ドサッ




「え?」



 いきなりの物音。その音で全てが現実に戻る。おそるおそるその音の方へ顔を向けると、棒立ちになっている足。きっと資料がたくさん入っているであろうトートバック。多分、それが今回の物音の原因だろう。
 僕はゆっくりと顔を上げていくと、呆然としている敦の目と合う。



「あ、」



 さああああああっと血の気が引いていくのがわかった。見られた。確実に見られた。どこからかはわからないが、ドアを開ける音が聞こえないほどに熱中してたから、たぶん後半部分ぐらいからか?いや、今カバンを落としたから、フィニッシュぐらい?どちらにしても、最悪なのは変わらない。見られてしまった。
 AVを見ながらの自慰なら、まだわかってもらえるような気がするが、これは敦のAVだ。それも隠してたAV…。そして、それを見てノリノリで自慰に耽ってた僕。最悪だ…最悪すぎて笑えてくる…。


「あの、これは…だな…」


 とっさに言い訳を話そうとするが、上手い言い訳が思いつかない…。掃除をしてたら見つけちゃったんだ!敦の性癖を確かめるために見たら、つい興奮して一発抜いちゃった☆とか正直に言うなんて無理だ!ドン引きだよ!
 心の中でノリツッコミをしながらも、何と言い訳をしようと考えを張り巡らしていたとき、まだ流れているAVが目に入る。どうやら僕が気づかない間にAVの方は佳境に入っていたらしく(どれだけ熱中していたんだよ、僕ってやつは…と絶望した)、快楽に堕ちた女が男に懇願する場面だった。



<おねが、ぁん…します…わたしの汚くていやらしいお――――> ブツリッ…







 しかし、僕が気づいてまもなく、うるさいとでもいうように敦はテレビの電源を消した。


「………」


 沈黙が重い。怖くて、敦の顔が見れない。しかし、僕が謝らなくては事態が好転しないことは見えている。好転しないかもしれないが、悪い方には転がないはずだ。僕はそう思って、立ち上がって誠心誠意謝ろうとするために、まず身だしなみを整えようと手の汚れはそのまま、ズボンの留め具、ベルトをしめようとする。しかし、その前に敦に腕を掴まれた。



「あ、あつし…うわっ!」


 まさか、腕をつかまれるとは思わず驚きの声をあげるが、そのままベッドまで引き上げられ、仰向けに転がされた。自然と四つん這いの形になり、よくわからないまま、そこから敦を見ようすれば、上から敦は圧し掛かってくる。精液や先走りで濡れている手の上に敦の手が重なり、にちゃっとかすかに粘着質な音が聞こえた。その音に恥ずかしさを覚えると同時に、敦の手が汚れてしまうと焦っていると、敦が僕の耳元に口を寄せてくる。



「ごめんね、赤ちん」


「え?」


 何を謝る必要がある。むしろ、謝るのは僕の方で…
 敦のいきなりの行動、発言にさらに頭が混乱する。こんなときに限って、優秀な頭は働いてくれない。そのくせに、敦の声がいつもより低くて、色っぽい声だななどと考えてしまった。アホすぎるだろ、僕…!


