2012/08/27 12:20






 ビーッ




 ブザーが体育館に響き渡る。帝光中学で毎年行われている入部した人物をどの軍に入れるかを決める試合形式のテスト。正直楽勝だと思っていた。相手チームは弱そうだし、それよりなにより、バスケ部に似合わない身長をもった人物がいたからだ。けれど、試合が終わった今の時点で、それは間違いだと気付かされた。ざわざわと周りが騒がしい。けれど、俺は目の前の人物しか目に入らなかった。

 冷えた目。さっきバランスを崩した俺は赤司征十郎を見上げるしかなかった。ありえない。俺よりずっと小さなやつがなんで、俺に勝つんだよ。バスケは所詮身長ですべてが決まるスポーツだろう?なのに、なんで。






 「俺に刃向うなど、頭が高いぞ。紫原」







 威圧感のある声に背筋が震えた。







 俺はこのときはじめて、人に対して『恐怖』という感情を知った。









 「お前が赤司に従う理由はわかったが、そこから何故こうなるのだよ」


 「えー?」


 俺は首をかしげながら、胸の中ですやすやと眠っている赤ちんを見る。誰かが来たら起こせと言われたけど、ミドチン相手ならべつに起こさなくてもいいだろう。一人で寝るときは、人が来た音に敏感に反応する赤ちんだが、俺の胸の中にいるときだけ、どんな音を出しても起きない赤ちん。俺はそういう赤ちんが結構好きだ。
 さっき、なんでそんな流れになったかは忘れたけど、ミドチンに俺が赤ちんに従っている理由(っていうか経緯?)を話した。
 入部テストのとき、俺は本当に赤ちんのようなやつが嫌いだった。小さいくせに、努力をしたら大丈夫みたいな顔をしたやつが。そんな自信に満ちた顔を今まで何回もひねりつぶしてきたし、今回もひねりつぶすはずだった。けれど、今までのやつと赤ちんは違った。逆に俺の赤ちんに対する考えがひねりつぶされたのだ。


 「今でも怖いのだろう、赤司が」


 「まぁねー。怒った赤ちんほど怖いもんはないよ」


 あのときの目を今でも覚えている。反感を許さない、王様のような目。怖い目。できれば、二度と見たくない目。



 「じゃあ、そんな人物相手に、何故そうやって抱きしめることができるんだ」



 ミドチンはわからないというような顔をしながら俺を見る。たしかに、怖い相手に普通は抱きしめることはできない。でも、俺は赤ちんに対して普通にできる。



 「んー、なんでだろうねー」



 たしかにいわれてみればそうだ。でも、どうでもいいじゃないか。赤ちんを抱きしめるのは結構気持ちいいものだし、赤ちんは怒らないし。理由なんてべつにどうでもいい。



 「まじめに答えろ!」


 「ミドチン怒んないでよ、めんどうくさいなー。んー、多分試合してない赤ちんがかわいいからじゃない?」


 怒ったミドチンが面倒で、俺は今思いついことをそのまま話す。あ、でも、これが正解かも。


 「は?」


 俺の答えの意味がわかってないのか、ミドチンは口をあけたまま固まっている。ミドチン、間抜け面ー。俺は赤ちんの髪に触る。ふわふわ、さらさら。でも、赤ちんは起きない。よっぽど疲れてたみたい。



 「赤ちんってさ、動きとか読むの超得意じゃん。でもさ、一緒にいてて思ったんだけど、赤ちん心を読むのはうまくないんだよー」



 あの日から、俺は赤ちんのそばにいた。そばにいた方が、赤ちんのいうことを聞きやすいし、怒るのは怖いけど、上手くできたら褒めてくれる。だから、そばにいたんだけど、俺はコートから出た赤司征十郎は自分の想像していた赤司征十郎と全然違うのだと思い知った。赤ちんは日常でもよく俺の行動を先読みする。だけど、心っていうか、感情を読むのは苦手みたいだ。一緒にいたいとか、抱きしめたいとかいう感情をよくわからないらしくて(俺も前までわからなかったけど)、俺の感情からくる行動や言葉にいつもいろんな感情を返してくれる。



 「俺の言葉にきょとんってしたり、笑ったり、考えたりしてくれる。そんな赤ちんがかわいい。だから、好き」



 だから、赤ちんを抱きしめたいと思う。怒ると怖くても、愛しいって感情があふれてくる。大好きだって思う。




 人に対して、こんなにも『愛しい』という感情が芽生えたのははじめてだったから。




 




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 恐怖と愛情の感情を最初にむっくんに教えたのは、赤司くんだったらいいなって!!!

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