本作品は、『白泉社』のフルーツバスケットのパロディです。溌春と依鈴の2人を紫赤で…!と以前から言っていたことを実践したので、前半部分と後半部分は最早トレスです。そして、原作を知っていないと優しくない作りです。すいません…
 作中に(会話の中で)出てくる配役として
 溌春→紫原
 依鈴→赤司
 由希→氷室
 夾→火神
 燈路→緑間
 その他の人もちょろちょろ出てきますが、明確の配役としては出てきてないので、皆様のご想像で!
 赤司くんが吐いてたりして精神がちょっと弱めで、むっくんは押せ押せです。
 それでも大丈夫!という優しい方は、下にスクロールしてください。














 この世の中は、周りが思っている以上にありえないことばかりが存在している。たとえば、世界的に有名な企業は全て従兄弟同士で繋がっているだとか。たとえば、その有名企業の社長の息子たちは実はバスケで繋がっていたとか。たとえば、その息子たちは異性に抱きつかれたら動物に変身してしまうとか…そんなありえないことばかりの世界に生まれた1人が赤司財閥という名家に産まれた僕だった。

 赤司家は馬の物の怪憑きが産まれやすい家系だった。そのため僕が物の怪憑きとして産まれても、母以外は落ち着いた様子で対処されたと聞いている。しかし、母は政略結婚で嫁がされた身だったためか、何も知らない人物だった。いや、赤司家内でも物の怪憑きが産まれる家系だなんて知っているのは極一部の人間のみだ。多くの人間がまさか人間が異性に抱きつかれただけで物の怪に変身するなど知る由もない。

 そんな何も知らなかった1人である母は、生まれたばかりの僕を抱き上げた瞬間、物の怪に変化してしまいひどく狼狽したらしい。しかし、僕が物心ついたときにはその狼狽を見せず、母は笑顔を絶やさず僕を育ててくれたから、それを使用人から聞かされたときは信じられなかった。


 きっと、そのころが一番楽幸せだった。母はいつも笑っていて、父も厳しくはあったが、僕を気にかけ育ててくれた。物の怪憑きを産んだ大半の家族は幸せな家庭を築けず崩壊すると言われていたが、僕は自身の家族が崩壊するなど想像もしたことがなかった。僕の両親は僕を愛してくれるから崩壊はありえない。他の物の怪憑きとは違う、とずっと勘違いをしていた。

 それが勘違いだと気づいたのは、本当に崩壊をしたのは、あまりにも他愛のないセリフだった。食事中、僕の何気ない疑問から生まれた質問だった。



「父様、母様。どうしていつも笑っているのですか?哀しくはないのですか?何がそんなに楽しいのですか?」





 一瞬の沈黙の後、母はいきなり食器を全て机から叩き落とした。そのときの母の言葉を、眼を、憎悪を一生忘れない。いつも落ち着いて笑う母からは想像が出来ないほどの激情、悲鳴、憎悪、悪態、悲嘆の叫び声に僕はただ眼を張って、呆然とすることしか出来なかった。母は僕のことを大好きと言ってくれた唇で化け物と……生まなければ良かったと、言っていた。




 壊れたものは二度と直らない。そう教えられるように、家の中は変わってしまった。





 まず、母が僕を全身で拒否し出した。僕がいくら良い点をとろうと、かけっこで一番をとっても、母は「それでも化け物には変わらないじゃない」と鼻で笑っていた。料理を作られることもなくなり、いつのまにか母は夜にでかけ、朝に帰ってくるようになった。酒を飲んだ日は蹴られたりした。

 父は母のように豹変することなどなかった。仕事に行き、僕には厳しく接し、赤司家の立派な次の当主へと育て上げようとしていた。けれど、僕のことを全て母に押し付け、僕がお母様をなんとかしてほしいと助けを求めても、知らぬフリを続けていた。

 けれど、そんな毎日が続いてもあのときの僕は信じていた。いくら蹴られようと、憎しみを込めて殴られようとも、いつかまた母も父も僕に笑いかけてくれる。僕が良い子でいていたら、こんな醜い化け物であることも受け入れて、また笑ってくれる。そう信じていた。



 そんな暗い底なし沼にハマッていた僕を助けてくれたのが敦だった。




 栄養失調でいつのまにか倒れていた僕を病院まで連れて行ってくれた。元に戻れると信じて疑わなかった僕に向かって、「お前なんかいらない」と吐いた母に真っ向から立ち向かってくれた。父と母が離婚して、父の家に暮らすことになったが、誰もいない家同然のそこによく訪れてくれた。他の物の怪憑きとも交流が持てるように、敦とずっと傍にいられるように、帝光中学に進学を勧めてくれた。




