夢幻 番外編 | ナノ


欲しいものができた。それは金でも地位でもなく、笑顔の可愛い人間の女の子。でも彼女には素敵な恋人がいて、俺なんて全く見ていない。


「涼太君、私そろそろ帰らないと。征十郎さんに怒られちゃう」


ほら、また君はそうやって。男の家に上がり込んでただで帰れるとでも思っているなら大間違いだ。夜に出歩きを禁止されている名前っちの為に、わざわざ朝の時間帯に合わせて彼女を自宅に招いた。俺の想いを知らない彼女は、家に来ないかという誘いに笑顔で頷いた。本来なら妖怪は朝に眠るので昼間は眠気が襲ってくる筈なのだが、目の前に好きな女の子が居るかと思うとそんなものは吹き飛んでしまった。しかし、楽しい時間はすぐに過ぎてしまうもの。大好きな彼女がまた他の男の元に戻ってしまう。嫌だ、まだ側にいてほしいのに。


「まだ夕方っスよ?」

「もう夕方、です!暗くなると妖怪が活発になるし、今帰らないと本当に帰れなくなっちゃう…」

「…じゃあ帰らないで泊まっていけば良いじゃないスか」

「そんな事したら余計征十郎さんに叱られちゃうでしょ!また来るから我が儘言わないで」


泊まりの誘いをあっさり断ると、彼女は帰り支度を始める。このままでは彼女が帰ってしまう。気が付けば俺は彼女の腕を掴んでいた。


「ちょ…涼太君?」

「帰さないっスよ」

「え?」

「俺、名前っちが好きだから。帰らないでほしい」

「…私も涼太君が好きだよ。また来るから。ね?」


困ったように眉毛を下げた彼女は、宥めるように俺の頭を撫でてくれた。彼女はいつも俺の告白を受け流す。俺の“好き”を友人としての好きと勘違いしているのだ。欲しいのに、本気で彼女が好きなのに。何もかも奪って自分のものにしたい。俺よりもずっと小さな背中を後ろからぼんやりと眺める。それは庇護欲を掻き立てると同時に滅茶苦茶にしてやりたくなる衝動に駆られた。触れられる距離に居るのにいつまでも我慢をしている自分が馬鹿らしく思えた。


「…ごめん、名前」

「涼太君?きゃっ!」


無防備な彼女を畳に押し倒して、抵抗出来ないように馬乗りになった。急な出来事に、名前は目を見開いて固まっている。ああ、そのまま俺だけを見ていてくれたらなんて幸せなんだろう。ゆっくりと首筋をなぞると、怯えたような小さい悲鳴が上がった。可愛い、今だけは全部俺のものだ。


「はは…俺、赤司っちに殺されるっスね」

「ま、待って、どうしたの?」

「名前が悪いんス。俺は本気なのに、いつもいつも…」

「ね、ねえ…冗談だよね…?やめよう、こんな…」

「っ…はぐらかすなよ!」


ぎゅっと肩に力を込めると、痛かったらしく彼女の表情が歪んだ。俺を見上げた彼女は涙目になっており、体は恐怖心からか小刻みに震えていた。


「そんなに怯えなくても大丈夫っスよ。いずれ赤司っちが助けに来るだろうし。そうすれば名前は俺から解放されて、俺は赤司っちに殺される」

「や、めて…!いや、そんなのいやっ…!」

「ただ、助けが来るのは俺に犯された後になるけど。ほら、そんな弱い力じゃ逃げられないっスよ?」

「や、お願い…!だめ!」


帯を手早くほどいて力任せに彼女の着物を開く。もう後戻りは出来ないし、するつもりもない。否定の言葉しか吐かない彼女の唇を強引に塞ぐと、全てを諦めたかのように体から力を抜いた。初めて触れた彼女の唇は想像以上に甘く柔らかだった。


「今から名前を抱くから」


名前の頬にはいくつもの涙の跡があり、見ていて痛々しいが彼女の体を這う手は止まらない。ごめん、ごめん名前。でも、泣きたいのは俺の方だ。
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