05マドカ
「犬が人間になった?」
大和さんはからかうような表情をした。俺は一生懸命首を縦に振る。
「……環、きみ、大丈夫か?」
「俺の頭がおかしくなったんじゃない、事実なんです!
さっきシャワーで犬の体を洗ってやっていたら、急に人間になって、」
その言葉を聞いて「犬がイヌになったのか、ネコのきみとは相性がいい」とけらけら笑った。
さいあくだ、と出かけた言葉を腹の中に落とす。
冗談だったらどれだけ良かっただろう。俺はさっき起きた出来事を回らない頭で思い出した。
「ま、マドカ……だよな?」
小さな声でそう問うと、何を言ってるんだとでもいうかのように「? うん」と返される。
「さっきまで犬だったような、」
「たーまき」
顔に手を当てられ、強制的にマドカと目を合わすことになった。
視界ぜんぶに中性的な男が映し出される。……すっげえ、イケメン。自然と喉が鳴った。
しかしそれを悟られないよう、なんとか意識を分散させる。
「オレが何かなんてどうでもいいでしょ?」
「よくねえよ! なんで犬から人間に……」
「うーん……説明が難しいんだよねぇ。簡単に言うと……」
ぴっと指を立てる。その動作を思わず目で追った。男にしては艶やかで細くて綺麗な指。
「天国で神様に魔法をかけられた」
至極真面目な声色で言うマドカに、「は?」と間抜けな声が漏れた。
[ 6/12 ][*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]