 敦…



 好きだよ。同性だとわかっていても、敦はただ僕を可哀想だと思って傍にいてくれていたとしても、僕は敦が好きなんだ。



 だから、この時間がいつまでも続きますように。






『たった一つだけの願い』







 夏が過ぎ去り、秋が染まる頃。全中も終わり、部活に行くことも少なくなった帝光中学3年の僕と敦は、放課後教室に残り、多くの高校のパンフレットを広げていた。もうそろそろ進路を決めて、勉強をしていかなければならない時期だ。担任からも進路調査票を配られることも多くなってきたし、個人面談も増えている。もっとも僕も敦もバスケの推薦があるので、勉強をする必要はないし、担任と個人面談というより推薦高校の監督と面談と言ったほうがいいかもしれない。

 しかし、敦はパンフレットの1つも見ずに、お菓子をパリパリと食べ続けている。進学先を決めるのが面倒なのだろう。いくら見ろといっても、赤ちんが決めてよーの一点張りだからだ。

 そんなやる気のない敦に僕は1つのパンフレットを渡す。敦の言うとおり、僕が決めた高校だ。渡された表紙に書かれている高校名に敦はきょとんと首をかしげた。



「陽泉?」


「そうだ。敦にはピッタリの高校だと思うよ。バスケの強豪高の1つで、ディフェンスに特化しているんだ。そのうえ、背の高い者が多いらしいから、きっと練習もやりやすいだろうし、それに辰也も陽泉行っている。すぐにチームに溶け込めると思わないか?」



 僕の説明に敦はふーんと言いながら、パンフレットをぺらぺらと捲る。辰也がいるということで、興味を持ったのだろうか。

 敦と辰也は、子供の頃同じ師匠の下でミニバスを習っていたことで、兄弟のように仲がいい。

 2人の仲がいいのは習い事のおかげだが、そもそも物の怪憑きが一般人に混じって、習い事をすることは難しい。ただでさえ、子供の頃は男女の間に力の差は少ないから異性が混じっていても関係なく行われる。しかし、師匠という人は猫の物の怪憑きである大我の親代わりをしている人で、物の怪憑きの知識は深かった。だからか、閉塞感がある子供時代が可哀想に思ったのか、元WNBA選手であった彼女は最初大我1人にバスケを教えた。その楽しげにバスケを励んでいる様子に辰也、大輝、涼太、敦と人数を増やしていき、結果小さなバスケスクールのようになり、そこに通っていた子たちで仲良くなったらしい。

 5人ほど集まっているうえに辰也1人だけが1つ上の年齢だ。なのに、なぜ敦と辰也はこれほど仲が良いのか。鼠憑きと牛憑きの因果からか、それとも本当にただ気が合って仲が良いのか、敦から何も聞いていないのでわからないが、とにかく2人は仲が良い。僕が立ち入る隙なんてないぐらい…

 ちくりっと胸に小さな棘が刺さり、そこから醜い独占欲が胸から溢れ出しそうになる。それを必死に振り払って、平静をととのえていると、敦はでもー、と続けた。


「赤ちんも陽泉行くんでしょう?そんなチームに入っちゃっても大丈夫なの?身長制限とかありそー」

「ないに決まっているだろ。それに僕は平均身長だと何度言えば…」

「そうだねー、周りに比べたら大きいもんねー」

「子ども扱いするな」


 敦は菓子を持っていなかった手で頭を撫でてくるが、僕はその手を両手で握っておろさせる。そうすると、敦はにへへとだらしない笑みを浮かべた。


「でも、高校になっても赤ちんと一緒の高校って嬉しい。皆バラバラのところに進学するから、赤ちんもオレと離れるのかと思ったし」


「そうか?和成と真太郎も同じ高校じゃないか」


「あの2人は別ー。ってか、オレら全員に黙って実は付き合ってんじゃねー?一応、親の目とかもあるしー」


「付き合って…って…男同士だろ、あの2人は」


 敦の言葉に驚いて目を丸くすると、敦は反対にこてんと首をかしげた。


「あれー?赤ちんってそういうの偏見持つ人だったっけー?」


 ビクリッと胸がざわめく。何をバカなことを言っているのか。


「…偏見はないが、敦があまりにも自然に言うから戸惑っただけさ」


 自分が同性に…敦に恋をしているというのに…そんな偏見を持つなんてありえないのに。
 しかし、それは悟らせてはいけない。あくまで、いつものように冷静に、笑顔で答えた。微かにいつもより頬の筋肉が引きつる感触がするのはきっと気のせいだ。


「んー、そう?でも、そうかもねー…」


 僕の心の乱れに気がついていないはずなのに、敦は僕に向かって柔らかく微笑む。それがあまりにも、僕を見透かしているような顔で…いつもお菓子を食べて、無邪気に笑っている敦とは似て異なっていた。


「あつし…?」


「だって…オレ、赤ちんのこと…」


 一旦間を置いた敦は僕の頬へと手を伸ばす。どうかしたかと聞きたかったのに、何故か動くことも口を開くことすらできなかった。
 髪に触れる長い指、長い前髪から見える深い菫の瞳にとらわれたような気分だ。








「あの…!」


 僕の頬に触れる寸前の手はピクリッと微かに驚きながら止まり、僕も時間の流れを思い出す。あわてて、僕と敦がドアの方向に視線を向けると、顔を真っ赤にした女子生徒がそこにいた。


