※ファンタジー色強め
ラスボス赤司
側近紫原
勇者黒子
みたいな
視点がコロコロ変化します。
ようやく訪れることができた赤司の宮殿は静かだった。今までの要塞のように数多のモンスターが襲ってくるのかと身構えていた一行だが、モンスター、いや人の気配すら何もない。
しかし、方向感覚を失ってしまいそうな、まるで迷路のようなこの宮殿はじりじりと体力や精神力をも奪う。最上階でいるであろう赤司の元へ行くための階段を探すことでさえ一苦労だ。
「静かですね…」
森の奥深くに聳え立っているせいか、外の音すら一切遮断されている。いっそ不気味にすら感じる静けさに黒子が思わず呟けば、黒子の後ろにいた火神が黒子の後頭部を軽く小突いた。
「なーに言ってんだよ。あの赤司のことだ。何か考えがあるに違いねー。油断すんなよ」
「油断なんてしてませんよ。それに赤司くんに関しては僕の方が知ってます」
「そーそー。余計なこと言ってねーで、階段探せ。階段」
火神のセリフに黒子が剥れたように返し、その会話を聞いていた青峰が後ろから横槍をいれる。
黒子の言ったとおり、たしかにこの2人と赤司は昔からの知り合いらしい。何故赤司が村を侵略し始めたのか、モンスターを操れるようになったのか、その全貌はこの2人から知らされたぐらい、火神より何倍も彼を知っているだろう。
しかし、なぜこんなに責められなければならないのだ。ちょっと注意しただけじゃねーか。
なかなか目的地、いや階段すら辿り着けない苛立ちから火神が噛み付くように言い返そうとしたとき、先頭を歩いていた黒子が急に立ち止まった。あまりにも急に止まるので、火神も青峰も前につんのめる。
「…紫原くん?」
「え?」
紫原。その名を聞いて、苛立ちから緊張へと瞬時に心が変化した。
紫原は赤司の忠実な下部で、彼もまた黒子、青峰ともに旧知の仲だった男だ。敵として何度か火神の前に立ちはだかった時は、巨人族の子孫かと疑うぐらいに高い身長と長い髪から見えた視線の鋭さを覚えている。
当然、戦いにきたいのだから、この城に紫原がいるのはわかっていた。けれど、紫原のあの異常なまでの赤司への忠実っぷりから、赤司とともにいると仮定していたのだ。
火神はいつでも戦闘状態に移れるように武器を手に取り、紫原へと視線を向ける。しかし、黒子の視線を辿った先にいた人物はおおよそ紫原だと見えず、思わず火神は体を固まらせた。
まず、見た目だ。2m以上もあった身長は、今ではその半分以下であったし、顔つきも丸みを帯びていて幼い。服装も武装の一つもなく、白の足丈まであるワンピース。今まで寝ていましたというような格好だ。火神が紫原を知らなければ、きっと子供が迷い込んだと勘違いしてもおかしくない。
「黒ちんたちうるさい〜。赤ちんは今おやすみ中なんだよ〜?」
間延びした話し方は、紫原特有の話し方だが、外見のせいで本当に子供同然だ。しかし、その声色は低い。いわば成人済の声色だ。
見た目のせいで火神と青峰は混乱し、目を瞬かせるだけで紫原の言葉の意味を理解できていない。黒子も同様に旧友の姿に混乱していた。いや、なぜその姿になったかの原因ならわかる。
きっと赤司の力だ。
理由は到底理解できないが、赤司が紫原にこのような格好をさせたのだ。これで混乱させて、先手を打つとでもいうのだろうか。しかし、紫原は変わらず、幼児のような姿のままで敵意のカケラもない純粋無垢な目で黒子たちを見上げている。
「どうしたんですか、その姿は」
警戒心を解かずに、硬い声で聞けば、紫原はあぁと納得したように自身の姿を見下ろした。
黒子からすれば懐かしい姿。この身長だったときは平和だった。世界が狭かった。彼らだけが全てだった。
そんな過去を思い出していると、紫原はあのときと同じように無垢な目で黒子を見上げ、こてんと首を傾げた。
「どー?赤ちん、結構この姿気に入ってるっぽいんだけど、黒ちんもこっちのオレの方がいいー?」
「そういう話をしているのではありません。何故、そのような子供の姿でいるのかと聞いているのです」
「えー、なんでって。この姿にならなきゃ赤ちんと一緒に寝れないじゃん」
さも当たり前のように話す紫原に一行は呆気にとられる。たしか
