あれから、1週間経った。あのあと、救急車が来て、病院に搬送された敦は一命を取り留めたものの頭を強打していたらしく、いつ目覚めるかはわからないらしい。頭以外は打撲程度だったので、今ではほとんど傷一つない。

 どうやら、敦が事故にあった原因は、車道側を歩いていた黒子にスピード違反の車が突っ込んできたらしい。敦は黒子の危機に気づき、とっさに自分が身代わりになったらしい。スピード違反をした車の運転手はそのあと警察に出頭した。殺したいほど憎かったが、それより敦や黒子の様子が気になったので、まだそいつを殺すには至っていない。

 黒子はあれから学校に来ていない。責任を感じて、ずっと病院にいる。僕も休んで一緒にいたかったが、キャプテンが部活を休むわけにはいかないし、ずっと学校を休んでいたら、優等生を演じてきた自分に教師たちがうるさく言って来るのが目に見えたからだ。いや、それだけではない。黒子が僕と一緒にいるときっと壊れてしまうような気がした。事故の当日、黒子はずっと僕に謝り続けた。多分、僕と敦が付き合っていたことをしっているからだろう。僕に謝っても仕方がないだろうといっても、黒子は謝り続けた。重い罪を負った人のように、ひたすら謝り続けた。

 そんなことがあったから、僕は今までどおりの生活を送っている。学校に行き、授業を受け、部活をして…
あぁ、今までどおりではなかった。あの事故以来、僕は部活が終わったら、病院に行っている。面会終了時刻ぎりぎりにいつも行っているので、黒子に会うことは滅多にない。医者には無理を言って僕だけ面会時間を延ばしてもらっているので、この時間はひどく静かだ。







 「敦…」





 紫色の髪をゆっくりと撫でる。敦は僕の髪がさらさらと気持ちいいといっていたが、敦もさらさらでずっと触りたくなる。

 もう一週間も経ってしまった。結局、あの事故があったせいか、練習試合は中止になった。部員全員が動揺していたし、レギュラーメンバーの全員が使い物にならないと顧問が感じたのだろう。朝に顧問から中止だという連絡がきたときは、思わず安堵の息を吐いたものだ。






 「あの約束はどうしようか…?」





 50点以上をとったらご褒美。そう約束したときのことは簡単に思い出すことができた。

 あのときは幸せだった。ただ抱きしめられて、愛を囁かれて、幸福しか感じていなかった。日常というものは、こんなにも簡単に崩れ去るものなのだと思わなかった。






 「…反故にしてもいいよな…?」




 だって、敦は試合に出ていない。いや、そもそも試合はなくなったのだ。どう頑張ってもあの条件は叶えることはできない。だから、もう反故でいい。




 「敦…」




 髪を撫でていた手をシーツの方に移動する。そして、シーツの中にある手を取り出し、ゆっくりと両手で包む。この大きな手で撫でられるのが好きだった。







 「好き」





 どうしてあの時言わなかったのだろう。こんなに愛しい存在なのに。どうして、もったいぶってしまったのだろう。こんなに気持ちが溢れかえってしまいそうなのに。




 「好きだよ、敦」



 伝わるように、こんなに思っていることを。そして、早く目覚めるように。僕が滅多に言わない言葉を言っているんだから、早く笑顔を見せてほしい。そして、思いっきり抱きしめてほしい。




 「好き好き大好き」




 敦の指先をそっと口に寄せる。あの日言ってやろうと思っていた言葉はまだ言ってやらない。これは目が覚めたときに言うつもりだから。だから、早く…





 「敦も僕のことを好きだっていって」




 そのためなら、僕なんだってできる気がするんだ。敦が目覚めて、愛を囁きあったあとに死んだっていい。敦の腕の中で死ぬっていいね。すごく幸せな気分で死ねそうだ。敦はきっと泣いてしまうだろうけど。でもね、お前と比べたらなんてことないんだよ。それぐらい好きだってことだよ。それぐらいお前に抱きしめてほしいってことだよ。





 「早く起きろよ、敦…」




 待つのは嫌いだけど、特別に待ってあげる。泣くのもそのときまでとっといてあげる。




 だから、早く…早く…







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