07悪趣味な大人

「大和さん、信じてください……」


力なくうなだれる。と、大和さんは俺の頬に手を当てた。

 
「らしくないね、環。……わかった、信じるから。私はどうしたらいいのかな」


その言葉に顔を上げる。なんて物分かりのいい人なんだろう、バックに暴力団でも付いているのではないかと疑っていた昔の自分が恥ずかしい。
 

「一緒に住もうと思っているんです」
「一緒に? いいけれど、それはまた、大胆なことをするね。なんでもやり放題じゃないか」


大和さんの思春期的な発想はたまに苦手だ。否定したいところだが、さっきのことがあるので何も言えなくなってしまう。

大和さんみたいにだらしがなくなるのはなんとしても避けたい。


「身元の保証がない男ですが、一緒に住んでもいいっスかね?」
「まさか、そんなことを気にしていたの? 真面目だなあ。そもそも大家の私がこんなのなんだ。いまさら何が言える。
……それに、男が増えるのは大歓迎なんでね。今度味見させてくれよ?」
「大和さん、最悪です」
「冗談。他人のものに手を出す趣味はないよ」


大和さんはけらけら笑った。……本当かよ、と思わずジト目になる。
 

「そんな可愛い顔されたら襲いたくなってしまう」
「可愛い? ……大和さんて、実はマゾなんじゃ、」
「そう? 私はどちらかというと、優位に立ちたいと思っているけどね」


これ以上ここにいたら貞操に危機が訪れる気がする。それだけは避けたい。

 
「承諾していただいてありがとうございました。失礼します」
「環、」


大和さんは穏やかな笑みを浮かべ俺を呼びとめた。なんですか、と掠れた声しか出ない。
 

「君は、君が思っている以上に魅力的で、美しくて、そして可愛いからね。いきがってる姿さえも愛おしいよ。
だからね、自分を低く見積もるのはそれくらいにしておいた方がいい」
「はあ、」
「じゃあ、楽しい同棲生活を」


どうやら大和さんは楽しんでいるようだった。本当に悪趣味な大人だ。

「はあ。ご忠告どうもありがとうございます」それだけ言って大和さんの部屋を出た。途端に暑苦しい空気が俺を襲う。





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