「赤ちんもこういうの好きだったなんて知らなかった。もっと早く気付けばよかったね」


「ひっ!」


 敦に耳殻を軽くかまれ、肩が跳ね上がる。そのまま、流れるように僕の手を握ってないほうの敦の手がゆっくりとシャツの中に入り込み、僕の腹、胸を撫でまわしてきた。


「ふっ…」


「ほら、乳首もすごい勃ってる。オナニーそんなに気持ちよかった?」


「あっ」


「それにさ、赤ちん知ってた?赤ちんってさ、開発されてないくせに乳首弄られたら気持ちよくなるんだよ?」


 きゅっと敦の親指と人差し指が僕の乳首を掴む。ぴりぴりっとした刺激に、思わず声が漏れる。まるで敦の言った通りの反応を返したようで、頬が瞬時に熱くなった。


「やっ、あつし…」


 何でいきなりこんなこと…。恥ずかしくてやめてほしい。敦の意図が何も感じ取れないうえに、ひたすら羞恥を感じる。やめろ、という意味をこめて、首を横に振り、胸を弄ってる敦の手をシャツ越しに握りながら、敦の顔を覗き見ようと首を後ろ向けようとする。
 いつもなら、敦は胸を弄るのをやめて、僕にキスをしてくる。「うん、ちょっと意地悪しちゃった。ごめんね」っていって、謝罪の意味をこめていっぱいキスをしてくれるのに、今はまったくやめてくれない。それどころか、強弱をつけながら乳首をつまんだり、先端部分を触れるか触れないの位置で擦ってくる。その絶えず送られてくるせつない刺激に腰が勝手に揺れ動く。


「んんっ、だめ、あつし…ぁっ、こら」


「なんで?赤ちん気持ちいいでしょう?」


 咎めるように言ったのに、敦はとくに気にしてない。まるで遊ぶように乳首を弾いたり、かと思えば、乳首の先端に爪をたててくる。


「あっ、ちが、うから…やめっ、それ…」


「それって?」


「カリカリ、って…あんっ、それ、ぞくぞくって…ぞくぞくするから、やめ…ひっ」


「それが気持ちいいんでしょう?」


 首をぶんぶんと横に振りながら否定を示すが、敦の手は止まらない。それがいやだと言っているのに、かすかに爪をたて、先端をカリカリとひっかく。

 なんで?いつもやめてくれるのに。僕の言うことを聞いてくれるはずなのに。こんな意地悪なこと言わないのに。やはり、僕がAVを見たこと、そんなに怒ってるのか?

 ふわふわとした頭の中で必死に働かせるけど、敦の手が気紛れに乳首を引っ張るように弄られると、すべて真っ白になる。


「んっ…ふ…」


「かわいい、赤ちん。」


 怒っていると思っていた敦からちゅっちゅっと米神辺りにキスをされ、情事のときと変わらない優しいキスに少し安心する。けれど、手は変わらず動いていて、下腹がまた取り返しの付かないほど熱くなっていた。その熱を逃がすために、どうしても腰がゆらゆらと動いてしまい、浅ましい自分が恥ずかしい。


「あやまるから、もうゆるして…」


 この刺激から早く解放してほしい。せっかくおさまった熱がぶり返してきて、腰が重い。


「謝るって何を?」


 横からのぞきこむ様に見てきた敦と目があう。敦は本当に何かわからないという表情できょとんと首をかしげていた。予想と違う反応にかすかに違和感を感じながらも、口を開く。


「え、AVかってにみたから…んっ、きゅっとするのもだめ…」


 理由を話そうとしているのに、敦は手を止めずに刺激を与え続けてくる。そのせいで脳の奥が白く靄がかかって、上手く考えられない。けれど、必死に言葉をつむごうとすれば、敦は飄々とした様子で言葉を返してきた。


「べつに怒ってないよー」


「え?わっ!」


 ぐいっと胸を弄っていた手が敦のほうへと持ち上げるように引っ張られる。さきほどから(押し倒されたときといい)、見事なまでにされるがままの僕はそのまま体育座り状態で敦の足の間に座り、敦の背中にもたれかかるような体勢になる。
 よくわからないが、とりあえず胸の愛撫が終わったことと敦が怒ってないという事実に安堵の息を吐く。しかし、それだったらこれは何だというのだろうか。欲求不満だと思われて、からかわれてでもいるのか。それとも、悪戯か?それだったら、いくらなんでも少し悪戯の度が過ぎている。たしかに、僕もはしたない行為を見せてしまって申し訳ないと思っているが、女のように執拗に胸を弄るなどの悪戯はやめてほしい。そう思って、敦を叱ろうと敦の方へと身体を方向転換させようとするが、その前に敦の手が僕の膝裏をつかむ。


「え、あつ、ひぁっ!」


「あ、やっぱ勃ってるー」


「ひっ、みないで!あつし、やめろ!」


 M字開脚のような姿勢にされると、さきほど自慰をしたときに半端に下げた下着から性器が飛び出して、僕と敦の目の前に晒される。一回出したうえに、胸を弄られただけで半勃ちのそれに恥ずかしくなって、悲鳴のような声を出しながら訴えた。しかし、敦はその訴えを無視したうえさらに、僕の足を胸に引き寄せて、まんぐり返すような姿勢にされてしまう。


