02犬との遭遇



「おまえ、」
「ワン!」


雨に濡れているわりに元気がいい。
特段犬に詳しいわけではないがコイツの毛色には見覚えがある。柴犬だ。


「……捨てられちまったのか?」
「ワン!」


返事をするかのように鳴く。見るからに捨て犬だが、悲観したような鳴き声でも表情《かお》でもない。
興味を持って近づくと尻尾をフリフリと振った。

……これは、クソやべぇ。

その瞳はうるうると濡れていて、俺は思わず抱き上げた。


「おまえ、すっげぇ可愛いのな!!」


顔をまじまじ見ながらそう言うと、犬は俺の顔を舐めた。
くすぐったい。でもそのくすぐったさが嫌じゃなくて、なぜだか涙がまた流れた。


「でも……ごめんな、俺アパート暮らしだから飼えねぇんだ」


通じたかはわからない。だか犬はくぅん……とらしくない鳴き声をあげた。
罪悪感に苛まれながらも箱の中に戻す。


「――じゃあ、良い人に見つけてもらえよ」


そう言い、家へ繋がる道を行こうとする。すると、犬はまた悲しそうにすんと鼻を鳴らした。

数歩歩いたところで振り向くと、途端に嬉しそうに「ワン!」と尻尾を振る。


「…………」


俺はゴクリと喉を鳴らした。




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