自分が"俺"として認識できたのは、"私"が一歳の時だった。

何度も映画を見るかのように頭の中に流れる映像。
最初こそ分からなかったが、それは確かに俺の記憶だった。
俺のツマラナい記憶。
人生を石に例えると、芸能人や社長、そういった人を宝石だとするなら、俺の人生はそこらの石ころだ。
代わり映えしない、そこらを向けばどこにでもある石。
そんな石ころな俺が、何故こんな目に合っているのだろうか。
思い出した記憶を何度も何度も見返しても、俺の最期は映されていない。

どうして、何故。
ありきたりな言葉が浮かんでは消えていく。
思考はぐちゃぐちゃに混ざり合って、どうしていいのか分からない。

不意に頬が冷たいことに気づいた。
頬が冷たくなるのに比例して、目蓋はどんどん熱くなる。
自分が自分で分からない。
呆然としていると、急に暖かいものに包まれる。
それは若い女性だった。

「由夏。」

ただ自分の名前とおぼしき言葉で呼ばれただけ。
ただ自分の体を彼女に抱きしめられただけ。

それだけなのに俺の狂った感情は、堰を切ったかのように溢れだした。

「…ぅ、うあああぁあぁあぁぁ!!!!!!」

彼女はそんな俺を怒るでもなく、悲しむわけでもなく受け止めてくれた。
俺はそんな彼女を、いや母さんを守る為に生きたい。

それは私になって、初めての誓い(カンジョウ)だった。



些細な戒律






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