灰崎の進路は都内でも底辺といわれる不良高校だった。いわば、素行が悪い人物や不登校だった人物などが集められた落ちこぼれ学校だ。もちろん、そんな学校はバスケなどの部活はあってもないに等しい。灰崎の進路選択の基準は、好き勝手できてうるさくない高校だった。

 灰崎は黄瀬が入部するまでは『キセキの世代』の一人と揶揄されるぐらいまで、バスケセンスが備わっていた。それぐらいのバスケセンスを持っていながら、なぜ高校に進学してもバスケを続けないのかと、普通の人なら聞くかもしれない。答えは簡単だ。バスケに対する執着など何一つ持っていなかったからだ。
 バスケ部に入った理由も体育のバスケの時に、赤司の目にとまり、誘われたからである。お前なら帝光バスケ部の勝利に貢献できるだろうとまっすぐな目で赤司は言ったのである。


 灰崎は赤司のことを特別視していた。(いや、灰崎以外のレギュラーメンバー、紫原や緑間、黒子、はては青峰も赤司のことをどこか特別視していると灰崎は考えている。)なぜなら、いつでも灰崎にとって、赤司は(多少強引であるが)灰崎の人生の分かれ道に立っている人物であり、灰崎に道を示す人物だからである。紫原のようで灰崎はこの表現は好きではないが、赤司はまるで灰崎の神のような人物なのだ。その理由が無意識下の中で根強くあるためか、灰崎は他のレギュラーメンバーには名前で呼ぶことができるが、赤司だけは気安く呼ぶことができなかった。





 そして、今、またしても人生の分かれ道に赤司は立つのである。勝手に道を決めることなど許さないかのように。







 「ああん?なんつった?お前」



 「福田総合に行けと言ったんだ。これは命令だよ」



 赤司はいつだって突然にいう。強制退部をさせられたときだって、赤司はなんてことのないようは顔をしながら言った。


 「はぁ?なんで俺がオメェ言うことなんか聞かなきゃいけねぇんだよ!」


 「僕が正しいからだよ、灰崎」


 瞳孔を開き、赤司は当然のように言う。その言葉に灰崎は言葉を失った。灰崎が知っている赤司とは似ても似つかない姿に灰崎は頭が上手く動かなかった。

 灰崎と赤司は強制退部のことで揉めたときから、全くと言っていいほど会っていない。一年も経てば、人だって多少の変化はする。しかし、これは多少ではない。違う人物になったといってもいいほどだ。


 「お前の能力は帝光には必要なかったが、これからは必要となる。ぜひとも、そこらへんで腐るより、使ってほしいと思っている。大丈夫だ。素行の悪さについても多少目をつぶってくれるようだよ。」


 そういって、赤司は薄く笑った。しかし、赤司を見ているのは、笑いかけてくれているのは、灰崎ではなかった。それがわかった瞬間、灰崎の頭が真っ白になった。

 灰崎にとって、やはり今でも赤司は神様だった。だから、その高校のことを勧められたとき、少しだけそこにでも行っていいかもしれないと思ったのだ。赤司はなんだかんだで灰崎のことを考えてくれているのだ。灰崎の気持ちを第一にして考えてくれていたのだ。しかし、今の赤司の言い方は灰崎の気持ちは考えていなかった。灰崎が備わっている能力のことしか考えていなかった。



 「ふ…っざけんな!何でもかんでも思い通りになるっておもうんじゃねえ…!!」



 頭に血がのぼり、灰崎は赤司の襟元に手を伸ばす。しかし、掴む前に軽い音をたてて、その手はふり払われた。



 「僕に触るな。頭が高いぞ」



 底冷えすような低い声、瞳に灰崎は今度こそ何も言えなくなった。頭が機能しなくなった。





 こいつはだれだ?






 灰崎はあの事件の詳細を知らない。赤司に何があり、赤司にどのような変化をもたらしたなど知る由もない。けれど、何も知らない灰崎でも、これだけはわかる。灰崎の道を示す神はもういない。




神は消失した

 
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