●紫赤



これは赤ちんと俺だけの約束。

卒業式の日。2人きり。もうこの人と歩くことがないだろうと思った道の上で。誰にも話せない2人の約束。

「お前は忘れてしまうかもしれないね。」

「赤ちんとの約束だったら、ぜってー忘れないし。」

俺はあのときの赤ちんの顔を忘れたことがない。彼の笑顔は本当に安心したような顔で、約束の内容とは全然沿ってないような表情だと思ったからだ。











ビーッ!!
試合が終わった証のその音を、俺は控え室に至るドアの前で聞く。その直後に沸き上がる歓声。その声から、黒ちんが勝ったことがわかった。
黒ちんが赤ちんに勝ったこと、それはとくに驚いていなかった。たしかに赤ちんの方が何百倍もすごいと思うけど、黒ちんはそれに負けない諦めの悪さを持っているからだ。あの諦めの悪さは本当に質が悪い。そのせいで、俺たちのチームは敗けた。
洛山の選手がこちらに向かってくる。みんな表情が暗い。まぁ、ずっと優勝していたチームが負けたのだ。それも創設以来のベストチームといわれていたチームが、だ。俺は他の選手同様、呆然としているであろう赤ちんを待つ。だって、赤ちんは負けたことがない。そんな赤ちんが初めて負けたのだ。信じられない気持ちでいっぱいになってるんじゃないかと思ってた。だけど、赤ちんの顔を見れば、違ったのだとわかった。赤ちんは穏やかに笑いながら俺を見てたのだ。
約束、忘れてなかったんだね。
赤ちんはしゃべってないのに、そう言われた気がした。
忘れないよ。だって、はじめての約束だから。冷たく下される命令じゃないから。だから、たとえどんだけつらくても、俺はこの約束を忘れないし、守ろうと思ったんだ。

「赤ちん」

「敦」

呼ぶ。見つめ合う。汗が赤ちんの頬に流れて、泣いているみたいだなって思った。

「殺しにきたよ」



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●紫赤 ※会話文


「この頃寒くなってきたな…」
「そだねー」
「布団が恋しい季節だ」
「わかるー。いっそオレ冬眠しちゃいたい」
「…冬眠、したいのか?」
「うんー。あったかい布団にくるまって、ずっとお菓子食べときたい」
「…そうか」
「…赤ちんは思わない?」
「あまり、考えたことがないな」
「ふーん」
「……」
「……」
「…」
「…赤ちん」
「…なんだ?」
「怒ってる?」
「…怒ってない」
「……」
「……」
「…」
「赤ちん」
「……」
「あーかちーん」
「……」
「赤ちーん、オレのここあいてるよー」
「……」ピクッ
「早くしないと売り切れちゃいますよー」
「……」
「あー、寒いなー。誰か抱きついてくんないかなー」
「……」ピトッ
「えへへー、捕まえた」ギュッ
「…意地が悪いぞ、紫原」
「ごめんねー、だって赤ちん可愛いんだもん」
「可愛くない」
「…そっかー」頭なでなで
「…冬眠なんかしたら許さないからな」
「わかってるよー」


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●紫→赤→黒→青→黄→緑→紫



俺は赤ちんが好き。赤ちんは黒ちんが好きで、黒ちんは峰ちんが好き。その峰ちんは黄瀬ちんが好きで、黄瀬ちんはミドチンが好き。…それで、多分ミドチンは俺のことが好き。ありゃりゃ、一周しちゃったね。バカみたいだ。
みんな振りかえったら楽なのに、振り返らずにずっと好きな人の背中を見ている。まぁ、そうだよね。好きなんだもん。
俺だってミドチンの視線には気づいている。ミドチンがたとえ教師や親みたいに口うるさくても、それはちゃんと愛情ってやつが含まれているってわかっているから、めんどくさいやつだって思っていても、人としてミドチンは好きだ。でも、ダメ。俺の中の赤ちんは絶対だし、赤ちん以外考えられない。だから、俺は決してミドチンの方には振り向かない。
多分、みんなも同じような感じ。たとえ、俺がどれだけ赤ちんの言うことを聞いたって、赤ちんがどれだけ黒ちんを特別扱いみたいに優しくしたって、峰ちんがどれだけ黒ちんを相棒だって呼んだって、黄瀬ちんがどれだけ峰ちんに憧れていたって、黄瀬ちんがどれだけミドチンと一緒に帰る機会が多くなったって…結局はそこまでなのだ。
俺がどうあがいたって黒ちんには勝てないように、みんなみんな勝てない。好きな人の好きな人には勝てないのだ。




「バカみてー」

「…ああ。そうだな。その通りだよ」

そういって、赤ちんは俺の胸の中に顔を埋める。黒ちんを思いながら、泣く。俺の腕の中にいるはずなのに、違う男のことを想い、苦しんでいる。俺はその小さい頭を撫でながら、口の中にあったソーダ味の飴を噛み砕いた。




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●紫赤 ハロウィンネタ ※途中から会話文




紫原にとって、今日という日は人生最高の日になるはずだった。ある決まり文句を他人に吐けばお菓子をもらうことができ、逆にお菓子をもらうことが出来なければイタズラをすることができる日だからである。だから、学校の行事は人一番把握しているのに、世間の行事は滅法疎い最愛の彼にイタズラをしようと思っていたのだ。いつも菓子類など持ってきてない彼のことだ。今日も持ってきていないだろうとふんでいた。だから、イタズラという名の恋人同士の戯れを想像していた紫原は、(もう一度いうが)人生最高の日になるはず、だったのだ。決して目の前にいる最愛の彼を怒らせて、最悪の日にするつもりなどなかったのだ。






