腰を支えてもらいながら、敦を見上げる。そこにはさきほどまで健やかに寝ていた姿はどこにもなく、呆れ顔というより楽しそうな顔があった。

散々好き勝手にしていたが、こうやって見られてしまうと頬が熱くなってくる。熱くなる頬を隠すように胸に顔を埋めようとするが、その前に臀部を撫で上げていた手が動く。


「ここもしっかり勃ってるしー」


「ひっ!」


 ぎゅっと大きな手が先ほどのキスですっかりと準備万端な半身を握る。普通は握り締められたら縮んでしまうソコだが、今は快楽しか得られない。


「なにー?発情期〜?」


「やっ!ちがっ…!あっ!あつ、し…だめだ、だめ…」


「あー、でも一週間ぐらいご無沙汰だったもんねー。気持ちいいっしょ?」


 ぐにぐにと陰嚢と陰茎をまとめるように揉み込まれる。ろくに自慰もしていなかったのだ。刺激を与えられたばかりだというのに、すぐに射精感がこみ上げてくる。


「あ、ああ…んはぅうう…!はな…はなしてぇ…」


「離して?なんでー?」


「だしちゃう…だしちゃうからぁ…!あんっ!」


「ふーん、おもらししちゃうんだ?」


 先走りだけで下着がぴたりと性器にひっついて、気持ち悪い。それに加え、まるで小さな子供を咎めるように問う敦の言葉に、さらにとぷりと漏れる感触がした。いやだ、気持ち悪い、いっそ脱がせてほしいと思うが、それよりも気持ちよさが勝つ。

 だしたい、だしてしまいたい。いつもみたいにおもいっきり、あつしの手のなかで出してしまいたい。

 久しぶりの快感のせいか、欲望に塗れた思考が瞬時に脳内を巡る。このままいやだいやだと言いながらも、敦のことだ。いっぱい出させてくれるだろう。それを想像しただけで出てしまいそうになり、歯を食いしばる。
違う。これではいつも通りだ。


「や、あぁ…だ、め…ちがう…」


「なにが?違うの?おもらししちゃうんでしょー?」


「ちがっ…!きょ…今日は…んっ、ぼくが敦を攻める…!」


「へ?」


 やっと止めてくれた手を急いで離させて、震える腰に力を入れながらソファーで寝転んでいる敦の腹の上に座る。
 あ…下着脱いておけばよかった…気持ち悪い…


「あ、つしも…この切ないきもちをわからせてやる」


「え…え?」


 発情期だとか、ご無沙汰だったとか、まるで僕だけが足りないような言い方が許せない。敦は僕に触れられずとも大丈夫だったとでもいうのだろうか。そんなのは不公平だ。
きっと今まで与える側だったからわからないのだ。
ならば、教えてやる。この中毒症状のようなせつなさも、触れられてなかっただけで疼いてしまうこの身体も。


「覚悟しろよ…?」


 敦の腹をはさむように膝立ちをし、かすかに見えている腹筋を撫でる。目を開いて驚いている敦の顔に、さきほどまで僕が翻弄されていたから少しだけ愉快な気分になる。そのまま陰茎を撫でると、ズボンの中で窮屈そうにテントを張ってるのがわかった。

 良かった、勃ってる…

 安心して、カチャカチャ…と音を鳴らしてズボンのジッパーを外すと、勢いよくそれは飛び出すように出てきた。


「あっ…すご、い…」


 思わずうっとりと声を漏らしちしまう。体格に見合っている、いやそれ以上に逞しい敦に手を這わせた。ドクンッドクンッと脈打っていて、これがいつも僕を翻弄しているのかと思うと喉を鳴らしてしまう。亀頭の先端に玉を作っている液体はとろりと喉を潤しそうだ。


「んっ…」 

「ちょ!ちょっと待って!赤ちん!」

「…」


 しゃぶりつける位置まで下がり、そのまま頭を下げようとしたとき、今まで固まっていた敦からいきなり制止の声がかかる。何だ、中止なら聞かないぞという目で顔をあげると、敦は良い提案だといわんばかりに言ってきた。


「赤ちんのお尻をこっちむけた方が楽と思う!」

「は?」 






 こういうつもりじゃなかったのに、気がつけば敦のペースで事が進んでいるような気がする。
僕は少し股間部分が湿ってしまったズボンと下着を脱ぎ捨て、敦に下半身を見せる形で跨り、僕の目の前にはさきほど咥えようとした巨大な砲身があった。いわゆるシックスナインの形だ。身長のおかげで本来の体位とは違い、両方が性器を口に含むことはない。今の場合だと僕は性器を舐めることはできるが、敦は舐めることができない。
しかし、敦の陰茎を舐めているうちに、いつのまにか敦の手には潤滑剤が握られていて、後孔の奥は敦の長い指によってとろとろに解されていた。