に紫原の身長を考えると(ベッドの大きさがどれほどのものかは黒子は知らないが、)一般のベッドではベッドに体を収めるのが難しい紫原だ。ワンランク上の大きさのベッドに寝ていたとしても、そこに赤司を加えるとなると窮屈を感じるしか他ならないだろう。
しかし、それにしても敵が侵入したというのに、悠長に寝るとは気楽なものだ。それも力を使った理由がくだらなすぎる。黒子は相変わらずの2人のマイペースっぷりに一つため息を吐きたくなった。
「だからさー、黒ちんたち帰ってくんない?てーか、二度と来ないでよ。べつに黒ちんたちの村に行ってないでしょ〜?」
「他の村は侵略してるんでしょう?それを見て見ぬフリは出来ません」
「あーやだやだ。そういうのめんどくさい。っていうかさー、侵略ってなに?向こうも合意の上だし」
「力の圧力による合意は合意と呼びません」
「そんなの弱いのが悪いじゃん」
「だから、君たちと勝つことによってそれを破棄してやりますって前から言っているじゃないですか」
さきほどまで無邪気なもので染まっていた紫原の目がすっと細くなる。ぴりっと空気が冷えるのを黒子は確かに感じた。
「オレ、黒ちんのそういうとこ本気で嫌い」
「奇遇ですね、僕もです」
さきほどまで呆けていた火神も青峰も変わった空気を敏感に感じ取り、気持ちを切り替え、それぞれの武器を強く握る。
黒子たちの周辺の気温が下がり始める。紫原と戦う時はいつだってそうだ。彼のフィールドが展開されているのだろう。吐く息が白くなってきた。
「力づくで赤ちんのとこに来るならこいよ」
そういうと同時に、紫原のもとに小さな光が集まり始める。それらは素早く紫原を卵型に包み、その光は徐々に巨大化していく。光が散った先には2M以上もある武装した巨人がいた。
それが彼らが何度も見てきた紫原の本来の姿だ。
「赤ちんに近づくやつは、オレが全部捻り潰してやる」
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年の差紫(+赤)
オレの母さんと赤ちんの母さんは昔から大の仲良しだったらしい。
良いところのお嬢様だった赤ちんのお母さんは、社会勉強としてお嬢様学校には行かず、極普通の私立に通っていたせいで、学校では相当浮いていたらしい。イジメられてたとかそんなんじゃなくて、高嶺の花過ぎて今の赤ちんみたいに軽く宗教とかファンクラブが出来てるみたいな。だから、気軽に会話ができる友達がいなかった。そこに堂々と気兼ねなく話しかけたのがオレの母さんだ。
それ以来、ケンカもすることはあるが、ずっと仲良しなんだと赤ちんの母さんから聞いた。
一般市民だった母さんがお金持ちのお嬢様に気兼ねなく話せたのは、多分肝が座っているというより、身分の違いなどを気にして遠巻きに眺めている周りがただめんどくさかったからだろうと、オレは勝手に推察している。だって、息子であるオレもそういったものは面倒だと思っているからだ。
お互い結婚したあとでも、新居をお隣同士に旦那に頼み込むほどの仲良しっぷりを見せている2人に、なぜかオレまで白羽の矢は立ってしまった。
オレは紫原の性を受けながら、なかなか子宝に恵まれない赤ちんの家の息子でもあるという扱いを受けたのだ。意味がわからない。
赤ちんの家は両親共働きでなかなかに忙しいので滅多にないのだが、はじめて幼稚園の送り迎えや小学校の授業参観に、母さんの代わりに赤ちんの母さんが来たときに口をあんぐり開けたのは、思い出したくない思い出だ。
そんな子ども時代を過ごし、やっと赤司家に子宝が恵まれたーーーオレと赤ちんが初めて出会ったのは、オレが小学4年生で寒い寒い風が吹いている日だった。
街はクリスマスモードで、オレは数日後に渡されるであろうクリスマスプレゼントを楽しみにしながら温かい家に帰った。
しかし、玄関に入った瞬間、いきなり母さんに腕をひかれ車に乗せられたのだ。まだ年齢は小学生だったが、見た目は中学生かひどいときは大人に間違われるぐらい背がにょきにょきと伸びていたオレを抱き抱える勢いで連れて行った母さんは、おっとりとしている外見とは裏腹に馬鹿力の持ち主だと思う。
連れていかれるまま着いた場所は病院だった。そこでようやく、そういえば赤ちんのとこのお母さんがそろそろ赤ちゃんが産まれるとか言っていたなと思い出した。
