06“男”

……真剣に聞いた俺が悪かった。警察に連絡しなくては。リビングに行こうと目の前の男を無視して立つ。
 

「あー、待って待って! ほんとほんと! 事実だから!」


しかし手をつかまれ、また無理やり座らせられる。生身の男の感触になぜだかとても恥ずかしい気持ちになった。

ああ、そうか、今俺たち裸なんだ……。ふと男の下半身に目がいきそうになり、なんとか顔を上にあげる。


「神様が、俺に『名前を付けられたら解ける魔法』をかけたんだ。つまり、環は俺の命の恩人ってわけ」
「そんな大げさな……。それに、どんな酷いことをすれば神様にそんな魔法をかけられんだ?」

「それは……内緒!そんなことより、俺、環に恩を返したいんだ。
雨に打たれる俺を拾ってくれたし、『マドカ』っていう名前も付けてくれた、環に。ねえ、だめ?」


ずいっと顔を寄せてくる。鼻がくっ付いてしまいそうなほどに近い。近くで見るとまつ毛が長く濃いのが際立つ。

俺は観念して言った。
 

「……別に、いいけど」
「まじ!? やったー! じゃあ、今日からよろしくね!」


その瞬間、マドカはぎゅうっといきおいよく俺に抱きついた。
 

「ちょっ……」


生々しすぎる肌の感触に激しく狼狽する。やばいやばいやばい……。
急上昇する体温をなんとか落ち着かせようと別のことを考えた。


「も、もしかして、うちに泊まるつまりなのか?」
「あたりまえでしょ? 俺、家ないもん!」


がっくりと肩を落とす。やっぱり、そういうことになるよな……大和さんにどう説明すればいいんだろか。
ふうと自然にため息がでた。
 
「それにしても……環」
「……なに」


いまだ抱きつかれたまま、顔の見えないマドカを睨むように見る。
 

「固くなってるよ」


マドカのその言葉を聞いて、俺はヤツの肩を勢いよく押した。

 
「……タンスの中に服入ってるから、適当に着ろよっ」


触れた肩は見た目とは違って固く、性別を意識せざるを得なかった。

マドカは、さっきまでの可愛い『犬』ではないのだと今更ながらに気づかされる。


急いで風呂場を出る。……シャワー浴びることができなかった体は、それに反してとても熱い。

体を拭いてから、出しておいたスウェットを着ると、大和さんに相談するべく外に出た。雨はいつの間にか去っていた。



……と、いうのが、さっきまでの出来事だ。
 
 



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