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嫌嫌の空城チロル様へ捧げます。


× Jack




この子の纏っている空気は何だろうとティーは小さく首を傾けた。目まぐるしく表情を変える、おしゃべりな女の子はアイジーという名前らしい。光に透く白銀の髪は見るものをはっとさせる。すみれの瞳は利発そうにきらりと瞬いて、とにかくよく動く。きょろきょろと落ち着きないのは、好奇心が強いからなのだろう。アイジーは、全身でこの町の彩りを楽しもうとしているかのようだった。


「ねえ、ティー、あなた、林檎の香水でもつけているの?」


アイジーが顔を近づけてくる。背の低いティーにあわせてかがむ形になり、虹の輪かがったシルバーブロンドがさらさらと音たてた。くんくんとリスのように小さく鼻を動かして、ティーの首もと近くを嗅いでいる。


「たぶん、ジャックのにおい」

「まあ。噂の天使とはそんなに仲が良いの?」

「うん」

「私もエイーゼとお揃いの匂いをさせていたりするのかしら」

「そうだとうれしい?」

「ええ、だって考えてもご覧なさいよ。大好きな人と同じ香りがするなんて、考えただけで顔が緩んじゃうと思わない? そんな香水があったら、きっと飛ぶように売れるに違いないわ」

「飛ぶの?」

「飛ぶ鳥を落とす勢いでね」

「そんなに」

「ふふ、そんなに素敵よ」


アイジーは歌うような話し方をするものだから、耳がくすぐったい。形の整った唇は品の良い笑みを浮かべて、瞳はいきいきとしている。これが女の子というものなのだろうか。ティーにはわからない。自分とは違う世界の住人のようにも感じられる。それでも、そばにいて居心地が悪くないのは、アイジーに、どことなくさみしい影が寄り添って見えるからだろう。それほどまでに、この少女は孤独の色が濃いのである。人はみんなそれぞれ持っているものだけれど、アイジーのは特にその色合いが複雑に折り重なってみえた。


「アイジー」


美しい音色の名前。情緒に富んだ、可愛らしい女の子の名だ。名付け親は語感の才に恵まれているのだろう。舌が震える音の心地良いことときたら、抜けるように爽やかだ。


「素敵だね」


その心の美しさを褒めたつもりだった。彼女と比べれば表現力が遙かに劣るであろうティーにとって、それは思いつく限り精一杯の賛詞であった。拙くも気持ちは伝わったらしい。アイジーはにっこりと笑って、揃いに整った白い歯を見せた。


「さあ、天使を見つけに行きましょう。私のかたわれの天使もきっとそこにいるはずだから」


そうして少女たちは歩みだした。











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