赤ちんの母さんはさきほど仕事先で産気づいたらしい。それの連絡を受け取った母さんが病院に慌てて行こうとしたところにちょうどオレが帰ってき、ちょうどいいと思い、(強引に)連れてきたらしい。それらの説明を受けながら、敦に弟が出来るのよーと笑顔で言われたときは、本気で返し方に困った。
赤ちんのお母さんは美人で、オレの母さんと違いバリバリのキャリアウーマン。でも、息子同然のオレにはすっごい優しくて、皆には内緒よといって、オレが大好きなお菓子を買ってくれる。勉強もわかりやすく教えてくれる。いけないことをしたときは、絶対零度の眼差しで本気で怒られた。突拍子のない行動をされること以外でも、本当に息子として扱ってくれているのがこの10年間でわかっているつもりだ。それがめんどくさいと思うことが多々あったが、オレは赤ちんのお母さんもお父さんも大好きだ。
しかし今、本当の息子が出来たのだ。これからは以前のようには接してくれないんだろうなと漠然と思っていたオレは、正直微妙な心境だった。
しかし、そんな心境も赤ちんのお母さんがいる場所まで着いたら、すぐに消え失せた。正直、オレはあのときのことをあんまり覚えていない。というのも、母さんが赤ちんのお母さんがいる場所に入るときに聞こえた泣いているような呻き声に恐怖を覚えたからだ。
やはり赤ちんのお母さんは第二の母親のようなもので、家族みたいに大事な人だ。いつも気丈に振舞っている赤ちんのお母さんが苦しんでいる。このまま死んでしまうのではないかとその時は本気で思っていた。
赤ちんが大きな産声をあげたあと、オレはその部屋に通された。おそるおそる入った部屋は廊下と同じ真っ白い空間で、赤ちんの母さんはオレを見るなり微笑んだ。
敦くんも来てくれたのね、ありがとう。
さきほどの呻き声が嘘のように、いつも通りの凛とした声の赤ちんの母さんは、抱いているタオルの塊に敦お兄ちゃんが来てくれたわよーと話しかけていた。いや、オレお兄ちゃんじゃねーしと言いたかったが、敦くんも赤ちゃん抱いてみる?といわれてしまったので、オレは何も言えないままその子に近寄った。
「わ…」
赤ちんを見た瞬間、思わず声が漏れてしまった。赤と黄色の目はじっとオレを見つめていたのだ。そのときから赤ちんはすべてを見透かしていそうな瞳をしていた。けれど、そんな恐怖すら覚えるような瞳なんて、オレの片手で捻り潰せば意味がないように、手も足も頭も全部小さかった。
まるで未知との遭遇のように、その手に人差し指を差し出せば、赤ちんは本当に弱い力で握り返してきた。そのとき、母さんも赤ちんのお母さんも赤ちゃんも敦がお兄ちゃんだとわかるのねだとか嬉々と騒いでいたが、オレは赤ちんしか見ることが出来なかった。
ああ、この小さな人はオレが守らなければならない。
きっと赤ちんのお母さんとお父さんから産まれた子だから、きっとすごい賢くて、なんでもできるような子になりそうだけど…
でも、オレが守らなきゃ。
そのとき、オレの心に灯ったものはそれだった。
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♀紫♀赤
赤司:一人称「僕」、紫原→紫原呼び
「紫原が使ってるリップは甘い匂いなものばかりだな」
クルクルと底の部分を回せば、リップは仄かなイチゴの香りを辺りに漂わせる。大々的に広告をされていた人気商品なので、周りの流行に疎い僕でもわかる。
名目はリップだが、グロスのような潤いの役割もあり、たしか謳い文句はキスをしたくなるようなリップだったか…
「赤ちんはいっつも薬用だもんねー」
「唇の乾燥を防ぐには薬用が一番だろう?」
「でも、たまには赤ちんもこういうの塗ればいいのにー。化粧だってしないしさー」
「それは紫原も同じだろう」
細い指でスルリッと撫でられた頬は、紫原の言うとおり化粧っ気も何もない。いわば、スッピンだ。この年頃の女の子は背伸びをして化粧に興味を持ち出すのだが、僕も紫原も自身が思っている以上に部活少女らしく、化粧にお金を使うならバッシュに使うよという心持ちだ。いや、紫原はお菓子か。
一応家のものに言われ、パックや化粧水、美容液などは塗り、外に出る際には日焼け止めを塗っている。それよりも部活の影響で食事、睡眠の方に意識を向けているせいか、女子特有のスキントラブルもない。
