殺し屋紫原×財閥の息子(ターゲット)赤司
 ×より+よりかも。
 血表現ありで微グロ




 今宵は新月だった。月明かりはなく、星の光だけで照らす夜の街は闇深く、静かだ。ましてや街灯もない街外れの場所など尚更にそれは濃くなる。
 街外れにひっそりと建っている大きな屋敷。そこに住んでいる主こそ、今宵のターゲットである、とある有名財閥のご子息だ。
 資料によると、そのご子息は財閥の家のたった一人だけの息子の上に、随分優秀な頭脳を持つ人物らしい。将来有望の息子にその財閥の未来も安定だと、今の時点で決定づけられているといわれるほどだ。
 そんな親の期待を一身に受けている息子は最近誕生日を迎えたらしい。それまでは誕生日だからといってお強請りをしたことがなかった息子が初めてお願いしたのが、家を与えてもらい、一人立ちをしたいというものだった。
 資料を初めて読んだときは、住む世界の違いとその財閥の息子の無知さに嘲笑してしまった。暖かいお家でどんなお勉強をしたのかは知らないが、世間知らずにもほどがある。
 この国は他国と戦争をしておらず、なおかつ国民の安全と秩序は他国より群を抜いて保証されていると有名な国だ。しかし、それは民衆のみでの話だ。貴族や位の高い役職に就いているものは家の繁栄や存続のために、様々な悪事が日常茶飯事行われている。賄賂、暗殺などよくあることだ。
 優秀な財閥の息子のくせに、そんなことも知らないのだろうか。いや、たった1人の息子だからと両親に守ってもらっていたからからもしれない。だからこそ、外の世界に憧れを抱き、こんなバカなお願いごとをしたのかもしれない。
 あるいは、知っているのにも関わらず、あえて飛び込んだか。どちらにしても、優秀な頭脳と周りから持て囃されている割にはバカなやつだ。


「ま、べつにオレはどうでもいいんだけどー」

 殺して、お金がもらえて、それでお菓子が買えれば。まだ15になったばかりらしいが、仕事相手に目をつけられたのなら仕方ない。こちらはただ仕事をするだけだ。

 立っているだけでも目立ってしまう高い身長を隠しはせず、男は気だるげに歩く。その手にはサバイバルナイフ。赤く滴った血が高級な絨毯にシミをつける。それを気にもせず、男はそのターゲットがいるであろう部屋へ目指した。



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 広い廊下を歩きながら、男は首を傾げる。

 この屋敷…ヒトがいなさすぎじゃね?

 門に2人。中には4人。すべてが雇われ人に見えたが、それにしては少なすぎる。なるべく音を立てずに殺したが、お互い連絡は取り合っているはずだ。そろそろ屋敷内が騒がしくなってもおかしくないと思っていたが、その予兆も何もない。

 何かがおかしい。

 この静けさは、深夜という時間帯で執事やメイドたちが寝静まっているものではない。人気がないのだ。けれど、無人というわけでもない。少なからず警備はしっかりと行われている。明かりが見えるたび、光に誘われる虫のように音もなく近づき、首筋にナイフを横に引き、殺してきたのだから。

 まるで招かれているみたいだ。

 もしかしたら、情報が漏れているのかもしれない。ならば、ターゲットはもう逃げただろうか。男の心中に一抹の不安がよぎる。
 部屋を開けたら、もぬけの殻でしたという結末はあまり嬉しくない。仕事が先延ばしになる。そうなれば、報酬がもらえなくなる。菓子が買えなくなる。それはダメだ。絶対。
 それならば、ターゲットの代わりに優秀な部下が部屋で待ち構えていましたの方がうれしい。そちらにかまっていたら逃げられました、と言い訳が立つ。
 いや、そもそも誕生日にこの屋敷を与えてもらったという情報が誤り、真実は親に見捨てられたのかもしれない。それならば、警備が手薄なのも頷ける。
 様々な可能性を脳内に巡らせていると、目的の部屋にたどり着いてしまった。
 どちらにしろ、この部屋を開けたら全てが決まる。けれど、やはり逃げられた線だけは勘弁してもらいたい。今日は仕事をすると思い、有り金全部使ってしまった。

 どーか、いますよーに!

