扉を開けるとそこは禁断の園でした。
……うん、ただこのむさっ苦しい現状を忘れたかっただけ。

真耶さんの家にお邪魔し、向かった先は道場。
わかっていた事だが、女のおの字もない。
このむささと言ったら、……うん、考えるのよそう。
此処はどうやら、古武術を教えているらしい。
母さんが師範代、つまり真耶さんの夫さんに俺の稽古の話をしたようだ。
その母さんと言えば今は、真耶さんとティータイムを楽しんでいる。

「室由夏です。宜しくお願いします。」

そう師範代に頭を下げると、急に頭が重くなる。
そのままわしゃわしゃと犬でも撫でるように、師範代の手が俺の頭を往復した。

「由夏君は私の息子と同い年だったね。息子にも先月から、教えているんだ。仲良くしてやってくれ。」

そう言い、にこりと笑う姿は息子を愛してるという気持ちが全面に出ている。
俺はその姿に好感を持った。

「いえ、私こそ仲良くしてもらえると嬉しいです。」

そして自分でも気づかない間に、師範代の前では普通に喋っている。
それをさして気にしていないのか、気づいていないのか、師範代は指摘しない。
そんな些細な事が嬉しいなんて、俺はどうやら心まで幼児化しているのかもしれない。
二人で話していると、こちらに向かって小さな男の子が歩いてきた。

「お、」

それに気づいた師範代は男の子に手招きし、呼ぶ。

「由夏君、先程話していた息子の若だ。若、挨拶しなさい。」

近寄ってきた男の子は、師範代の足にしがみつきながら、こちらを見ている。

「ひよ、し、わかち…。2しゃい。」

滑舌がまだ発達していないのだろう。
男の子は、少し言い難そうに名前を述べた。

「私は室由夏。宜しくね、若。」

彼に微笑みかけながら、その名前が引っ掛かる。
どこかで聞いたことがある気がするのだ。
彼の名を。

「由夏、ちゃん?」

「何、若?」

彼に呼ばれ、思考の海から現実に戻った。
危ない、周りが見えなくなる程考えすぎは良くないな。

「しはんが、よんでるよ?けーこしゅるって。」

「わかった。」

二人で師範代の下へと駆け寄る。
これが後に口喧嘩し合うようになる、幼なじみとの出会いだった。



出逢いは突然にして必然






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