jack | ナノ





腹からの夥しい量の血にぼんやりと自分の死を感じた。噛み締めていた歯を薄く開いて、深呼吸を繰り返す。確認したが、傷はまともな形をしていなかった。その裂傷は酷いもので、本来見えてはいけないものが見えていた。切り開かれたところからどくどくと血が止まらない。少し先に病院があるのは知っていた。けれど、堅気でない人間が入って良いところではない。脂汗が浮かんだ額を袖で拭いながら、何とか立ち上がった。闇に染まった路地は細く、果てしなく長く続いているように思えたが、闇深い方へと歩く他なかった。



こうしてやっと家のエレベーターまで辿りついたは良いが、あれからどれくらいの時間が経ったのかわからない。シャツから靴下まで血でぐっしょりとしているのが気持ち悪かった。腹を抑えていた手も真っ赤に染まって濡れている。震えた指先でボタンを押す。べったりとついた生々しい跡がついたが、構っていられなかった。血が止まる様子がない。寒気が引かず、今にも力が抜けてしまいそうだった。


「ジャック………?」


扉が開くと、部屋の前にティーが体を丸めて座っていた。俺を見て慌てて駆け寄ってくる。長い睫毛に縁取られた青い瞳は涙で濡れていた。白く細い腕が伸びてきた。それを避けるように壁に体を預ける。


「俺、死ぬかも」


それっぽく言えば、ティーの目から大粒の涙が溢れ出した。泣き面を見ていたらからかってやりたくなっただけだったのに、ティーは馬鹿みたいに激しく頭を横に振った。「死んじゃ、やだ」と何度も何度も繰り返して、縋り付いてくる。いつの間にか、白かったはずのその腕は毒のような赤に塗れていた。


「ティー」


小さな体を抱き寄せるが、体温を感じなかった。


「あいつに、連絡しろ」


さっさと終わりにしたい。満身創痍の体はもう限界だ。血みどろのティーを置き去りにして、俺はゆっくりと目を瞑った。






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