秀徳のある1日。けれど、毎日部活漬けの彼らにとってオフであるこの日は非日常になりそうな1日。緑間真太郎は用も何もないはずなのに、いつまでも教室にいた。授業が終了し、クラスメイトの皆が帰っても、緑間はぴくりとも動かなかった。そんな彼に周りは誰も声をかけない。毎日欠かさず片手に持っているラッキーアイテム、外見を裏切らない真面目で気難しい性格、それに加え語尾も人とは異なるまでときた。周りから敬遠されそうな数々の要素を持っていた彼に、秋となっても気安くしゃべりかけれる人物といったら緑間の相棒だと自称している彼だけだろう。
そんな彼は今委員会に出ている。
緑間は彼を待っているのかと思えば、そうではない。部活の日はチャリアカーで共に帰ることが多い2人だが、オフの日は大抵彼を放って帰っている。
では、なぜここにいるのか。それは何も乗っていない机の上にあった。まるで、その上で今も尚変わらず何かが行われているのかと考えさせられるような真摯な瞳はそこに向けられていた。時折、彼はゆるりと視線をあげ、向かいの誰かを見る。ぴんっと伸びた真っ直ぐな背中は授業中も然り、曲がることはない。
「楽しいね」
向かいの誰かが口を開く。
「嫌味か」
「何が?」
「詰まっているのを見て楽しんでいるのは趣味が悪いぞ」
「ああ…いや、そういうことではない。お前と一緒にいて楽しいということだよ」
「なっ!」
たまらず驚きの声をあげる。しかし、向かいの主は気にもしていないように口元に緩やかな笑みを浮かべた。
「オレはお前の真っ直ぐで誠実な精神を好ましく思っている。君ほど不器用なやつはいない」
「ケンカを売っているとしか思えないのだよ」
「ふふっ。褒めているんだがなぁ。」
西日がさしてよく見えない。いつもブラインドで閉じているのにどうして今日は閉じていなかったのだろうか。

ああ、彼が見えない。

「赤司。オレも…」
「真ちゃん!!」
いきなり、飛び込んだ声に緑間は教室の扉の方へ視線を向ける。
「高尾」
「なーに、ぼーっとしてんの!かえろーぜ!」
「は?」
「ささっ。ストバスでもしていこーぜー」
まるでその場にはいさせたくないように、委員会に行っていた彼、もとい高尾はぐいぐいと緑間の手を引っ張る。緑間はされるがまま引っ張られ、引っ張られていない手は自然と机の傍に置いていたカバンを掴み上げていた。
教室から出るとき、彼はちらりっと机を見る。
何もない机。誰もいない向かい側。オレンジの情景だけがそこにあった。
けれど、緑間は確かに見た。聞いた。

「オレもお前といて楽しかった」

自分を引っ張っている高尾にすら聞こえない声で、緑間はさきほどの言葉の続きを言う。ぱちりっと将棋を指す音が耳に響いた。







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緑高前提緑赤


「赤司、お前にずっと言いたかった」

振り返ると、真っ直ぐに僕を見つめる真太郎の目があった。
この目は知ってる。あのときと同じ色だ。覚悟を決めた目。誰かを思い、信じている色だ。中学時代、見たことがなかったそれはもう一度僕を突き刺す。

「もう、十分なのだよ。赤司…」

「え?」

「もう、オレを…オレたちを背負わなくていい」

そういって、真太郎は笑った。哀しそうに、愛しそうに。

「お前ももうわかっていると思うがな…オレたちは歩いていけるのだよ」

「…隣に高尾くんもいるしな」

「なっ…!?」

痛む心を悟られないように真太郎を茶化すと、瞬時に頬は真っ赤になる。夕陽に負けないほどの真っ赤な頬に自然と笑みが零れた。
あぁ、お前はわかりにくいと言われることが多かったけど、僕にとったらいつだってわかりやすい。
そういうところ、すごく好きだったよ。

「ふふっ。」

「笑うな!」

「すまない。けれど、本当のことだろう?」

そういって、軽く首を傾げると、真太郎は何も言い返せないのか、口を開閉させるだけ。お得意の口先だけの天の邪鬼はどこにいったのか。

けれど、たしかに真太郎は仲間を信頼するバスケを知った。
テツヤも自分が影だと卑下するように言うこともなくなった。
涼太もキセキの世代ではなく、エースとしての自覚を持った。
大輝も再びバスケに対する喜びや楽しみを感じるようになった。
敦も面倒だと諦めず、最後まで真剣に戦っていた。

十分ではないか。自分がいずとも、彼らは前に進める。歩いていける。
僕なんていらない。

「ありがとう、緑間」

「え…?」

「お前がいてくれて本当に良かった」

「赤司、お前…今…」

「とても軽いんだ。今なら空にだって飛べそうなぐらい」

「赤司!!」

あまりにも大きな声に驚いてしまう。何をそんなに興奮しているのだろうか。それはもうさきほどの羞恥からの頬の赤さではない。けれど、わからない。どうして、そんな顔をするかなんてわからないよ…。お前が全然わからないんだ、緑間。




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