 心の中で願いながら、ガチャリと開けた扉の向こうには、真っ暗な闇の中に金と赤の光を持つ1人の少年がいた。



 まるで野生のネコのように、暗闇の中で目だけを光らせているこいつがターゲットだとすぐにわかった。しかし、少年の周りには誰もいない。隠れてるのかと思えば、そうでもないらしい。
 見ず知らずのやつが夜分遅くに現れ、それに加え右手にはサバイバルナイフを持っている。どこからどうみても、少年からすれば男は危険人物であり、自分を殺そうとしている人物だと考えることができる。しかし、この少年は動揺も警戒もしない。まるで待っていたというように、少年は一人で立っていた。
 廊下から差し込む明かりだけでは少年の顔は見えないはずなのに、なぜか悠然と笑みを浮かべているのがわかった。

 なに、こいつ…

 殺される相手に笑いかけるなんて正気じゃない。頭がイカれてるのかもしれない。


「アンタ、1人だけー?」

「この部屋には僕1人だけだよ?殺し屋さん」

 良かった。ちゃんとこちらの職業を把握するぐらいには、頭は正常らしい。

「ふーん、じゃあアンタを守ってんのってはあの6人だけってこと?」

「そうだよ。まあ、彼らは父に雇われた警備員だけどね」

「アンタを守ってくれる護衛とかはいないの?」


「いない」


 喋るひまがあれば殺せばよいのに、少年に話しかける。
 ちょっとした興味だ。暗くてわかりにくいが、彼の外見は資料に書かれた数字より幼く見える。年齢を偽っているのか、そう見えてしまう外見なのか。判断材料を何一つ持ってないが、それでもこの光景は異質だった。
 親もいなければ、護衛もいない。財閥の息子が、だ。これは油断させるための罠か、それとも本当に親に見捨てられたか。
 しかし、あの殺したやつらは父親が雇った警備員ならば…罠か。気配を殺して、こちらの気を伺っているのかもしれないと、自分の五感すべてを使って辺りに気を配る。ピンッと張り詰めた空気に少年は満足気に瞳を閉じた。

「君は強いね」

「……」

 いきなり話し出した少年を見ながら、辺りに気を配る。気配の動きはないし、以前として2人以外、ここには誰もいない。

「この窓からよく見えたよ。外にいる彼らを鮮やかに、素早く殺すところを…」

「お子様には刺激が強かったんじゃなーい?」

 口では茶化すように言うが、内心では驚きと疑念でいっぱいだ。
 昔から大きすぎる体格のせいか、視線には敏感だった。この稼業をしてから、それはさらに磨かれたはずだった。
 しかし、今日その視線に気づかなかったのだ。こんな隙だらけの少年の瞳に。

 ほんとーに何なの、コイツ。

「ふっ…僕がお子様か」

「鏡見たことあるでしょー?どこからどうみても子供でしょー」

「では、君はそのお子様に負けることになる」

「は?なにそれ?」

 意識しなくとも眉間にシワが寄ったことがわかった。明らかにバカにされている。

「君は誰に頼まれたか知らないが、僕を殺しに来たんだろう?」

「まーね」

「僕は易々と殺されるつもりはない。だから、君は負けて、僕は死なない」

「ちっちゃいくせに偉そうだねー」

「これは決定事項だ。すべてに勝つ僕はすべて正しい」

 少し武術でもかじったんだろうか。少年は30cm以上もある身長差の男に相手をすることに、何も恐れを抱いていない。むしろ、勝つ気満々だ。
 身分が高い者はプライドも高い。何も苦労しない息子なら尚更プライドも山のように高いのだろう。警備が薄いのはそういう自信の表れだったんだろうか。