「んっ…ふっ、あっ!んん…」

「ん、じょーずだねー、あかちん」

「やっ!そ、こ…」

「オレも気持ちよくさせてもらってるんだから、赤ちんも気持ちよくーでしょ?」

「あん…んっ、ん…」


 頭と舌を動かして敦の性器に愛撫するが、敦の指が肉壁を擦るたび緩慢になってしまう。けれど、敦の性器から漂う匂いと断続的に与えられる快感のせいで頭がドロドロに蕩けて、正常に物事が考えられない。ただ、目の前にあるものをしゃぶりつきたいという欲望だけで動いてしまう。


「んっ、あむっ、んはっ…」

「あっ、いいよ…あかちん、きもちいい」

「ひぃっ!はっ、あっ、あああああ!」

「ごほーび」


 後ろを弄られながら性器を握られる。後ろと前を両方弄られるともう駄目だ。気持ちいいところを押されて、擦られて、頭がバカになる。思わず可愛がっていたものから口を離し、言葉にならない声ばかりを口に出しながらもっともっとと夢中で腰を振って、自分からさらに刺激を求めてしまう。


「ひさしぶりだからー?赤ちん、えっちー」

「あっ、あんっ!しょこ…しょこぉ…!」

「呂律まわってねーし」


 クスクスと楽しげに笑う敦の声に、自分の卑しさを指摘されている気がして、背筋が震えた。けれど、それさえも興奮材料になって性器をぱんぱんに膨らませる。

 気持ちいい…はやくイきたい…しゃせーしたい…


「んっ、あっ、あーっ、あっあっ…あ?」


いく、いく、と頭の中でひたすら久しぶりの射精に思考を奪われていると、目の前で寂しそうに震えている性器が目に映る。

 ああ、すまない。お前も気持ちよくなりたいよな…僕と一緒にイこうか


「はむっ…」

「んっ…あか、ちん…?」


 自分と同じようにきっと一週間も我慢していた目の前の愛しいモノも自分と同じぐらいに気持ちよくさせたいと夢中でしゃぶりつく。だらだらと流れる唾液を絡め、ぴくぴく震える舌で亀頭や裏筋を這わす。敦もそれで感じてくれてるのか、先ほどより力加減なしにむちゃくちゃに突いてきた。


「んっ!んんんっ、はっ…んん!」

「っは…イキ、そうなんでしょー?く…いいよ、イッても」

「んふっ…ん、んー!んんんっ…―――っ!」

「んはっ…それ、いいね…」


 敦も一緒に、と思っていたのに、体は言うことを聞いてくれるはずもなく、あっさりと白い世界へ連れて行った。腰がガクガク震えて、ピュクピュクと粘ついた白濁を吐き出す。緩慢に腰を振りながら最後まで出し切ると、さすがに顎も疲れて一旦敦から口を離し、手だけは幹から離さず擦り続けて刺激を与える。しかし、何かが足りないのかパンパンに膨れ上がってくるくせに精液は出てこなかった。
 僕ならこれぐらいに膨れ上がったら、敦に触れられるだけですぐにイってしまうのに…やはり普段与えてばかりいたから、我慢強くなっているのだろうか?
 息を整えながらぼんやりと考えていると、下のほうから不満の声が上がる。


「あーかちん、フェラやってくれないのー?」

「え…あ…ちょっとま……っ!?ひいいいいぃぃ!?」


 一旦抜かれていた指は、再び勢いをつけて前立腺を抉りながら埋め込まれる。快楽に浸っていたそこはそれだけで敦の指をしめつけた。


「今日は赤ちんが攻めてくれるんじゃねーの〜?こんなもんなの?赤ちんって」

「やっ…!あ゛ああ!!い、ま…イッたばっか…!あひっ、ん゛んあ゛…!」


 ぐにぐにと前立腺をもみこまれると、さきほど出したばかりなのにもう熱が籠もる。くううっと背中を丸めたり、ピンッと逸らしたり快楽を逃がそうと腰を動かすが、敦の手は逃がさないとばかりに的確に突くばかりだ。


「らめ…あ゛ああっ、しょ…そ、こ…あんっ、んっ、ひもちい、…」

「ほらほらー、ちゃんとくわえてー。オレを満足させてよ〜」

「うぶっ…… はっ、ん…ん」

「そーそー、今日は攻めてくれるんでしょー?」


 そういいながらも敦の攻める手は止まらない。焦らすようにゆっくり掻き回されたり、かと思えば鋭く突かれたり……もうどっちが攻めているのかわからない。バカの一つ覚えみたいに頭を振って刺激を与えていたのに、目の前がチカチカして舌が、喉が、唇が震えてしまう。後ろだけの刺激のせいで上手く絶頂にも達せず、止まらない快感に涙が止まらなかった。