「あの…むら、さきばらくん…今、いいかな?」



 その口調、赤い頬に明らかに一般的な用事でないことが見てわかる。その上、僕も敦も何回も経験しているから、今女子生徒と敦が2人になったら何を言われるかわかっている。


「えー、ここじゃダメ?」


「敦」

 敦の自由奔放な発言に戸惑っている女子生徒が不憫に思い小声で叱ると、敦ははーいと不機嫌な表情で、納得できていない子供がするような返事をした。さきほどまで大人びた表情を見ていたせいか、その返事でいつもの敦に戻った気がしてほっとする。


 良かった。いつもの敦だ。



 安心をしながら女子生徒を見ると、明らかに脈がない反応をされているのがわかっているのか、それともただの緊張なのか、目は微かに潤み始めていた。女性を待たせるな、早く行けと言ってやると、敦はやっとごそごそと動き始める。


「じゃあ、すぐ戻ってくるねー」


 ひらひらと軽く手を振ったあと、新しいスナック菓子を持ちながら敦は教室から出ていき、先に姿を消した女子生徒を追いかけていった。告白される時にでも菓子を食べるつもりだろうか。少し不安は残るが、以前敦に女性には丁寧な扱いを、と教えたから多分大丈夫なはずだ。自分の心を無理やり納得させながら、腕時計を見る。すぐ、といっても、移動時間、告白時間を考えて10分はかかるだろう。冷静に時間計算をしながら、僕は時間つぶしに机の上に広がっている高校のパンフレットを眺めた。


 僕は敦が好きだ。いつからかはわかっていないが、多分敦が僕を助けてくれたあのときから、僕はゆっくり、だが早く敦に堕ちていっていた。優しくて、温かくて、僕に友人としてだとしても好きと言ってくれる、僕を必要としてくれる。誰よりも愛しい存在。

 自分の性癖はノーマルだと思っているが、敦以外に好意を抱いたことがないから判断できない。もしかしたら、実質はアブノーマルなのかもしれないが、自分の性癖がどちらにしても僕は敦が好きなのだ。誰よりも一番に。

 けれど、敦がこんなにも僕のことを気にかけてくれているのは、きっと母に捨てられた瞬間を敦だけが見てしまったからだ。敦は優しい人間だから、僕を1人にしないようにずっと気にかけてる。いつだって目を離さないように気を配って、温かい腕の中で囲ってくれる。今だって、僕が不安にならないように、すぐ、という言葉を使ったんだろう。



 ふと、パンフレットの間から見える1つの高校名が見えた。監督やコーチからも勧められ、推薦校の監督からも好条件をもらった高校。




 洛山高校。




 IH、WCともに最多優勝校であり、伝統があるそこは、きっと僕のバスケセンス、性格からしたら、一番あっているのかもしれない。けれど、今の僕には敦しか考えられなかった。いかに、敦の特性を活かせるかどうかしか考えられない。洛山高校に引っ張ってよかったのかもしれないが、やはり最大限に引き出せる場所は陽泉のみだろう。


「ふっ…」


 思わず、自分自身に嘲笑ってしまう。こんなにも敦至上主義の考え方で大丈夫なんだろうか。
 もし、敦に好きな人が出来たら。敦が離れていったら。僕を、いらない、と言われてしまったら。僕は本当に1人で立ってることができるのだろうか。いや、座り込むぐらいなら、いっそ死んだほうがマシかもしれない。



 女々しいなと思いながらも、思わずにはいられない。だって、僕にはもう敦しかいない。こんな僕の傍に飽きずにずっといてくれるのは敦しかいないのに。

 けれど、今どれだけ離れるのを嫌がったとしても、僕も敦も結局は家のために政略結婚をさせられてしまうのだ。それぞれの家の子孫を残し、会社を未来永劫繁栄させていかねばならない。それが物の怪憑きとして、財閥の息子として、果たせばいけない使命だ。

 それだけが化け物でも両親の役に立てると言っていた、たった1つの…






『出来損ないの化け物』





「……うっ」


 脳を叩きつけるような声が聞こえた瞬間、胃から何かがこみ上げてくる。口に手をあて、必死に唾液を飲み込んで耐え忍ぶが、吐き気は止まらず、むしろそれさえ巻き込んで喉まで這い上がってくる。


 吐くな、吐いちゃダメだ…落ち着け…



 いくら唾液を飲み込んでも、治らない吐き気に僕は椅子から降り、身体を丸める。そうすれば、幾分かマシに思えたからだ。そうやって今まで堪えてきた。


 吐くな…吐くな吐くな吐くな吐くな。こんなところで吐いてしまえば、迷惑をかけてしまう。迷惑をかけたら、いけない。吐くなら、トイレに行かなければ。違う、トイレも怒られてしまうんだ。前に便器も汚してしまい、腹を殴られてしまったではないか。それなら外か?けれど、それまでに吐かずにすむかどうか。それに、もし万が一見つかってしまえばまた怒られて…







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