 あー、そういうのすっごいうざい。

 余裕そうなその面を許しを請うぐらいにぐちゃぐちゃに殴り飛ばしたくなった。

「そういう強がりはいらねーよ。アンタの言葉イライラする。全部捻り潰してやるよ」

 サバイバルナイフを持ち直し、一気に間合いを詰める。そのまま腕を切り落としてやろうとしたその時、


「では、僕が勝てば…」


少年は不敵に笑った。





「僕に従え、紫原敦」






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 男にとって、紫原敦とは優秀な駒だった。齢15になったばかりだが、その身体は誰よりも大きく、強い。また普段はその様子は見せないが知能も高い。しかし、小さな頃から彼を従えてるおかげか、少々物事をめんどくさがるところはあるが、従順に命令は遂行する。餌(菓子)を与えれば、大人しくなる獣だ。
 欠点がある、というより、男にとって不安の種といえば、あの何を考えてるかわからない気だるげな目と性格だろうか。どれだけ優秀な駒だと思えど、男はいつまでたってもすべての信頼を紫原敦に預けることができなかった。
 いや、今はそんなことどうだってよい。菓子を買う金さえ与えれば、彼は言うことを聞く。紫原敦が男に従ってさえいれば、周りの敵は消えて行き、こちらは空いた席に座ればいい。

 今日のターゲットは赤司征十郎という、15になったばかりの少年だ。かたや財閥の息子、かたや殺し屋。同じ年齢でありながら、こうも大きな身分差が出るとは世界は残酷なものだ。
 男は小さく笑い、ワインを一口飲む。有名財閥の息子だか、10年に1人の逸材だか知らないが、死んでしまえばそれでおしまいだ。

 頂点に立つのは、この私だ。


ガタッ


 小さな物音。何事かと首を傾げれば、ドアが開く。
 紫の髪。およそ2mは越えているであろう身長。そして、あの何を考えているのかわからない菫の瞳が男を写した。その瞳に射抜かれた瞬間、何故か男の背中に悪寒が走った。

「お…おぉ、敦。待っていたよ。しっかりとターゲットは殺したかな?いや、お前に聞くのは無駄だったか…さぁ、これが今回の支払い分だ」

 何故、悪寒が走るのかがわからない。男はそれを隠すように早口で捲し立てながら、報酬の入った袋を机の上に投げた。
 ジャラリと中のコインが音を鳴らす。それを見た紫原敦はいつものように机に近づき、その取り分を持った。中身を片手で確認し、男を見る。男はその視線から逃れるように、紫原敦から背中を向ける。

「また用があれば呼ぼう。お前はもうやす」

 次の言葉は出なかった。男の脳が完全に停止してしまったのだ。自分の命が終えたことすら、男は気づかなかった。

「もうアンタいらないや」

そういって、紫原敦は笑って、男の髪を掴んだ。




 月明かりもない真っ暗な部屋の中。しかし、そろそろ夜明けに近づく時間帯だ。
 あれから数時間後、再び1人の男と1人の少年は向かい合っていた。さきほどと違うのは、男の手には丸い何かが握られている。

「はい、赤ちんの言う通り殺してきたよ」

「首はいらないんだが…」

 男が掲げたのは元主人の生首。その顔は殺されたことも気づかず、口元に笑みを浮かべたままだ。

「証拠だよ。これからは赤ちんに従うっていう」

「…そうか」

「ま、赤ちんがいらないならテキトーに処分しとくし」

「そうしてくれ」

 そういって、一つため息を吐く少年に男は首をかしげた。

「あらら、赤ちん。もしかして生首とか耐性ない?」

「耐性とかの問題じゃないよ」

「じゃあ、何でそんな顔歪めてんの?」

 男と少年が目にしてきた世界は違いすぎる。その差のせいかと男は考えていたが、どうやらそのせいではないようだ。少年は冷たい目で男の首あたりを見る。男はその視線を辿るように、男の首を上に掲げて見てみるが、無理やり引き千切った皮とひたひたと落ちる血しかない。
 これが何か?ともう一度首を傾げると、少年は口だけで笑った。

「汚い血で床が汚れるのがイヤなだけさ」

「あー、それには気づかなかったし。ごめんねー」

 どうやらこの少年には潔癖性の気があるらしい。次からは気をつけようと男は思った。





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