「怒ってないに決まってんじゃん。だって、赤ちんあのAV見て、オレにされてるの想像してたんでしょう?それで抜いてたんでしょう?怒るっていうか嬉しすぎるんですけど」


 敦は何かをいっているが、僕は器用に下着とズボンを脱がせにかかった敦を抑えようと必死のために全く内容が理解できなかった。しかし、僕の努力むなしく、するりっと脱がされてしまう。下半身が丸出しになって、恥ずかしくて死にそうだ。


「あつし…はなっ、はなして…!やだ…やだ…」


「『あつし、あつし』ってさ、物欲しそうに言いながらここ弄ってたもんね」


「んっ!…はぁ…んんっ」



 膝裏を抱えられながら性器をつかまれて、息が止まる。まさか、これも悪戯の延長なのだろうか。けれど、これはもう性行為の一環だ。悪戯ではすまされない。敦と僕は恋人同士で、何回か情事を行ってきたが、いつもはお互いの同意の上だ。こんな、いきなり始めて、強引に進められたのは初めてで、どうしたらいいのかわからない。
 僕の混乱を他所に敦は性器を擦り始める。いきなりの快感に肩が跳ね上がり、首を上にそらすと覗き込んでくる敦と目があった。


「オナニー気持ちよかった?オレにいっぱい苛めてもらう妄想してさ」


「あっあっ、んっ、だめ…!あっ、つし、やだ…」


「うそつき。赤ちんの顔、いっぱい扱かれて嬉しいって顔してるし。」


「しら、ない。んっ、そんな、の…しらないいぃ…」


 足を抱えあげられ、息が苦しい。そのうえ、敦からの言葉が貶める言葉ばかりで顔がひどく熱い。なんで、こんなことに、と泣きそうになりながらも、すべてを否定するように首を横にするが、敦はむぅっと頬を膨らませた。


「知らなくないでしょ?こうやって、オナニー覚えたてのガキみたいにずっと扱いてたじゃん」


「ひぃっ!やっ、やっ…あつし、おねがっ、あっあっあっ…!」


 ぐりっと亀頭に爪を立てられ、くすぐる様に刺激を与えてきた。それだけで先ほどの官能を思い出してしまい、声が高くなる。


「赤ちんって本当に爪で引っかかれるの好きだね。ほら、見える?弄れば弄るほどカウパー出てきてる」


「あっ、や、うっうぁっ…」


 敦の胸を背もたれに足を抱えられている状態なのだから、性器が見えてしまうのは当然だ。敦の言うとおり、敦の指がくりくりと鈴口や亀頭を弄るたびに、とぷっと溢れてくるのがわかる。けれど、それを認めたくなくて、必死に目を瞑って、顔を背ける。


「ここもひくひくしてる」


「あっ!」


 僕が抵抗しているのがわかったのか、つつっと滑るように後孔を撫でられた。驚きのあまり、目を開く僕に、敦は見せ付けるように、先走りを一本一本しわに塗りつけるように撫でられたり、人差し指で軽く叩かれる。その刺激に自然と下腹に力が入った。


「そういえば、赤ちんってアナニーはしないの?」


 そんなこと誰がするか。ぶんぶんと首を横にすると、敦が少し意外そうな顔をする。なんで、そんな顔をする。誰がそんなところを自慰するときに触るというのか。そもそも自慰をせずとも、敦とセックスするだけで十分な僕からすれば、そんなもの考え付いたことすらない。


「じゃあ、やり方教えてあげようか」


「いい…いら、ない…!いらない…んっ!」


 敦が僕の手をつかみ、つぷっと軽い音をたてながら、爪先、指と入り込んでいく。もう、本当になんでこんなことになっているのだろうか。泣きそうになりながら、軽く現実逃避に浸ってしまう。惚れた弱みからなのか本気で拒否できずに、ここまでずるずると来てしまった。





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