しかし、僕からすれば目の前の少女(少女というには身長も胸も育ちすぎているが)の方が化粧に興味を持った方がいいと思う。まず、化粧水や日焼け止めをしていない。この頃は黄瀬に言われ、日焼け止めは塗っているらしいが、なぜかそのときは大体僕が塗る羽目になっている。
その上、お菓子が大好きで気がつけば口の中に何かがある状態だ。今だって、飴をコロコロと口の中で転がしている。思春期ならば、そんな偏った食生活を送れば、肌に影響が出るはずなのに、ニキビもないツルツルの肌だ。
紫原を見ていると、毎日スキンケアを心がけている女性が哀れに思えてくる。
苦笑に近い笑みを浮かべながら、リップに蓋をする。残り香が少し鼻をくすぐった。確かにこれは食べてしまいたいと思ってしまいそうな誘惑な香りだ。
「んー、じゃあさ、リップだけでもしようよ〜」
「は?」
紫原はいい考えだと笑いながら、さきほどまで僕が持っていたリップを強引に奪い取られた。呆気にとられている間に、またイチゴの香りが鼻をくすぐる。
「そりゃあ、確かに薬用には負けるけどさ〜。保湿成分もたっぷり入ってるし、いつもよりちょっと唇が重いかなってぐらいだから、そんな身構えないでよ」
「しかし、それは紫原のリップだろう?」
「あらら?赤ちん、そういうの気にする人だっけ?」
「いや、気にはしないが…」
「じゃあ、いいじゃん」
紫原が左手で僕の顎を軽くもつ。その行為で、紫原のリップを使う上に、紫原が塗るのかと気づいた。人に触れられる経験が少ない上に、何かをしてもらうのは少々羞恥心が出てくる。
けれど、やる気満々の紫原を止めるのは気が引けて、まぁ、リップぐらいならと目を閉じた。しかし、なかなか唇に感触はない。
「紫原、どうかしたか?」
目を開けず尋ねると、何やら慌てた様子。
「な、なんでもねーし!目、開けちゃダメだかんね!」
取り繕うように早口でまくし立てあげられ、それを隠すように下唇にリップの感触がした。ぼったりと重い感触が左右に塗り広げられていく。
やはりこういう類いは違和感が強いものだ。少なくとも部活を引退するまで化粧はおろか、リップも薬用だろうなと再認識した。
「赤ちん、すっげープルプル」
「…そんなにか?」
リップが離れると一緒に紫原が感嘆の声をあげる。それに連れられるように目を開けると、紫原の顔が何やら赤い。
どうかしたのか、と聞こうと同時に、紫原のリップを持っていた手が後頭部に当たる。力に引かれるまま、前につんのめると、リップとは違う柔らかい感触。
「!?」
ついていけない展開に目を白黒させていると、唇に生温かいものが這う。
「ん…!」
ゆるゆるとその柔らかいものが一通り唇全体を舐めまわすと、 チュッとリップ音を鳴らしながら離れて行く。ただただ流されるまま、呆然としていると目の前の紫原は綺麗に笑った。
「うん、ちゅーしたくなっちゃった」
その笑顔があまりにも女の僕でも見惚れるぐらい綺麗で可愛くて、頬が熱くなる。
どうやらあの広告は嘘を言っていないようだ…
どんなことでも冷静に判断が出来ていた僕の頭は、状況についていけないあまり現実逃避をしだしていた。
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魔法使いによって女体化したむっくん×王子様赤司くん
「行かないでくれ」
パシッと軽い音と同時に、紫原は赤い王子に腕を掴まれた。紫原は全力疾走をしていたはずなのに、こうして掴まれていたのは普段着ないドレスを着ていたためか、それとも王子が紫原以上に必死に追いかけてきたためか。
紫原がゆっくりと振り返ると、悲痛な表情。離れたくないと顔が体が訴えている。たった数時間の舞踏会での出逢いだったとしても、心は知らず喜びの声をあげる。
けれど、彼がそんな表情をしたって、紫原の心が喜んでいたって、紫原は家に帰らなくてはいけない。それが魔法使いとの約束だ。
それに加え、赤い王子が引き留めているのは、この身体だからだ。
きっと“オレ”に戻ったら、見向きもされない。
12時の鐘が2人の間に鳴り響いた。
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