テニスは"俺"の頃、中学高校大学と続けていた物だった。
俺に対しての執着はないが、テニスは今でもやっぱり好きで仕方ない。
それを笑顔でさせてくれる母さんが、俺は大切で大好きだ!

あれから俺は、毎日好きなことに明け暮れる生活を送っていた。

「はぁ!」

「若!」

断続的に響く打撃音。
今は砂利道で若とラリーをしている。
返球はノーバンかワンバンで100回まで連続させる。
止めた方には罰ゲームをする。
そういうルールでやるラリーは一見簡単なようで難しい。
砂利道なので高いコントロールが必要だし、走り難い場所でボールを追いかける体力も必要。
テニスの能力を上げるのには絶好だ。
そして罰ゲームは、

「由夏、いったぞ!」

「っ、うわっ。」

若の声に、俺は腕を伸ばす。
ボールはラケットのトップに掠り、飛んでいった場所は若の逆方向だった。

「…やっちゃった。」

「罰ゲームだな由夏。」

「くっ…!1、2、3――」

そう罰ゲームとは、50回ずつフォアとバックの素振りである。
これが結構4歳児には辛い。
けれど勝敗を決めることで意欲は上がるし、素ぶりは何回しても損にはならない。

「はっ、ふぅ…疲れた。」

「今日はもう遅いしそろそろ帰るか。」

青に赤が混じり始めた空を見て、若が言う。
腕時計を見るともうすぐ5のところに短針が向かう。
俺は頷き、若に手を振った。

「ばいばい。」

「またな、由夏。」

若と別れ、帰路を辿りながら今日の晩御飯を考える。
母さんの得意な肉じゃがだろうか、それともよく作ってくれるハンバーグか。
少し甘めな母さんの料理は、俺の好みに合う。
それにほわほわした母さんらしい。
そう考えていると歩くスピードは速くなっていく。
今日も今日とて俺の生きる理由は母さんなんだと改めて思った。


幸せだった。
打ちこめる物があって、それを共有できる友がいる。
そして何より母さんがいた。
"俺"の時では想像付かないほど、毎日が充実していた。
幸せだった。……幸せすぎたんだ。
俺はその幸福が続くと疑わなかった。

数ヵ月後、母さんは死んだ。
奇しくも、その日は私の5歳の誕生日だった。


反転する世界






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