「で、これはどういう状況なんですか?」

SHRが長引いたせいで、少し部室に来るのが遅れた黒子は目の前の光景の詳細を隣にいる相棒に尋ねる。しかし、尋ねられた青峰はというと、あー、などうーん、など彼にしては歯切れの悪い返答ばかりを寄越してきた。それは詳細を知らないからだというより、言ったら後が怖いというような反応にみえる。しかし、やはり何かは言いたいのだろう。何かを決心したように口を開けたと思えば唸りながら閉じてしまう、そのような行為をしきりに繰り返している。黒子はそんな青峰を横目でみた後、再び目を前に向ける。
そこには赤司と紫原がいた。赤司はいつも通り(それには少し語弊があるが)何かをノートに書き綴っていて、紫原はその後ろの床で正座をしている。そばには山盛りのお菓子。多分、今日はハロウィンだからクラスメイトなどにたくさんもらったのだろう。紫原が無類の菓子好きだということは全生徒が知っているほど有名なことだ。部活のときはたまに獰猛な一面を見せるが、普段はゆるく、マイペースだ。そんな姿を周りに見せているせいか、ついた呼び名は森のくまさんだ。バスケ部の人はどうだかわからないが、少なくともクラスメイトの前では害は及ぼしていないだろう。きっと好意のかたまりでできたお菓子の山は、未だに崩された形跡はない。怒っている赤司としょげている紫原。そして、多分まだ触れられていないお菓子の山。

これは、バカップルでよくある彼氏がモテすぎて嫉妬したんだ、ぷんぷんみたいな感じだと思ってもいいのでしょうか。

そこまで考え付き、黒子はため息を吐きたくなった。べつに嫉妬をするのは悪いことじゃない。理知的な思考のためか、人間らしい表情や考え方が乏しい赤司が人間らしい感情である嫉妬をすることなど、むしろ喜ばしいことだ。けれど、それと同時に少しでも心配した自分がバカみたいだなと思うのだ。とりあえず、部活の影響が出ないように、赤司の機嫌を少しでも回復させようと黒子は赤司に近づいていく。
すると、いきなりドアが勢いよくバンッと音をたてて開いた。

「くーろこっちー!!とりっくおあとりいいいいいいいっ!!?」

開いたドアから、いつもながらのハイテンションで黒子に抱きつこうとしたが、その瞬間黄瀬の顔の真横に鋭利なものがとんできた。ハロウィンでは定番の決まり文句を言っていた黄瀬は突然の攻撃で言葉は悲鳴に変わる。黄瀬がおそるおそる飛んでいった方向へと視線を向けると、壁に刺さったハサミがあった。

「黄瀬」

「は…はいっス!」

「次その言葉を言ったら、しばらくモデル業はできないものと思え」

「了解しましたああああああ!!!」

「赤司くん、さすがにやりすぎです」

「そうかな?」

「たかがハロウィンじゃないですか」

「たかが…だと?」

あ、ヤバい。地雷を踏んでしまった。

「たかが、で、敦は貞操を奪われそうになったってことかな?」

「へ?」

「ってぇか、貞操ってことはお前らまだヤッてなかったのかよ」

「なっ!」

「お前があんなにキレてたから、てっきりもうヤッて「紫原の情操教育に良くないからやめてくれないか?青峰」

「…はい」

「情操教育って…今さらなような」

「何をいっている。紫原はまだまだ子どもだ」

「赤司くん、それは勘違いです」

「は?」

「紫原くんだって、僕たちと同じ歳ですよ?思春期真っ盛りです。それに加え、君という恋人もいる。欲情しないほうがおかしいです」

「なっ…そ、んなこと…」

「じゃあ、赤司くんは紫原くんに欲情をしたことがないとでも?」

「え…う…」

「…赤ちん、俺に欲情したことあるの?」

「む、らさきばら…」

「赤司くんよく言ってきたじゃないですか。紫原くんの裸がこの頃みれな「黒子おおおおおおおおお!!!!ちょっと黙っててくれないか!!」

そういって、赤司は黒子の口を手で塞ぐ。しかし、すぐに思い出したように紫原の方に視線を向ける。赤司の想像通り、ぽかんとした表情で赤司を見ている。

「〜〜〜〜〜っ!」

「ぷはっ…たしかに襲われそうになったのはなかなか許しがたいことですが、そこまで気にしているのならいっそ襲ってしまえばいいじゃないですか」

真っ赤になって震えている赤司に黒子が塞がれていた手を口からはずし、追い討ちをかける。赤司はその言葉に涙目で黒子をにらむ。しかし、それは羞恥からきているものだとわかっているので、全くといっていいほど怖くない。

「赤ちん」

「〜〜〜〜っ!!!」

紫原は立ち上がる。それを見たとたん、赤司は羞恥のあまり部室から出て行った。紫原もそれを追いかけようとするが、その前に黒子に視線を向ける。

「ありがとね」

「いえ、いってらっしゃい」

黒子がそういって笑顔で送り出すと、紫原は(今まで見たことがないぐらい)全力疾走で駆けていった。






「…しばらくは帰って来ないに10円」

「赤司くんが腰を押さえたまま部活に顔を出すに10円でお願いします」

「えー。ローションもなんもないのに正直無理っスよー。失敗で終わるに10円」

「お前ら、部活はどうした」

「あ、魔女っ子コスの緑間くんじゃないですか」

「お前、良かったな。もうちょっと早かったら、顔面八つ裂きにされてたぞ」

「まさかのラッキーアイテムがアンラッキーアイテムになるとこだったスね!」

「とりあえず、バスケするのだよバスケ」





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