朝の挨拶が溢れる下駄箱。オレと赤ちんはいつもみたいに一緒に登校して、下駄箱に来ていた。といっても、クラスがちがうから下駄箱の場所も違うわけで、一旦そこで別れたんだけど、いつまでたっても下駄箱から出てこない赤ちんに疑問を抱く。
 赤ちんの行動はいつだって早い。すぐに決めて、すぐに行動。迅速果断だかなんだか、そんなものを座右の銘に掲げている赤ちんは無駄の動きなんて1つもない。だから、いつもみたいにオレが下駄箱から出てきたときにはすでにいる赤ちんが数分待っても下駄箱から出てこないのは、おかしいなと思った。


 もしかして、誰かに話しかけられてるのかも。


 オレと赤ちんは小さい頃からの仲良しさんで、クラスに友達が出来たとしても、赤ちん以上の友達なんて1人もいない。赤ちんもそうだと思う。行きも帰りもずっと一緒にいるのはオレだし、赤ちんの家に行ったことがあるのなんてオレ以外いないと言っていた。

 でも、オレと違って愛想のいい赤ちんはいつだってクラスの人気者だ。オレがいるときは睨んだりして、オレ以外寄せ付けないようにしているけれど、1人のときはそうはいかない。お菓子に群がる蟻んこのように、赤ちんに集まりだすのだ。それはダメだ。ただでさえ、学校は違うクラスでなかなか会えないのに(それも教室の場所が端っこと端っこ。誰だよ、そんな配置にしたやつ)、朝の時間まで奪われたら最悪だ。オレは慌てて、背が伸びまくって似合わないと家族に言われ続けているランドセルの肩紐を握りなおし、オレは赤ちんのクラスの下駄箱を覗く。



「どしたのー?赤ちん……って、あれ?」



 顔を出すと同時にオレの存在を知らしめるためにわざと大きな声を出したのに、どうやら杞憂に終わったようだ。赤ちんの周りは誰もいなくて、赤ちんは自分の下駄箱の前で朝来たときには持ってなかった紙切れを読んでいた。その紙切れが何なのかすぐに理解した瞬間、赤ちんはそれを綺麗に折りたたんだ。そして、まるで大切なもののように折れないようにポケットの中にいれ、ゆっくりとオレを見て微笑んだ。


「すまない。待たせたね」

「それ、なに?」

「それとは?」

「はぐらかさいでよ。さっき読んでたやつ」

「敦には関係のないものだよ」

「赤ちんには関係あることでしょ」

「オレ宛のものなんだから当たり前だろう?」


 そういって、困ったように笑う赤ちんに内心オレはイライラしていた。この頃、それをよく見る。主に赤ちんの手の中で。
 その紙切れを送る意味はオレも十分わかっている。恋人とか彼女とかそんな肩書きを作って、オレから赤ちんを奪い取ろうとする手段の1つだ。オレももらったことはあるが、1度お菓子のゴミと一緒に捨てたところをクラスの女子に見られ、最低と言われて以来ぱったりと来ないようになった。まぁ、オレ的にはその方がありがたいが、それを知ったときの赤ちんが半端なく怖かったから多分二度としない。


「敦は本当にそういう類は嫌いだね。オレも好きではないが」

「嫌いっていうかうざったい。赤ちんのこと何も知らないくせに好き好き言ってさ。女の子の方が精神的な成長は早いとかなんとか知らないけどさ、恋愛とかそんな意味わかんないものでオレと赤ちんの時間をとらないでほしいし」


 正直、恋愛とかよくわからない。傍にいたらドキドキするとか好きすぎて夜も眠れないとかなにそれって感じだし。むしろ成長痛で眠れないオレと交代してくれって思う。っていうか、眠れないってそれもう病気じゃね?
 赤ちんはオレと違って頭がいいから、恋愛の意味もわかってるんだと思う。毎回毎回丁寧に告白してくる女の子には返事をしてるし。手紙で返事するときなんかわざわざ白の便箋を買って、家で返事を書いてるぐらいだ。でも、いつも断ってるから、赤ちんは恋愛の意味はわかってるけど、したことはないんだと思う。まぁ、オレはずっと赤ちんと一緒にいたいから断ってくれて万々歳なわけだけど。




「そうだね、オレも敦と一緒にいる時間の方が好きだ。けれど気持ちを伝えるという面で評価しているからね。その気持ちには誠実に返したい」



「……」



「敦?」



 黙りこんだオレに赤ちんは覗き込むように見上げてきた。数年前から赤ちんより大きくなったオレは赤ちんの見上げてくる目がすごく好きだ。でも、その分赤ちんが見上げなきゃ、赤ちんの目は見えなくなってしまった。

 オレと赤ちんは幼い頃からの仲良しさんで、だからずっと一緒にいる。クラスが違うようになって、新しい友達が出来たって赤ちんが一番で、きっと赤ちんもオレが一番だから今もずっと一緒にいる。



 でも、もしこの先、赤ちんが気持ちを伝えてきた女子に同じ気持ちを返したら?



 オレの位置からは見えなくなってしまった赤ちんの目は、いつどこを見ているのかなんてもうわからなくなってしまったのだ。今だって、覗き込んでくれなきゃ赤ちんの目にオレの顔は映らない。




 赤ちんがどんな気持ちで、誠実に返したいと言ったのかはわからない。それが今すごく怖くなった。







「もし…もし、オレが赤ちんを好きって言ったら、赤ちんは…ちゃんとオレに気持ちを返してくれる?」







 赤ちんは瞳が零れ落ちそうなほど大きく開いた。けれど、すぐにオレを安心させるような柔らかい笑みを浮かべる。



「そうだな。敦がオレを好きだと言ってくれるなら、オレはいつだって返すよ」



 それはオレが望んでいた答えだったはずなのに、何故かオレは泣きたくなった。

 





理解できない、8時







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