「ふーっふっ、うっ、んあっ、ん゛っ、はっ…」

「それも、気持ちいいんっ、だけどさー…やっぱ、あかちんがイッたときが、めちゃくちゃ…気持ちよかったんだよね〜」

「んっ、ふっ、ん゛んっ…」


 敦がぽつりぽつりとしゃべりかける声に、背筋が震える。さきほどみたいに快楽からじゃない。敦の言いたいことがわかったからだ。言葉で意思表示できない代わりにやだやだと首を振るが、敦がふっ、と笑った気がした。


「だから、ねっ、もう一回イこうね?」

「ん゛ー!ん゛ー!」

「っ…いやいやしないのー。ほら」

「ん゛んんん!!んむうぅぅぅ!んふっ、ふっ、ふっ、んん!んーんー!」


 好き勝手に荒らし回っていた指は的確な意思を持って動き出した。中指と人差し指でしこりを挟まれ、軽くつねるように力を込められる。その瞬間、鋭利な電流が脳内に流れ、目の前がスパークした。


「ーーーーっ!!!?ーーーーー!!!!」


 ガクガクと身体が跳ね動いて、いうことをきかない。けれど、敦の指はもっと出せというように前立腺に刺激を与えてくるから、絶頂からも降りられない。もう天辺がどこなのかわからないまま、とろりとろりと敦の胸から肋骨にかけて細長い白糸の軌跡を描き続けてしまう。


「ん゛…んんっ…ん…ん…」


 あ、イくのとまらない…すごい…ひもちいい…

 鼻息を荒くさせて悦に酔っていると、いきなり敦の腰がぐっと奥まで押し入れてき、喉が塞がれる。


「ん゛ぐっ!?」

「あ、く…あかちん、そのまま…イキそ…」


 目を白黒させて、咽そうなほどに喉を絞められる感覚に吐き気が襲う。しかし、喉を通してビクビクと震えるそれは限界で、最後の力を振り絞ってずるるるると下品な音を立てさせながら吸い込んだ。

 その瞬間、喉一杯に苦いものが吐き出される。


「ん゛ん゛んんん!!」


 思わず口から離すと、未だに止まらないそれはぴゅっぴゅっと顔にかかってきた。防ぎがないそれは髪や顔に容赦無く降り注ぐ。

 う…げほっ、ごほっ…

 喉がひっつくような不快感と顔全体にどろどろと垂れ落ちる粘液。咳をすれば、粘っこい白いものが唇から滴り落ちた。


「あららー、ドロドロー」

「だ、だれのせいだ…ゲホッ…」


 咳き込みながらも息を整えていると、後ろから力の入らない脇を抱え上げられ、向かい合うように座りなおされる。そして、苦笑している敦が目の前に現れて、手で頬や髪についた精液を拭ってきた。


「赤ちんがビックリして飲んでる途中で顔離しちゃうからでしょ〜〜?顔射するつもりなんてなかったのにー」

「…」


 僕だって敦が事前に言ってくれたら、驚いて口を離したりするもんか…!

 思わず噛み付くように反論の言葉が出てしまいそうになったが、こんな言葉まるで娼婦みたいだと思って、すぐさま口を閉ざして押し黙る。


「ま、オレの体もドロドロだからいっか〜」

「っ!!」

「何でそこで赤くなってんのー?」


 散々夢中で腰振ってたくせにー。

 無邪気に笑いながら指摘されたうえに視線を下げれば敦の服が白いものでドロドロになっているのが見え、さらに頬が熱くなる。
 最初はただ一週間触れられていなかっただけで疼くようになってしまった自身の身体と何も感じていないような敦に悔しさを感じただけだったのだ。だから、今日は僕が攻めて僕と同じ身体になればいいと思っていたのに、これじゃあただの欲求不満で襲っていたようなものだ。


「す、すまない…」

「なにがー?ま、赤ちんから来るのなんて滅多にないし〜。もしかして、この続きも攻めてくれるのー?」

「つ、続き…」

「え?なに?もしかしてフェラして終わり〜?」

「あ…いや、そんなつもりはなかったが…」

「じゃあ、してくれるよね〜〜?」


 こてんと首を傾げながら言われてしまえば頷くしかない。そもそも敦を誘ったのは僕だし…というか寝込みを襲ったのだ。二度も達したおかげで僕としては十分だったが、敦が満足していないのにこれで終わりというのは、本当に敦を使って性欲処理をしていたと言われてもおかしくない。敦が満足していないのならば、相手をするのが恋人の役目。
 しかし、なんとなく敦の思惑通りに進んでいるような気がして、本当にこれでいいのだろうかと疑問を抱かずにはいられなかった。




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