カツンとヒールの音が鳴る。人通りが絶えることのない地下鉄。
そこの改札口を出た所で私は携帯を弄りながら、予定の時間がくるのを待っている。
何時もならギリギリでくる私なのだが、久々に会う友人に心踊らせ、待ち合わせの15分前に折り合う場所に着いてしまっていた。
携帯に表示された文を黙々と読む。
ふと、私と携帯との空間に人の手が差し込まれる。
その手を辿り相手を見ると、私が待っていた友人がそこにいた。

「おはよー。」

と少し気の抜けたような眠そうな声で彼女は言う。
それに私は、

「はよ、眠そうやね。」

と苦笑混じりに返した。
そんな他愛もない話を続けながら、目的の場所であるカラオケボックスへと私たちは足を動かす。

そんな時、バイヴ音が微かに響いた。
どうやら友人の携帯が発信源のようだ。

「ちょ、ごめん。」

そういうと彼女は2つ折りの携帯を開き、メールを確認する。
その時、暇な私は辺りをキョロキョロと見、時間を潰していた。
ふと、先程まで聞こえていたピコピコという機械音が止んでいることに気づく。
どうしたのだろうかと友人を見やると、目を見開き呆然としている。
何事かと頭上に疑問符を飛ばしていると、彼女が

「ね、ちょ、これ見て!」

と少し興奮気味に私に彼女の携帯を押し付けた。
訳が分からず、ただ彼女と携帯に交互に視線を送る。

「ほら、メールの内容ようみて!」

友人にそう急かされ、私はメールの内容を見始めた。

「……えーっと、『おめでとうございます。貴方は厳正なる抽選によって選ばれました。よって、貴方には異世界旅行権をお贈りいたします。下記項目にお答えし、返信していただければ完了となります。要望、質問などございましたら備考欄をお使いください。返信、心よりお待ちしています。 by.(株)シンムキョウカンパニー』…………………はぁっ!!?」

何だこの怪しいメールは。
何処からツッコミを入れればいいか判らず、携帯を片手で持ち、それにより空いた左手を額にあてた。

「あのさ、これ……」

何かを言おうと私は口を開いたが、軽快な音にそれを阻まれる。
それは聞き慣れた自分の携帯の着信音。
まさかと思いつつ友人に携帯を返し、自分の携帯を鞄から取り出し確認すると、

「うっ、わぁ〜……」

そこに表示されたのは見覚えがある、というか先程まで眺めていた文章が全くそっくりそのまま届いていた。

「凄いよね。こんなん作る暇人いるんやねー」

と何でもないように笑う友人。

「いやいや、笑い事じゃないっしょ。なんでメアド知られてるん。うちのメアドは偶然では送れんようなアドやで?しかもタイミングよすぎ……どっかから見てる?」

疑問点を口に出していく。私の言葉を聞くと、友人は困惑した表情になる。

「確かに、おかしいよね。うちたちが一緒にいるの知ってるみたいなタイミングやったし……」

友人の声色が暗くなった。それに気づいた私は、

「まぁ、そんな考え込まんでもいいやん。面白そうやし返信しよか。」

シリアスな雰囲気をぶち壊してみた。←

「ちょ、えぇ?疑問持たせた張本人やのに、ノリ軽っ!ってか、うちも返信する事決定!?」

「うちやからな。因みに拒否権は存在しない。」

「何かその一言で納得してしまう自分がいる…。わかった、うちも返信する。」

数回の会話でぐったりしたような友人を一瞥し、携帯に視線を戻した。
項目に、目を通す。
名前、性別、行き先、時間軸、到着時の年齢、そしてトリップ後私たちが困らないように、と3つの願いを叶えてくれるそう。
これらを埋めなければいけない。

「名前って実名かな?」

「いや偽名にすべきでしょ。もしこれが単なる悪戯なら実名の流出は避けるべきだし。(まぁ、名前なんて今時ネットで調べることは簡単だけど)」

「何か今聞いてはいけないことが聞こえた気がする…。」

「ま、何かあればメアド変えればいいし。」

そんな感じで私たちはそれぞれ答えていった。
5分後、私と友人はそれぞれ項目を埋め終える。内容は以下の通りだ。


友人
[・名前(フリガナ)→雪城 刹那(ユキシロ セツナ)
・性別→女
・行き先→テニスの王子様
・時間軸→原作開始の二年前の3月半ば
・到着時の年齢→12歳(小学校卒業後)
・願い事→*平和な家庭
     *テニスの能力値を上げる(キャラと対戦してもケガをしない程度に)
     *キャラと幼なじみ
・備考欄→特になし。]


[・名前(フリガナ)→廣瀬 煌(ヒロセ コウ)
・性別→女
・行き先→テニスの王子様
・時間軸→原作開始の二年前の3月半ば
・到着時の年齢→12歳(小学校卒業後)
・願い事→*裕福な家庭
     *努力分、能力があがる(限界がない)
     *男体化可能
・備考欄→特になし。]


「送ったぁー。」

友人が一仕事を終えたかのように言う。
私たちはそれを送信し終えると忘れかけていた当初の目的である、カラオケへと向かった。


時間は経ち、カラオケと食事を思いっきり楽しんだ私たちは駅へと歩く。
他愛ない話をしていると改札につき、私たちはそこで別れた。
家につくと風呂に入るのが面倒で、軽くシャワーで済ます。
眠くて仕方ない。
久々に騒いだからだろう。
布団につくと急速に意識が絡めとられる。
あー寝るな、コレとどこか他人事のように感じた。
思ったより、疲れていたのだろうか。
早急な眠りに私は身を任せる。


――変なメールの事など頭の片隅にも残っていなかった。



ピピっと電子音が聞こえる。
寝ぼけ眼で近くにあった携帯を掴みボタンを押す。
電子音は止み、携帯はアラーム画面から待ち受けに戻った。
それを確認し、起きるために布団から這い出ようとして気づく。
私が寝ているのはベットだった。
おかしい。
私は確かに自分の布団で寝たはずだ。
布団がベットになるなんてどういうクラスチェンジだ。

ハッとし、私が寝ていた部屋を見渡す。

「どこ、ここ……。」

その言葉に返事は返ってこなかった。



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