2013/06/04 16:26




 赤ちんはすっげー小さい。でも、すっげー強い。だから、黒ちんが提案したくだらない3on3だって、赤ちんが本気を出してないのなんて見たらわかる。多分、オレだけじゃなくて全員がわかってる。
 これは勝負じゃない。仲直りの一環だ。まぁ、ミドチンと仲直りする必要なんて1つもねーし、そもそもケンカなんてしてねーし。でも、それでミドチンに突っかかったのがバカみたいに思えたし、まぁ、黒ちんの想定内ということではなくても思惑通りに進んだってことになったんだろう。赤ちんの満足そうな笑みもそれを物語っていた。





 峰ちんと黄瀬ちんのケンカ、黒ちんが吐きそうになったということで、10点先取もないまま流れてしまった3on3。わざわざケンカを止めようとは思わないし、黒ちんはミドチンが面倒を見ていたから、オレは体育館の隅に置いていたお菓子を片手に、真っ先に体育館から出て行った赤ちんを追いかけた。それを見た虹村サンには早く帰って来いよと言われたけど、それは赤ちん次第だと思う。

 予想通り、赤ちんは水飲み場で休憩していた。他にも人がいると思えば赤ちんだけで、きっと赤ちんの登場に皆ビビって消えたんだろうなってなんとなく察する。
 赤ちんはすごい人だ。2年で主将ができる人なんてなかなかいない。ミドチンが赤ちんは財閥の御曹司で帝王学っていうのも習ってるすごい人だとも言ってた。そんな人が主将をやってるんだ、普通の人なら一緒の空間にいるだけでビビって逃げるんだろう。

 まぁ、そのほうが赤ちんと2人っきりになれて嬉しいけど。

 行く途中で開けたスナック菓子をバリバリ食べながら、ふらふらと座っている赤ちんの隣に行く。


「頭は冷えたか?紫原」

「別に、熱くなってねーし」

「…そうか」

 オレを見るなり開口一番にミドチンとオレの話題。拗ねるように返せば、赤ちんは微笑んで黙ってしまった。べつに、それで気まずくなったとかじゃないから、オレも黙ってお菓子をむしゃむしゃ食べる。
 そのときに、ふと前にこれでミドチンに注意されたなーとぼんやり思い出した。

「…赤ちんはさ、オレがどこでお菓子を食ってようと怒んないよね」

「オレが怒らなくても緑間が怒るだろう?」

「そうだけど。オレと2人のときも怒んないじゃん」

「紫原がお菓子好きだって知っているし、部活中や授業中に食べなければ、オレとしては自由に食べてもいいと思ってるよ」

「そうだよねー。はあ、ミドチンも赤ちんみたいにかんよーだったらいいのにー」

「緑間は真面目だからな」

「そうだけどさー。めんどい」

 それが緑間の個性だ。受け入れるしかないよ。とゆるり微笑む赤ちんは、多分それでイライラしていたオレに向かっていっているんだろう。オレはそうだねとだけ答えておいた。
 けれど、これからもきっとオレはミドチンの前だとしても歩きながらお菓子を食べるだろうし、ミドチンが突っかかってきたら言い返すだろうなとも漠然とながらわかっていた。オレとミドチンはそんなものなのだ。黒ちんともバスケ的な面であわないことが多いから、きっと黒ちんともバスケで衝突することがいっぱいあると思う。多分真面目なやつと元々から気が合わない性格なんだろう。
 赤ちんもそれがわかっている。けれど、今だけはその返答に微笑むのだ。

 その笑みはオレが従順に返事をしたから満足しているのか、それともこの先の未来を見通して嘲笑っているのか。


「赤ちんはさ、寛容な人のように見えて、実は冷たいよね」


 ぼんやりと思ったことを口に出すと、赤ちんはビックリしたような顔をするが、すぐに口角を上げて笑って見せた。

「さきほどまではその点で褒めていたじゃないか。紫原は面白いことをいう」

「べつに。ただオレから見ても、オレとミドチンは正反対の性格で確実に合わないってわかってる。でも、赤ちんはよくオレたち両方ともに付き合ってられるなって思っただけ」

「心優しい性格だとは思わないのか?」

「自分でそれ言っちゃうんだー。でも、それはないかな」

 きっぱり告げてあげると、赤ちんの目はそれはそれは楽しそうに歪められる。

 あ、この目、知ってる。穏やかじゃない赤ちんのときの目だ。滅多に見れない目だけど。

『紫原、オレはたまに赤司の目が恐ろしく思える。灰崎を退部に追い込んだ赤司は、本当に赤司なんだろうか?』

 あの日、崎ちんが退部した日…たまたま2人でいたときに吐かれたセリフ。ミドチンと同じくらい赤ちんと一緒にいることが多いオレだからこそ聞いてきたんだろう。

「本当は誰も信じてないし、誰にも期待してない。だから、ミドチンの真面目な性格もめんどくさいなんて思わないし、オレのルーズな性格も寛容に許してくれる。今はまだ自分の勝利に大事な駒だから。」

 そうでしょう?と聞くと、否定はしないと返される。

「だが、紫原。それがわかっていてなぜオレから離れていかない?」

「なんで?」

「よほどのバカではない限り、誰だって利用される駒になることを好かない。その上君はバスケが好きではないんだろう?バスケ部をやめて、オレから離れていくことのほうが賢い選択だと思うけどな。それとも、オレの本心を知って、オレにどうしてほしいんだ?」

 そのセリフにオレは思わず舌なめずりをする。
 けれど、それはまた今度。

 今は…

「どうもしないでいいよ。でも、まだオレにしか気づかせないで。オレだけの特別な顔にしてよ」

「特別な顔?」

「その冷え切った目。考え方。心のうち」

「約束はできないが、努力はしよう。勝利を得るためには非情にならざるを得ない。そのためには、どうしてもそういう考え方は出てくるものさ」

「じゃあ、ミドチンの前ではやめて」

 誠実で真っ直ぐなミドチンだからこそ理解できない赤ちんの二面性。これ以上、疑念も猜疑心も抱かせてはいけない。この誰よりも穏やかで優しい顔をしておきながら、心の奥底では冷え切っていることを知ってるのは、オレだけでいい。
 誰にも教えてあげない。

「おかしなやつだ」

 興味深そうな目で赤ちんはオレをみる。でも、オレの目的なんてきっと赤ちんも理解できない。赤ちんは誠実でも真っ直ぐでもないけど、人の心がわからない人だから。

 その答えは、また今度教えてあげるよ。

 オレがどれだけその背中を、身体を、顔を、目を見てきたか。

 帝王学では絶対学べない、心を支配する喜びを。
 支配される快感を。
 その賢すぎる脳に、小さな身体に刻み付けてあげる。


 だから、それまでは皆に優しい赤ちんのままでいてね。



 

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