ダムッ…ダムッ…キュッ



 走る。動く。跳ねる。




 ダムッ…ダムッ



 つっきるように走ると、普段はうざったいぐらいの長い髪がふわってまいあがって、首の後ろがすずしい。そのままゴールまで走っていこうとしたが、目の前に1人立ちはだかる。知らない顔のやつだ。敵チームはとなりのクラスっていってたから、多分となりのクラスの誰か。オレはボールをつきながら、ぴたりっと止まる。




 「紫原!!シュート!!」



 後ろから同じクラスのやつの声。オレはその声に誘われるまま、ひざを曲げて、うえにむかって飛ぶ。そして、流れるまま、ゴールめがけてボールを打つ。少しの静寂。視界のはしで赤が動いた。



 パスッ








 「ナイッシュー!!」








 リングにボールが通った音とともに、後ろからまたもや同じ声。けれど、オレは体育館のドアのほうに視線を移す。赤い目がオレを見てた。ちょっとだけおどろいた顔をして。なんで、そんなおどろいた顔をするんだろう?って首をかしげるけど、まぁ、あとで聞けばいいかと思って、オレはコートから出る。



 「おい、紫原?」



 コートから出たオレに近くにいたやつが話しかけてきた。教室で赤ちんをまっていたときに、オレを遊びにさそってきたやつだ。



 「赤ちん来たから、かえるねー」



 「は?赤司もさそえばいいじゃん」



 「だめだめー。ってか、赤ちんくるまでっていう約束でしょー」



 昨年までは赤ちんといっしょのクラスだったのに、なぜか今年はべつべつになった。それを知ったとき、はじめて、クラス替えっていうものをうらんだ。それに、毎週水曜日だけオレのクラスととなりのクラスは授業がおわるのがはやくて、赤ちんのクラスはおわるのがおそい。結果、オレは毎週教室でつまらないじかんをつくるはめになったのだが、まぁ、赤ちんといっしょに帰れないのはもっとつまらないので、いつもおとなしくまっている。けれど、今日はなぜかこの目の前にいるやつに「バスケやらねぇ?」ってさそわれた。たぶん、きまぐれだろう。赤ちんがくるまでなら、という条件でオレはいっしょにやってた。そいつはそれを思い出したのだろう。さっきまでのふふくそうな顔とはうってかわって、さわやかな笑顔をうかべた。なんか、その笑顔むかつくんですけど。



 「いわれてみれば、そーだな。じゃあ、また明日な」



 「うんー」



 オレは舞台上においてたランドセルを持って、赤ちんがいるドアのほうまで走っていく。途中で何人かにじゃあなーとか言われたので、てきとうに手をふっておく。っていうか、ほとんど顔も名前もしらないやつばっかなのに、あいつらはなんでオレをしってるんだろうって思う。まぁ、べつにどうでもいいけど。赤ちんの前につくと、赤ちんはオレを見上げる。なんかしんせん。前まではオレが見上げてたのに。



 「さがしたー?」



 「ああ、ちょっとな。でも、敦のクラスのやつにきいたら、体育館でバスケをしているっていわれたから、そんなに探さなかった」



 そういいながら、赤ちんはじっとコートを見ている。オレも振り返ってコートを見るけど、オレが抜けたかわりにべつにやつが入って、またバスケをはじめていたふうけいだった。



 「なに?赤ちんもバスケしたかったの?」



 「いいや」



 首をかしげながらきくけど、赤ちんは首をよこにふるだけ。そして、オレを見た。



 「楽しかったか?」


 「うーん、まぁ、シュート入ったときはうれしかったし、たのしかったのかなー?」


 教室でただぼーっとまっていたときに比べたら、楽しかったのかもしれない。けれど、もっとやりたいとか、やめたくないとは思わないていどだ。まぁ、ひまつぶしにしたら、楽しかったぐらい?



 「そうか…」



 「うん、じゃあ、かえろー」



 赤ちんのかおがちょっとだけ暗いように見えた。どうかしたのだろうか、と思いながらも、赤ちんにそう声をかけながら、赤ちんの手をとろうとするけど、それがするりっとかわされた。あれ?いつもなら、普通につなぐのに。



 「…赤ちん?」



 「なんだ?」



 オレの声に赤ちんは首をかしげる。さっきの行動をなんでもないかのように。あれ?赤ちんいつもと違う?



 「手ぇ、繋がないの?」



 「繋ぎたいのか?」



 「え?だって、いつも繋いでたじゃん」



 帰るときはいつも手をつないでいた。それはようちえんのころからで、赤ちんが「あつしがまいごになるとだめだから」といって手をつないでくれたときから、そのこういは昨日までかわらず続いていた。

 赤ちんと手をつなぐのは好きだ。赤ちんと手をつなぐと安心するし、心臓がぽかぽかするからだ。けれど、今の赤ちんのいいぶりは今までのそれがなかったような言い方だった。ちょっとかなしくなった。



 「これからはやめておこう、敦」




 赤ちんがちょっとだけかなしそうに笑った。オレのかなしいきもちがうつったみたいだ。



 「なんで?」



 「ふつうは友達同士でも手をつながないんだよ?」



 「なんで?前まではふつうにつないでたじゃん」




 赤ちんのことばがよくわからない。だって、きのうまでつないでたじゃん。なんで、いきなりそんなこというの。



 「小さいころは許されたとしても、大きくなったら許されなくなるものもあるんだよ」



 「いみわかんない。赤ちんはつなぎたくないの?」



 赤ちんのいうことはたまにむずかしい。それは昔からで、いつもならもっとオレにわかりやすく言いなおしてくれるのに、そのときの赤ちんはかなしそうに笑うばかり。ねぇ、なんでそんな顔でわらうの?









 「……かえろう、あつし」






 けっきょく、オレのしつもんには答えてくれなかった。ただ、オレのそでをひっぱって、かえろうと合図をおくる赤ちん。ねぇ、それだったら手をつないだほうがいいよ。今までみたいにつなごうよ、ねぇ、赤ちん。







 でも、オレもそれをいうことができなかった。



変化の日常を感じた、16時



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