夢幻 番外編 | ナノ


月夜が辺りを照らす静かな夜。お風呂を済ませて部屋に戻った私は、枕元にある行灯の灯りに頼りながら、テツヤさんおすすめの本を読み耽っていた。枕に顎を乗せて少し古びた本のページを黙々と捲っていく。すっかりはまってしまい、しばらく物語の世界に没頭していたのだが、暖かい布団に入っているとどうしても眠気が襲ってくる。睡魔には勝てず、枕に顔を埋めて眠りにつく直前、何かが布団の中に侵入してきた。素足にふわふわとした柔らかい動物の毛並みを感じ、驚いて布団の中を覗くとそこには。


「赤司さん…?」

「僕も一緒に寝る」


なんと子狐に変化した赤司さんが潜り込んでいるではないか。彼は布団の中をもぞもぞと移動して私の胸元まで来ると、頭を押し付けて甘えてきた。か、かわいい…。私が子狐姿に弱いと知ってから、彼はこうして布団に潜り込むようになった。いじらしいその姿につい甘やかしてしまいたくなるが、相手は紛れもない赤司さんである。騙されては駄目だ。


「もう…いけませんよ、きちんと自分のお布団で寝ないと」

「いやだ」


彼は私の胸に顔を埋めるのが好きらしく、毎回胸元に擦り寄ってくる。人の姿だったらこんな事は容認しがたいが、今の赤司さんは小さな子狐で何でも許してあげたくなるくらい愛らしいのだ。その可愛さを武器に使うなんて狡い。


「赤司さんは妖怪ですし、夜は眠くないでしょう?私に合わせなくても…」

「ちょうど眠くなってきたから問題ない」

「本当に眠たいんですか?その割には元気ですよね」

「…別に一緒の布団に入るくらい良いだろう」


彼は私の布団に居座る事を決めたらしい。私は諦めのため息をついて、胸元でモコモコと動く赤司さんを撫でた。頭を撫でている間は目を瞑って満足そうにしていたが、私も眠気がピークだった為、気が付いたら手が止まっていた。すると、彼はもっと撫でろと言わんばかりに頭を押し付け丸い瞳でこちらを見上げてくる。


「もう終わりか」

「赤司さん…私、もう眠いです。寝かせてくださいよ…」


うとうとし始めた私を起こそうとして、赤司さんは顔をペロペロと舐めてきた。安眠妨害もいいところだ。眠気が勝ってしまい、私の顔を舐める赤司さんを手で阻み背中を向ける。すると、私の素っ気ない反応に諦めたのか、彼は何もしてこなくなった。これでようやく眠れる、と安心した瞬間、凄い力で体を仰向けにされた。


「僕を無視するなんて…いい度胸じゃないか」

「えっ!?あ、赤司さん…」


私を見下ろし妖艶に笑うのは人型に戻った赤司さんだった。九本の尾が愉快そうにゆらゆら揺れているのが見えた。月に照らされた彼は息を飲むほど美しく、女性なら誰もが見惚れるだろう。だが、彼は私に見惚れる暇すら与えずに腕を押さえ付け頬に軽く口付けを落とす。近い距離にある綺麗過ぎる顔に眠気なんてものは一気に吹き飛んだ。


「な、何するんですか…!やめ…っん」


キスで唇を塞がれたかと思うと、抵抗する間も無くそれは深いものへと変わった。手首を掴まれて布団に押し付けられているので逃げられない。キスは赤司さんの愛情表現の一つだ。九尾の姿をしていようが人型だろうが関係なく私に口付けをしたがる。きゅっと目を閉じ、赤司さんには敵わないと彼に身を委ねた。角度を変えて数回口付けを交わした後、ようやく唇が離れた。


「…君は温かいな。抱いて眠るのに丁度いい」

「む、私は抱き枕じゃないですよ…」

もう満足したのか、赤司さんは私を引き寄せ眠る体勢に入った。彼に優しい手つきで背中を撫でられ、だんだん瞼が重たくなってくる。子供を寝かしつけるのはこんな感じなのだろうか。前までは好きな人の隣で眠る事がこんなにも安心するなんて知らなかった。そっと赤司さんの胸に寄り添い、その心音に耳を傾ける。どくん、どくん。それは確かに生きている証を刻んでいた。


「大好き、です…」


赤司さんの匂いに包まれながら、眠りの世界へと誘われるように目を閉じた。彼が穏やかな表情で私の寝顔を眺めていたのは知る由もない。

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