05マドカ

「犬が人間になった?」


大和さんはからかうような表情をした。俺は一生懸命首を縦に振る。
 

「……環、きみ、大丈夫か?」
「俺の頭がおかしくなったんじゃない、事実なんです!
さっきシャワーで犬の体を洗ってやっていたら、急に人間になって、」


その言葉を聞いて「犬がイヌになったのか、ネコのきみとは相性がいい」とけらけら笑った。
さいあくだ、と出かけた言葉を腹の中に落とす。

冗談だったらどれだけ良かっただろう。俺はさっき起きた出来事を回らない頭で思い出した。
 
 


 
「ま、マドカ……だよな?」


小さな声でそう問うと、何を言ってるんだとでもいうかのように「? うん」と返される。
 

「さっきまで犬だったような、」
「たーまき」


顔に手を当てられ、強制的にマドカと目を合わすことになった。
視界ぜんぶに中性的な男が映し出される。……すっげえ、イケメン。自然と喉が鳴った。

しかしそれを悟られないよう、なんとか意識を分散させる。


「オレが何かなんてどうでもいいでしょ?」
「よくねえよ! なんで犬から人間に……」
「うーん……説明が難しいんだよねぇ。簡単に言うと……」


ぴっと指を立てる。その動作を思わず目で追った。男にしては艶やかで細くて綺麗な指。
 

「天国で神様に魔法をかけられた」 
 

至極真面目な声色で言うマドカに、「は?」と間抜けな声が漏れた。



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